ヤマハ船外機30GEM
 キャブレター・オーバーホールの仕方
(海上修理)
キャブレター=燃料供給装置の一部で気化器ともいいます。
オーバーホール=O/H=一般的に分解整備の事をいいます。

補足 40Hフロート調整 175Dキャブ分解


エアクリーナー(通常は空気清浄機・この場合はゴミ除け)を外します。
このボルトはキャブレター取り付けも兼ねてますのでキャブも外れます。


チョーク(この場合は始動時の燃料増量用バルブ)のリンク(連接金具)を外します。



燃料ホースのクリップ(止め金具)をプライヤー(挟んだりするのに使う工具)等で
開いて下にずらしてから燃料ホースを外します。この時、外れ難い場合は写真のように
ラジオペンチ等で軽く挟み、左右に少し回してから引き抜くと外れやすくなります。



それでも外れ難い場合は先程の作業と合わせてホースの末端にドライバーを差し込み、
テコの応用で少しドライバー先端をひねり、ホースを下に押し下げるようにすると
さらに外れやすくなります。


私の場合は現場(海上)で修理する場合が多く、時には胴長グツを履いて胸まで水に浸かり
船に乗ったりする場合もあるので荷物は極力少なくしています。当然、そのような場所での修理は
電源も取れないため、コンプレッサー等も持って行けません。緊急の修理で無い場合は
時にはキャブを外して作業場に持ち帰りO/Hする事もありますが大抵はその場で直しています。
上の写真はキャブを洗浄する為に、燃料タンクからガソリンを抜き取っているところです。
入れ物の容器はヤマハ船外機SSオイル4Lポリ缶の上部を切断した物を使用しています。
切断してない物は、この後の廃油入れとして使っています。
尚、火気や炎天下での作業、保管は十分に注意して下さい。


175馬力とか大馬力の船外機の場合で燃料タンクから燃料が抜き難い場合は
キャブに入る燃料ホースの先端からプライミングポンプ(燃料タンクと船外機の間にある手動燃料ポンプ)を
握って出てきた燃料を使用します。V6(6気筒)エンジンの場合は燃料の出口が3箇所あるので
2箇所は指で塞いで漏れないようにします。

海上に燃料が漏れた場合は家庭用食器洗い等の中性洗剤を利用して中和して下さい。


キャブの上の蓋と下のフロートチャンバー(燃料溜め)を外した所です。
ドライバーで触っているのはパイロットスクリュー(間にバネの入ったマイナスのネジ)で
主に低速時の燃料と空気の量(比率)を調整しています。
このネジを外す前に、現在の位置から一旦軽く締めこんで、締め込んだ位置から何回転
戻った位置にあったのか覚えておきます。この戻し回転は整備基準書に
数値は書いてあるのですが、その数値が分からない場合は目安になりますので
必ず行って下さい。



写真下のスプリング付きのネジが先程のパイロットスクリューです。
その上のネジ(+頭のネジ)がフロート(ピンクのプラスチック製部品)のピンを固定しているネジで
これを緩めると写真のようにフロートとニードルバルブ(燃料停止弁)も外れます。
尚、このネジを締め付ける時は、締め過ぎると相手のネジ山が壊れる場合がありますので
組み付け時は注意して下さい。

写真右上の黒いゴムキャップは時々溶けて柔らかくなり過ぎてる場合があり、
その場合は交換が必要です。何年もキャブを分解した事がなく、
すぐにキャブを直したい場合は、この部品と後ほど紹介するフロートチャンバーパッキン
は事前に入手しておいた方が無難です。私の場合、大抵この部品は修理に持って出かけます。
尚、機種によりゴムキャップの無いエンジンもあります。

ゴムキャップ左にある部品の名はパイロットジェット
その下に横たわってる部品はメインノズル
その右がメインジェットです。
ただし呼び名はメーカーや機種により若干違います。


メインノズルが取れ難い場合は、ドライバー等で下に押してあげます。
強く押しすぎると変形して逆に抜けなくなりますので注意して下さい。
後述するキャブクリーナーをメインノズル両側から吹き付け数分後に
この作業を行うと抜き易くなる場合があります。


押して途中まで抜けたけど、それ以上は抜けない場合等は
太目の針金先端を少し曲げ、メインノズルの穴に引っ掛けて引っ張り出します。


これがヤマハのキャブレタークリーナーです。
4L液体タイプもあり、頑固な汚れの場合は、液体タイプに1〜2時間浸けて置くと
かなり綺麗になります。その場合はガソリン7に対しクリーナー3の比率液に浸します。
ただし、長時間浸すと塗装が剥がれたりゴム系統に影響が出たりするので注意して下さい。



キャブクリーナー(泡スプレータイプ)を燃料の通る穴全てに吹き付け、
内部の汚れを溶かすと共に吹き付ける圧力でゴミを除去します。

写真右上に少し写っていますが、外したジェットやノズルをキャブクリーナーを吹き付け後、
フロートチャンバーの中に入れ、さらにクリーナーを吹き付けて汚れの程度により数分〜数十分
浸しておきます。汚れのひどい箇所は浸してる最中に時々少し擦ったりして汚れを除去して下さい。



パイロットスクリューを外した穴とかにも吹き付けます。この場合、キャブのアクセルバルブを
少し開くと良いでしょう。開くにはキャブ左上部の白いローラー(アクセルカムローラー)を
写真で言いますと左から右に押せば左の大きな穴から見えるバルブが開きます。


下側各部にも吹き付け、反対側とかから
出てくるかを確認して下さい。出て来ない場合は細い針金等を使用して
突付いて下さい。突付いた後は再度スプレーして下さい。


各部品の燃料通路も同じ様にキャブクリーナーを吹き付けます。
この部品の場合、反対側まで液が出てくるのと横の穴からも出てくるのを確認して下さい。



清掃後は穴を覗いて反対側から光が綺麗に入ればOKです。
左の部品は写真1枚上のパイロットジェットですが、修理時これが詰まってる場合が多く、
キャブクリーナーを使っても穴が貫通しない場合は細い針金で突付いて下さい。
車のメカニック本には針金で決して突付かないようにと書いてある本が多々ありますが
針金でないと無理な場合が結構あります。時には力を入れなければ
穴が貫通しない場合もありあます。

右のメインノズルも内部がまだ汚れている場合は綿棒等を使って綺麗にして下さい。
こちらも汚れがこびりついて取れ難い場合は、太目の針金の先端を少しだけ曲げ
その先端で円周方向に回したり上下に出し入れしたりして掃除します。
ただし、内部をひどく傷つけないように力加減して下さい。
キャブクリーナーも併用して使って下さい。



先程抜いた燃料でキャブクリーナーを除去すると共に外観を洗浄しています。
外観が砂埃とかでひどく汚れている場合は、キャブクリーナーを使う前に
このように一度洗浄し、キャブクリーナー使用後も洗い油(この場合は燃料)を交換して
2度洗浄すると良いでしょう。


洗い油で洗った後は、再度ゴミ等を除去するため、エアー(圧縮空気)で吹き飛ばすのですが、
現場ではそれが出来ないので、私の場合は防錆潤滑スプレーであるヤマハ・マリンガードを
吹き付けてゴミを除去すると共に、反対側からの出方により燃料通路の詰まりが取れたかを
確認しています。以前、キャブクリーナーが一般的でなかった頃は、
この方法だけで修理していました。現在は確実性と再修理を避ける為に必ず
キャブクリーナーを使っています。


中央の大きな穴の中、中央左に小さな穴が一つとその右下に上下にさらに小さな穴が二つ空いてます。
この穴が詰まると始動不良とかアイドリング不調となります。パイロットスクリュー等から
マリンガード等を吹き付けた場合、この穴から出てこなければ穴が詰まっています。
細い針金の先端を90度に曲げて穴に差し込んで通るようにして下さい。
尚、写真はアクセルカムローラーを手で押してバルブを少し開いています。


一番下がフロート(浮き袋)、その右上(フロートの影の中)がニードルバルブ、
その上の金色の部分がニードルバルブの相手の当たり面であるバルブシートです。
燃料がフロートチャンバー内に溜まると、フロートが浮き上がり、ニードルバルブを押し上げ
バルブシートに当たり燃料が止まります。逆に燃料が燃焼して少なくなると
フロートは下がるのでニードルバルブ(フロートバルブと言う事もある)も下り、
燃料が入って来て溜まります。




これがニードルバルブです。先端はゴム質ですがエンジンにより
全体が金属の場合もあります。この先端とバルブシートが傷ついたり、この間にゴミが噛んだりすると
燃料が止まらなくなり、キャブから漏れてしまいます。
余談ですがホンダの汎用エンジンの一部は、ここの当たりが悪くなり燃料が漏れると
エンジン内部とかクランクケースに燃料が入ってしま場合があります。
汎用4サイクルエンジンでエンジンオイルの粘度が極端に低くガソリンが混入しているようなら、
まずこれが原因と考えてよいでしょう。




組み立て時にこのゴムキャプをお忘れなく。
先程も書きましたが、このゴムキャップは柔らか過ぎる様なら交換して下さい。
ゴムキャップの無い機種もあります。


フロートチャンバーのパッキン(黒い部分)の当たり面が分解組み付け時に
悪くなる場合があります。この場合は合い面から燃料が漏れ出します。
1回でキャブのO/Hを終わらせたい場合は、先程のゴムキャップとこの合い面の
フロートチャンバーパッキンを念のため分解前に入手しておき交換すると無難です。



組み立ては分解の反対の順です。エアークリーナに付いてるチョークのリンク部分を
チョークレバーに差し込んでいるところです。



パイロットスクリューを分解する前に調べておいた戻し回転もしくは整備書の
基準値になるように調致します。


エンジン始動後、アイドリング回転が低い場合は写真のように間にバネの入ったアイドルスクリューを
右に締め込み、回転が高い場合は左に回します。

さらに細かい調整をする場合は、先程のパイロットスクリューをさらに1/4〜半回転緩めた後、
徐々に締めこんでいき、エンジン回転が下がる少し手前で尚且つ、急加速、急減速した時に
エンジンが停止したりムラ打ちしない位置まで締めこんで行きます。
パイロットスクリューとアイドルスクリューの両方を調整し基準のアイドリング回転に調整します。

今回はフロートがプラスチック製のため、フロートの高さ調整をしていませんが、
フロート高さ調整が狂っているとこの作業をしてもエンジンが不調となりますので
参考までに補足の40H編も見て下さい。