愛から始まる物語


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アルカイク・スマイル09



゜。°。°。°。°。°。°。

 その夜、文緒はいつも以上に積極的で、正直、困った。いえ、うれしいんですけどね。俺もぼちぼち歳、なんですよ……。若さあふれる文緒と違って。
 気がついたら、裸のままで文緒と抱き合うような形で眠っていた。うっわー、このパターンも久しぶりだ。
 そういえば……なんか夢にあの双子の仏像が出てきたような気がした。
 あの人間離れした、だけど見ているこちらに自然と笑みをこぼすような不思議な笑顔をこちらに向け、『待っててね』みたいなことを言われたような気がする。なにが待っててね、なんだ?
 目が覚めて、文緒にその話をしたら、

「言われて思い出した。昨日、寝ていたら……夢にあの子たち、出てきたよ。『お母さん』なんて言われていてあせったんだけど」

 なんだそりゃ? 文緒がお母さん?

「目が覚める前にもそういえば、あの子たちの夢を見たような気がするよ。なんかね、睦貴があの双子の仏像を抱っこしてあやしている夢」

 うわっ、なんだそのホラーな夢。怖いって。

「やんちゃな男の子ふたり、だったなぁ」

 という会話が、実は未来を示唆していただなんて。

 休みに帰ってきた柊哉と鈴菜の四人プラスお腹の中の人、で家族会議を開いたらしい。アキは終始、ムッとした表情で口を開かなくて困ったわ、と智鶴さんが笑っていた。
 どうやら、智鶴さんが柊哉と鈴菜のふたりに事情を説明したらしい。
 柊哉は最初、戸惑っていたらしいけど、柊哉自身も高屋であることにずっと違和感があったようで、最終的には二つ返事で合意したらしい。思ったよりあっさり、だったな。

「睦貴、ほっとした顔をしているな」

 だって、柊哉は辰己になるんでしょ? 柊哉が敬愛している深町さんに仕事を教えてもらうんだろ? ということは、俺は柊哉に仕事を教える、という究極の罰ゲームから解放される、んだろ?

「甘いな。深町は辰己の家のことで手いっぱいだ。あの馬鹿、新事業をやろうとしているらしいし」

 うわー、なんか極秘情報、漏らしていいの? しかも深町さんもライバルの兄貴にそんなこと、話しちゃってるの?

「ビジネスの基礎はおまえが柊哉にたたきこめ」

 えー。敵になるやつに教えるの?

「敵に塩を送った上杉謙信の話、知っているか?」

 一応。

「それに、あいつは向こうの人間になるかもしれないが……俺の息子だし。ビジネスの基礎も分かってないようなやつを送り込むなんて、俺のプライドが許さない」

 とは言うけど、息子かわいさ、なんだろう? この様子だと、孫なんてできた日には、あの馬鹿親父以上にでれでれになりそうだ。

 帰ってきていた柊哉を無理やり捕まえ、まだ文緒のことを諦めてないのか、と問いただしたら。
『なに? おっさん、文緒をオレにくれるのか?』
 とかとぼけたことを言ってきたので、文緒は物じゃない! と怒っておいた。
 まったくきいてなさそうだったけど。
『京佳、オレのことが好きみたいだし。別にいいけど?』
 と言っているけど、照れ隠しだな。
 おじさんは知ってるよ、京佳のこと、実は好きだったんだろう?
 だけど、高屋と辰己の家の仲の悪さ、だとか、自分は高屋の後継者で、京佳も一人娘、というのを考慮して、文緒で手を打とうとしていたんだろう?
 そういうところは高屋ではないな、明らかに。
『大学を卒業してきたら、おまえのこと、どこに出しても恥ずかしくない一人前の男に仕立て上げてやるから、泣きごと言うなよ?』
『ニートでヘタレなおっさんにそんなこと、言われたくないね』
 ほー。いいこと言ってくれるな、柊哉。どうなるか……本気で覚悟しておけよ?

 そんな会話を交わし、柊哉の卒業が見えてきた頃。

「あのさ、睦貴」

 歯切れの悪い文緒に、首をかしげて続きを促す。

「なんかね、子どもが……できたみたいなの」

 ……………………はいっ?

「私、生理不順で、なかなか来ないけど気にしてなかったんだけど、どうも最近、変な夢ばっかり見るから気になって検査したの」

 はぁ。不順って、病院に行くとかしろよ、文緒も……。ああ、そんなことも気がつかない冷たいだんな、ってことか?

「そうしたら、陽性だったのよ!」

 ええええ、えっと。す、素直に喜んで、いいの? いや、ものすっごく嬉しいんだけど。
 文緒の表情を見ていると、どういっていいのか分からなくて。

「文緒、ありがとう」

 とにかく、うれしくて。文緒をギュッと抱きしめ、一番思っている気持ちを伝える。

「素直にうれしいよ。本当に、ありがとう、文緒」

 俺のその言葉に、文緒は急に泣き出してしまった。
 えっ、ちょっと待って。なんでそこで泣くっ!?

「だって、だってっ! うれしいの」

 うれしいのなら、泣くんじゃないっ!

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