FESTIVAL D'AVIGNON

アヴィニヨン演劇祭公式ガイド 15


■■珍しいキノコ舞踊団『フリル(ミニ)』

 2001年アヴィニヨンのフュナンビュル劇場で上演した珍しいキノコ舞踊団。代表の伊藤千枝さんに印象を聞いた。

中島(以下N)  キノコは満を持しての海外公演だったよね。

伊藤(以下I)   キノコはダンスのわりに大所帯なんだけど、海外公演のために規模をコンパクトにすることに抵抗を感じてたのね。だけど「千年文化芸術祭」の枠でなら、ちゃんとしたサポートが受けられるんじゃないかと思って応募した。

N   東京初演のものをアヴィニヨン・ヴァージョンにつくり直したんだよね。

I   アヴィニヨンに限らず、国内でも公演スペースの空気とか季節によっても作品を変えていく。『フリル』の初演は冬だったけど、アヴィニヨンはめちゃくちゃ暑いから、やる人も見る人も気分がちがうでしょ。あとは物理的に、場所の大きさとか、観客の目線の高さによって動きを変えたり。選曲も日本語だから意味はわかんないけど、言葉のリズムが面白かったり音で楽しめるものに変えた。海外を意識したのは言葉の面ぐらい。

N   逆に自分たちが「日本」のカンパニーだっていうことは意識してた?

I   もともといわゆるジャポニズムみたいなのは好きじゃないし、「日本」発信じゃなくて「東京」発信にしたいのね。私たちが普通に生活してる場所から発信してるって。それに、「私は伊藤千枝です」っていうのがまずあって「女です」「日本人です」とかっていうのは後ろにただついてきてるもの。私にとって特別なものじゃないから意識する必要全然ないのね。だからいつもやってることをそのままもって行けばいいと思って。

N   アヴィニヨンに到着して、あまりの状況に愕然としなかった?

I   行く前に周りからとにかく大変だって聞かされて、最悪のケースをいろいろ想定して準備しといたから「照明、こんなにあるじゃん!」とか、予想に比べて全部プラスだったの(笑)。だからそういうことでへこむことはなかったのね。ただ初日開けて3日までは心配だった。ダンサーのテンションの問題なんだけど、ちょっと固まってる感じがして「このまま終わっちゃったらどうしよう」って。初めての海外公演だったから外国の人に見てもらうっていうので、ちょっと固まってたのかもしれない。でもだんだん慣れてって、4日目くらいかな、パッとはじけて「あ、大丈夫だ」って思えた。

N   お客さんの反応はどう感じた?

I   全般的に、反応が悪いって感じたことはなかったと思う。キノコの作品ってクセがあって、すごく好きな人とすごく嫌いな人とに分かれちゃう気がするのね。外国の人ってはっきりしてるから、席を立つ人が結構いるんじゃないかなと思ったんだけど、意外と暖かかった。

N  楽日のスタンディング・オベーションはすごかったね。

I  ヴィデオ、あとで見てほんとぞくぞくした。でも、その場ではいまいちわかってなかった。それより、終わってからみんなが裏に来てくれて、抱きついてきて「ありがう!」って言ってくれたり私あんまり「ありがとう」って言われたことないんだよね。役者の人が「今日これを見たことで、明日からのぼくの役者としての人生が変わる」って言ってくれて、それで私びっくりしちゃって。「えっ? 大丈夫かー? そこまでいいかー?」って(笑)。劇場のスタッフの女の子も泣いてたでしょ。

N   「小さい頃に好きだったものがぜんぶ入ってる」って言ってたね。

I え、ほんとに? 私前世そこに住んでたかな?すごい不思議。私外国だと「これは、なんで?」とかもっと説明を求められると思って、用意していったんだけど、そんなこと全然なくて、みんな「よかった!」「ハッピー!」っていう感じだったから、「詰まるところこれか?」って思った。東京でも同じような反応があったんだけど、アヴィニヨンに行って一番良かったのは、国とか人種とか年齢が違っても、なんかピュアな部分っていうのはみんな一緒じゃんっていうことが分かったこと。それが嬉しかった。

N   今度2002年11月にパリの日本文化会館で公演するんだって?

I   うん。別の作品だったらまた反応が違うかもしれないね。『フリル』ってちょっとおかしな作品で、踊ってるとどっか変なところにとんじゃうのよ(笑)。それがアヴィニヨンのあの環境でどんどんパァーッてはじけてった。帰国直後にそのまんまの勢いで横浜トリエンナーレで踊ったんだけど、アヴィニヨンに行く前後でダンサーがこんなに変わるのかって、見ててびっくりしちゃった。「こんなに楽しそうに踊っちゃうの?」って。舞台ってすごいなと思ったんだけど。アヴィニヨンでは終わった後に「よかった!」とか、すごくオープンに言ってくれるじゃない。日本ではあんまり経験したことなかったから、ダンサーのみんなも「あ、よかったんだー!」ってストレートに思えたんじゃないかな。

N  今度の『フリル(ミニ)wild』でも、アヴィニヨン後のはじけっぷりを楽しみにしてますね。

[取材・構成/中島香菜]
 

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