愛から始まる物語


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馬鹿は死んでも治らない!?11



 しかし……驚いた。あれほど絶望的に不器用だった文緒が、俺より上手に包丁を使っている。いつの間に……?

「蓮に特訓してもらったのよ。私もやる気になればこれくらいは朝飯前よ」

 それはもしかして、今までやる気がまったくなかった、ということ?

「睦貴のために一生懸命練習したんだから!」

 やばい……。文緒がこんなにツンデレだったなんて。いや、蓮さんもツンデレだしな、その娘の文緒がツンデレじゃないわけない。もうそれだけでご飯三杯くらいいけそう。

「睦貴、きちんとしたもの食べてた?」

 いえ。適当に食べてました。おかげさまで……ええ、下っ腹ぽっこり、ですよ。

「せっかくかっこいいのに、中年体型は許さないからね!」

 お屋敷を離れて知る、ありがたさ。栄養管理もきちんとしてくれていたし、掃除も洗濯もしなくてよかった。衣食住、どれも心配しなくてのほほん、と暮らせていた。それがもう、アメリカに来たら全部自分で、でしょう? もう、無理無理。環境がまったく違う。そもそも文化がまったく違うから、俺は戸惑う。それに英語はそれなりに分かっていたけど……やっぱりビジネス英語は普通の会話とは違うんだよね。
 とにかく、慣れるまでへとへと。帰って自炊、なんてするわけないから適当に買ってきて食べていた。
 ほんと、日本ってすごいよ。あまり縁がなかったけどコンビニに行けばそれなりに揃うし、スーパーに行けば食材もお惣菜も豊富だし。その点、こっちは日本の便利さを知っていたらもう不便で不便で。何度、日本に帰りたくなったことやら。
 だけどそれも三か月くらいで諦めと慣れとでどうでもよくなってきた。
 勝手が違いすぎて仕事は大変だったけど、いろんなことを忘れるにはちょうど良かった。
 自分の名前を署名する度に

「俺って文緒と結婚したんだよな」

 ということを確認するくらい。
 文緒から手紙もメールも来ないのはさみしかったけど、逆にそれはよかったかもしれない。何度か文緒に手紙を書こうと便箋を手にとってみたけど、今更なにを書けばいいのか分からず、結局は書かなかった。
 文緒は手際よく料理をして、テーブルに並べていた。俺も手伝ったけど、ほとんど足手まとい状態。なんだろう、文緒に逢わない間に俺、いろんなものが退化してしまったようだ。だけどこの変態思考はさらにパワーアップしているんだよな。あーあ、俺、文緒から三行半をつきつけられたらどうしよう。
 並べられた料理を恐る恐る口にする。

「……美味しい!」

 懐かしい蓮さんの味に似ていた。目から汗が出ても許してくれ。泣きながら食べている俺をあきれたような表情で見ている。
 つらかったんだよ、この四年間! 電話で蓮さんの声を聞くたびに泣きそうになったよ。って、なんで俺、こんなに蓮さん恋し、になってるんだ? また奈津美さんから嫉妬されてライダー・キックをお見舞いされてしまうじゃないか。
 ……いや、それはそれでいいんだけど。むしろそうしてほしい!
 ……久しぶりにこういう感情を思い出し、ちょっと暴走気味だ。落ちつけ、俺。
 文緒が作ってくれたご飯を食べ、幸せいっぱいの俺。
 シャワーを浴びて来るように言われたけど。

「あの、着替えは?」

 クローゼットからばさばさ、と新しい男物が出てきた。ま、まさか?

「勘違いしないように言っておくけど、これは全部睦貴のものよ!」

 先にくぎを刺された。それにしても、この準備周到なところ……。ますます蓮さんだ。
 シャワーを浴びてさっぱりしたら文緒が入れ替わりでシャワーに入っていった。
 うふふ、ここで文緒、寝てるのか。俺は文緒のベッドにごろん、と横になった。気持ちいいな~。……と思ったら、俺はそのまま寝てしまったらしい。もったいない。

   *   *

 ふと目が覚めた。俺、いつの間に寝ちゃったんだ?
 なにげなく寝返りを打ち、隣にだれかが寝ていて俺は驚いて飛び起きる。
 うをっ! 俺、ついにやっちゃったか? やべぇ、文緒に顔向けできない!

「うーん」

 隣に寝ている女が寝返りを打ち……。俺はその顔を見て、ようやく思い出した。
 文緒がシャワーを浴びてる間に俺、寝てしまったのか。ほんと俺、最低だよな。
 だけど今の驚きですっかり目が覚めてしまい、二度寝できそうにない。時計をちらりと見ると、朝の五時過ぎのようだった。
 俺は寝ている文緒にキスをした。それだけにしよう、と思ったのに……それで止まるような欲望ではない。だったらキスするの、我慢すればよかった……!
 文緒が寝てるというのに俺はもう我慢できなくて、その唇を激しく吸い、唇を割って舌を入れこんだ。起こしてしまうことへ若干の罪悪感を覚えつつも、この四年の穴を埋めるかのごとく、俺は文緒を抱きしめ、むさぼるように唇を奪う。
 文緒はようやくそこで目を覚ましたようだ。驚いたように俺から身体を離そうとしていたけど、俺はきつくきつく抱きしめた。

「もう離れるのは嫌だ」

 もうなにも障害はないのだ。絶対に離さない。

「睦貴」

 俺の名を呼ぶ文緒の声に官能的な響きを聞きとり、俺はまた文緒の唇をふさぐ。たどたどしくも迷いのない指で文緒は俺のパジャマを脱がしてくるから俺も文緒のパジャマを脱がす。
 四年前より発育はしたものの相変わらずの小さい胸に俺は安心とがっかりな気持ちを覚える。
 ……俺としてはもう少し胸がほしいなぁ。と思うのは贅沢か?
 俺が加える愛撫の手に文緒は俺が思っている以上に感じるらしく、甘い吐息を吐いている。

「睦貴……! なんか昔より上手になったような気がするけど、まさか……」
「そんなもん、するわけないだろうっ! 俺は文緒一筋!」

 遊ぶ暇なんてなかったぞ! あったとしても、文緒以外にはもう俺の下半身、反応しないからな! ……いや、それは年なのもあるんですけど。ってなんてことを言わせるんだっ!

「文緒だってどうなんだか」

 ないのは分かっているけど、なんとなく意地悪で言いたくて。

「あるわけないじゃない!」

 ……怒られた。

「ごめん」
「睦貴、さみしかったんだから……!」

 そういって甘えて来る文緒がものすごくかわいくて。
 壊れるまで抱いて、いいですか?
 ……よくないよな、仕事があるもんな。そこまでは気が回るようになったよ。俺も大人になったな、うん。
 社会人として当たり前? いやいや、俺は社壊人ですから!
 久しぶりの感覚と文緒のにおいと柔らかさに……俺は溺れていく。
 文緒の大切なところは相変わらずきつくて。本当に久しぶりなんだな、と思ったら余計にいとしく思った。

「痛いっ!」

 と叫ばれ、そういえば久しぶりだったんだということに気がつき(以下、検閲により削除)。
 あ、いや、すみません。久しぶりなのと昔よりおっさん度が上がってちょっと興奮しすぎました。反省はしてないけどな!
 四年ぶりに文緒とひとつになれて、俺は満足した。
 あ、心配していたゴムですか?そりゃあ、文緒が用意してくれてましたよ、ええ。きちんと日本製。別になくても結婚してるからいいかな、とは思った。それに自分の年齢も考えたら早い方がいいのは分かっていたけど……。やっぱり異国の地では不安じゃない?

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