愛から始まる物語


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愛から始まる物語11



 俺は手を伸ばしてその箱を手に取り、文緒に見せる。

「積極的だな」

 音をさせて、文緒の目の前で箱を振った。

「やっ、だって、蓮がっ」

 まあ、きちんとした性教育を教えるのは親の役目だよな、うん。仕方がない、パパが教えてやるよ、実践で。

「しつこいかもしれないけど、本当の本当にいいんだな?」

 ここまで来てもしつこく確認をとってしまうのは、ヘタレゆえの悲しさ。拒否したっていいんだぞ、文緒。目の前で一人でして見せてやるから。相変わらずな変態思考に下から白い液体がでそうだけどなっ!

「睦貴だから。睦貴じゃないと嫌だ」

 文緒はなにかを思い出したのか、少し涙を浮かべていた。文緒を抱き寄せ、耳元で囁いた。

「愛してる」

 それは今の俺の気持ちを素直に表した言葉。それ以上でもそれ以下でもなかった。
 愛があれば大丈夫、なんてただの免罪符なのは知っているけれど。これから文緒が感じる恐怖と苦痛を思うと、そうでも言わないと俺が耐えられそうになかった。俺はただ気持ちがいいだけなのを知っているから。初めては痛いから、できるだけその苦痛を取り除きたくて。痛みだけではないなにかを感じてほしかった。
 俺は箱の外側の包装をはがし、中身を取り出して準備をする。
 そうして再度、文緒に愛撫を加える。
 極力恐怖心を感じさせないように、やさしくゆっくりと、それと愛をこめて。
 一番弱い首筋に唇を這わせ、文緒に快楽を与える。荒い息の下、甘い吐息をたくさん聞いて俺もそれに合わせて身体の芯が熱くなる。
 文緒の大切な部分に指を入れる。やはり痛いようで、文緒の顔が苦痛にゆがむ。

「痛いならやめようか?」

 俺の言葉に唇をかみしめ、首を振る。唇をふさぎながら俺は指を使ってやさしくほぐす。徐々に文緒は痛みの表情から甘い表情に変わってきた。吐く息がどこまでも甘い。
 履いていたパンツを脱がせて、文緒を再度見る。
 俺は文緒と舌を絡めながら、自分のズボンとパンツを脱ぐ。どうも毎回思うんだが、自分で脱ぐことほど間抜けなことはないよな。やっぱり脱がしてもらいたい。始めからそれを文緒に要求するのはひどすぎるから、そのうちお願いしようかな。
 先ほど用意したゴムを俺の分身につける、という段階で、文緒が興味津々で覗き込んでくる。

「恥ずかしいから見るんじゃないっ!」
「えー、見たっていいじゃん。むっちゃん、私の見たじゃん」

 いや、正確にはまだきちんと見てないぞ、俺。

「ペナルティ」

 文緒にキスをして、その勢いでベッドの上に押し倒す。

「本当の本当にいいんだな? 覚悟はできているか?」

 文緒は無言でうなずく。緊張でがちがちになっている文緒に力を抜くように伝えたけど、言われてできるわけ、ないよな。俺は緊張をほぐすように再度、愛撫を加える。
 緊張がほどけてきた頃、俺は文緒に再度確認をとり、ゆっくりと文緒の中にうずめた。

「いたいっ」

 文緒の悲鳴のような声に申し訳ないと思いつつ、腰を進めると思ったよりスムーズに中に入ることができた。久しぶりの感触に、俺の息も上がる。だけどやっぱり愛する人の中ってのは格別で、それだけでイってしまいそうだ。いやいや、それはもったいなさすぎるし、早漏すぎるだろう。
 文緒に罵られるよ、この早漏野郎、って。
 あ、それはそれでちょっと気持ちがいいかもしれない。
 自分が極度のM体質だということにここで初めて気がつく。ああ、それでいろんな人に俺、いじられまくるのか。ようやくわかったよ。
 少し集中しすぎていた気持ちをそらせつつ、文緒に視線を落とす。

「まだ痛い?」
「ちょっと」

 だけど俺にはどうすることができない。痛みに耐えてもらうしかないな。ゆっくりと文緒の反応を確かめながら動く。
 痛そうな表情から徐々に気持ちよさそうな表情に変わってきた。痛みに耐えてよく頑張った。
 分かった、まじめにやるから、石を投げないで……。でも言葉責めならちょっといいかも。
 苦しい息の下、そろそろ俺も限界を感じてきた。

「文緒、いい?」

 なんのことかわからないらしく、文緒は少し首をかしげて俺を見ている。やばい、そのしぐさがかわいすぎる。俺はもう我慢の限界で、文緒の中に欲望を吐き出した。
 我ながらいろんな意味で最悪だと思いつつ、文緒を抱きしめた。あんなことが遭ったというのに、同じようなことをしている自分に男として恥ずかしい。

「文緒、ごめんな」

 俺の謝罪の言葉に文緒はびっくりした表情で俺を見つめる。

「なんでむっちゃんが謝るの?」

 文緒を抱き寄せて、ペナルティのキスをする。先ほど吐き出したばかりだというのに、そのキスで俺の分身は反応している。
 ったく。
 一度知ってしまった文緒の味をしめて、どこでも反応しそうだな。キスを自重しないとやばそうだ。今までこんなことなかったのに。やっぱり愛している人とは身体も心も違うものだな。
 そしてそこで、明日の朝になってみんなにどんな顔をして会えばいいのかわからず、俺はそれを考えて身もだえた。後先考えずに欲望の命ずるままにやってしまった自分の弱さに後悔する。
 特に佳山家のみなさまにどう顔向けすればいいのやら。いや、あの蓮さんのことだ。手を出そうが出すまいが、罵るに決まっている。やばい、それを考えただけでイケそうだ。いや、俺には男相手にそんな趣味はないはずだ。しかし俺、深町さんに鬼畜って言えなくなってしまったな。これでは同類だよ。というより、俺の方が間違いなく鬼畜だろう。兄貴より変態だし。
 どうしよう俺、救いようがないじゃないか。
 百面相していた俺が面白かったのか、文緒がくすくすと肩で笑っている。
 やばい、俺、漫才の才能があるかも。もちろん、ボケ役で。突っ込まれると気持ちいいの……ってだから、俺にはそんな趣味はない!

「文緒、その、ごめん」

 俺は再度、文緒に謝った。

「だからなんで睦貴がそこで謝るの?」
「いや、だって。あんなあとなのに俺、文緒のこと抱いてるし」

 生まれた姿のまま、俺と文緒は布団の中にいた。布団のぬくもりと文緒の素肌が暖かい。
 そういえば文緒を取り上げた時も当たり前だけど文緒は裸だったよな、とちらりと思い出す。思った以上に小さい存在に、びっくりした。生まれたばかりの文緒は真っ赤で、羊水と血で濡れていたけど大きな声で必死に存在を誇示するように泣いていた。俺が声をかけたら不思議と静かになって、よく見えない目を必死で開けてきょろきょろ見ていたことを昨日のことのように思い出した。
 助産師さんが到着して、俺の手から離れた文緒はまたぎゃんぎゃん泣き始めていたなあ、そういえば。処置をされている最中もずっと泣いていたようで、助産師さんがあきれた顔で文緒を抱えて俺のところに来て、俺は恐る恐る文緒を抱いたら、ぴたり、と泣きやんでいた。
 その小さな存在がとても愛おしくて、その時俺は、一生この小さな命を守る、と心に誓ったことを思い出した。
 そうか、あの時にすでにこうなることが決まっていたのかもしれない。

「柊哉を……赦してやってな」

 俺はどうしても気になっていたことを文緒につぶやいた。文緒の気持ちを考えたらそれは都合のいいお願いなのは分かっていた。だけどそう言わずにはいられなかった。
 文緒が柊哉を赦すことで、俺の今日のこの行為も正当化される、と思っていたのもあるかもしれない。
 今日の疲れと文緒とひとつになれたことへの安堵感とで、俺は文緒の返事を聞く前に気がついたら眠りについていた。






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