失恋から始まる恋もある


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《四十章》「不安定な心」



 起きたらお昼前でびっくりして奈津美は飛び起きた。
「蓮!?」
 横に寝ていたはずの蓮がいない。手探りで布団の中を探すけど、いるわけがなく、部屋の中にもいなくて、パニックになった。
「やだ……」
 涙が出てきて止まらなかった。
「ただいま……。奈津美!?」
 外から戻ってきた蓮は、ベッドの上で泣いている奈津美を見て、焦った。
「な、なに? どうした?」
 蓮はあわてて奈津美のところに行った。
「奈津美……?」
 ぽろぽろと涙を流して泣いている奈津美は、蓮に気がついてない。蓮はそっと奈津美の頭をさわった。びくり、と身体を震わせ、泣きぬれた顔をあげ、蓮を見た。
「れ……れ…ん?」
「奈津美、ごめん」
「蓮、いた……」
 奈津美は蓮に抱きついて、号泣した。
「いなくなったかと思った……!」
「よく寝てたから、起こすの悪くて。……ごめん」
 奈津美が泣き止むまで、蓮はずっと奈津美を抱きしめ、髪を撫でていた。
「ごめんね、蓮……」
 ようやく落ち着いた奈津美は、涙を拭きながら言った。
「半分寝ぼけてた……」
「ほんと、ごめん」
 寝る前、あんなに不安がっていたのに、うっかりしていた。
「落ち着いた?」
「うん」
 蓮は奈津美を立たせて、
「着替えたら、ご飯にしよう」
 奈津美は着替えた。
 着替えている間に年末に準備していたお節料理やお雑煮がテーブルに並べられる。
 奈津美は席についた。蓮も準備が済んだらしく、席についた。
「改めて、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
 蓮の言葉に奈津美は頭を下げ、
「こちらこそ。あけましておめでとうございます。新年早々色々すみません……。今年もこの調子だと思いますが、よろしくお願いします」
 蓮は奈津美の言葉に笑った。
「さっき、外に年賀状を取りに行ってきたんだよ」
 テーブルの端に束になった年賀状が置いてあった。
「やだ、私……」
 奈津美は赤面した。ほんの少しの時間だったのに、あんなに乱れて恥ずかしい。
「奈津美のかわいいところを見られたから、いいや」
「うー」
 ふたりはお節とお雑煮を食べた。
「この餅、美味しいな」
 お雑煮に入れたお餅を食べて、蓮が喜んでいる。
「でしょ? おばさんのお餅、美味しいの」
 他愛のない話をしながら、ふたりは時間を共有した。
 お正月休みはずっと蓮のところで過ごした。
 奈津美の母にふたりで来なさいと言われて少し奈津美の家に行ったのと、初売りを冷やかしに行ったくらいは外出した。あとはスーパーに買い物に。

   *   *

 あっと言う間に休みは終わり、会社では結婚の報告をしたりとばたばたしていた。
 残業のない日は蓮の家で一緒に料理をしてご飯を食べてから家に帰る生活。
「早く一緒に住もうよ。面倒だよ」
 奈津美はご飯を食べながら蓮に文句を言った。
「うん、オレもそう思ってた」
 土曜日に物件を探しに行くことにした。賃貸を見てまわったけれど納得行くものがなかった。
「仕方がない、買うか」
「は?」
 奈津美の言葉に蓮は目を点にした。
「買う? なにを?」
「新居。マンション」
「金は?」
 奈津美は通帳をバッグから取りだし、蓮に見せた。
「なにこれ?」
「私の貯金」
「金額が桁違いなんですが」
 奈津美はふっと笑って、
「趣味は貯金」
「マジ?」
 学生の頃からずっと貯めていた貯金。こんなところで役に立つとは思わなかった。
「マンションもメドがたってるの。明日、仕事帰りに見に行こう」
「はやっ」
 マンションは色々見てから買えとその手の雑誌には書いてあるけど、ふたりはひとつ目で即決した。
 会社から徒歩5分。立地は文句なくよい。間取りも気に入った。
 値段は気に入らなかったが、立地を考えたら安い方かもしれない。頭金は奈津美の貯金から出し、足りない部分はローンにした。
「なんか、あっさり」
 引っ越しを終え、ようやくふたりの生活となった。


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