馬鹿は死んでも治らない!?07
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期末テストの結果が返ってきて、文緒は見事に十位以内──学年二位──の座を得た。ちなみに、一位はなんとあのノリちゃん! すごいな、あの子。
「やればできるじゃないか」
蓮さんが珍しく褒めている。文緒も誇らしげに笑っている。よかったよ、ほんと。
文緒の勉強を見ているころ、夢にまで問題が出てきて困った。ルート記号が俺に迫って来るんだよ! 化学式が色っぽく俺にからみついてくるし。……ほんと俺、どれだけあの頃、欲求不満だったんだよ。
とにかくあれから反省して、土日部屋にこもってずっと、ということにならないように極力つとめた。
あ、今、
「おまえどんだけやってたんだよ」
と思った!? ここは俺が鬼畜と言われるゆえんでな……ってなにを言わせる気なんだっ! 文緒の若さゆえ、だな。と責任転嫁してみる。
冬休みに入り、文緒が蓮さんと約束した通り、俺たちは外泊許可を取り付けて……またもやねずみ総本山にやってきたよ。他に行きたいところはない? と聞いたけど、ここがいいんだって。今回はぜいたくに二泊。だけどさすがにスイートは取らなかったぞ。きちんと自分が稼いだお金でホテルに泊まるから、そんなに高いところに泊まれないんだけど、ネズミーランド周辺のホテル、どこも高いよな。しかも今は冬休み、前もって予約を取っておいてよかったよ。
一日目はこの間いかなかったネズミーシーに。冬場のネズミーランドは寒い、何気に海沿いだからな。シーの方はちょっと大人の雰囲気であまり夢の国感はないけど、ここはこれで面白かったな。
二日目は本命のランド。海と陸か、うまい具合に考えたな。やっぱりランドはテンションが上がる。冬休みで遊びに来ている子どもに交じって大人げなくはしゃぐ俺。
文緒が恥ずかしがっている。
いいんだ、これであきれて別れを告げられても。……いや、その方が文緒のためにはいいかもしれない、俺はつらいけど。
パレードを見ている文緒を見つめていると、切なくなって心が締めつけられる。
やっぱり俺には……無理かもしれない。
俺の視線に気がつき、文緒はにっこりと微笑んでくれる。人目があっても気にしない。俺は構わずに文緒にキスをする。こんなに愛しているのに……離れてしまうなんて。
だけどとりあえず半年はある。それまでにたくさんの思い出を作ろう。
* *
冬休み、やっぱり深町さんは京佳を連れてやってきていた。俺がいない間でも俺の部屋は自由に使ってもらって構わないと言ってあるのでふたりは俺の部屋で勉強をしているらしい。調べ物をするのにかなりの資料がたくさんあるから便利みたいだ。
俺はすっかり仕事にも慣れ、兄貴とそろって定時にはお屋敷に帰ってこられるようになっていた。みんなと夕食を食べ、いつも俺はいじられ……って、なんで俺、こんなにいじられキャラになってるんだよ?
「年齢の割には落ち着きがないからじゃない?」
と奈津美さんに冷静に突っ込みを入れられ……。
奈津美さん、実は隠れSですよね。蓮さんなんてドSに見えて俺と同じでMだしなぁ。オオカミの皮をかぶった羊だよ、蓮さん。
そうそう、奈津美さんと蓮さん。ブライダル関係の仕事を他の人に託して、独自ブランドを立ち上げてしまったのだ。蓮さんは無類の香水好きなのは知ってたけど……
「Lotus」
という香水ブランドを立ち上げ、そしてやっぱり奈津美さんが社長にって、なんで蓮さん、表立ったことしないの? 俺と一緒で裏から牛耳る黒幕役をやりたいんだな? と言ったら、大当たりだったようでものすごい説教された。
だから……なんで?
でも俺、そんな蓮さんの説教が好きだよ。なんだかどんどん気持ち良くなってくる。……俺、そういう趣味はないんですってば!
「Lotus」
なんて蓮ですよ、ハス! 自分の名前をちゃっかり入れているあたり、やっぱり黒幕役……。
だけど……兄貴はどうするつもりでいるんだ? ふたりにも話はいっているはずなんだ。
気になってこっそり聞いたら。
「すべてはおまえのせいだ!」
と言われてなんかプロレス技をかけられた。
技の名前は忘れた。首が折れるかと思ったよ。この人、見た目によらず力が強いんだよな。
蓮さんと俺がじゃれてるのを見て、奈津美さんはものすごい怒っていた。だからなんで? 奈津美さんにはなぜか
「ライダー・キック!」
といってすごい蹴りをちょうだいしてしまった。なんでライダー・キック? とは思ったけど。いや、もっと蹴って……!
そうしたら……今度は蓮さんに本気の一本背負いをかけられてしまった。もうなに、この暴力夫婦。
だけどこれも俺への餞別と思うと……不意に涙が出そうになった。
いや、これは目から汗が出てきたんだ!
佳山家の一員とみなしてくれていて……これから俺が取る行動のことを思うと、申し訳なくて顔向けができない。
「睦貴が考えて出した答えでしょう? 文緒は悲しむと思うけど、きちんと分かってくれるよ」
奈津美さんの言葉に、泣けてきた。
「まったく、おまえは奈津美より泣き虫なんじゃないのか?」
蓮さんのその何気ない一言に奈津美さんは食ってかかる。
「最近は泣かなくなったじゃない! 睦貴の方がよほど泣いてるわよ」
なにげにひどいよ。
「こんなにいじりがいがあるやつがなぁ……」
ふと気配を感じて見ると、廊下に文緒が立っていた。
やばい……今の話、聞かれた? どこから聞かれていた?
「なんの話?」
文緒がいぶかしげな表情で俺たちを見ている。俺はあわてて立ち上がり、文緒のところへ行く。
「買い物にでも行くか?」
とりあえず話をそらす方向へ持っていこう。
「昨日も行ったじゃん」
「じゃあ、俺の部屋で勉強」
「なんの勉強をさせる気だ?」
蓮さんの突っ込みに俺は反論する。
「恋のレッスンだぜ」
「なにが『恋のレッスンだぜ』だよ、この下半身男め」
「言いたければ言えばいいじゃないか!」
この開き直りっぷり、どうよ? お互いドMだよな、ほんと。
どうにか文緒をごまかし、自室に来てみた。宿題は昨日のうちに済ませたのか、と思っていたら……。
「まだあった」
と学生かばんから出してくるから、俺は仕方がなく文緒の隣に座る。
分からないところがあったら聞けよ、と言って俺は今週のスケジュールを確認する。日を追うごとに少なくなっていく俺の予定。とうとう……なのか。じーっと見つめていた俺を心配して、文緒は手帳をのぞいてくる。俺は見られたらばれてしまうから急いで閉じた。