FESTIVAL D'AVIGNON

アヴィニヨン演劇祭公式ガイド 14


■「キノコ」初の海外公演へ

 昨2000年9月から11月にかけて、「東京2000年祭」の一環として
「千年文化芸術祭」が、実行委員会と東京都との共催で開催された。
この芸術祭の主眼は、「観客の視点から今の東京の舞台芸術に新し
い刺激を与えること」。それぞれの公演会場やインターネットで観
客による投票も行われた。一方、審査委員によって優秀作品に選ば
れた団体には 100万円の次作品サポート資金が、協賛企業特別賞受
賞団体に対しては2001年のアヴィニヨン・フェスティヴァル・オフ
参加のための渡航費、劇場費などの資金援助がされた。

 192 の応募団体の中から、30のカンパニーがノミネート。12月に
都庁舎で授賞式が行われ、NYLON100℃、ク・ナウカ、シアターカン
パニー水と油、H・アール・カオスの4団体が優秀作品賞を受賞、ま
た協賛企業特別賞には、珍しいキノコ舞踊団が選ばれた。

 芸術祭事務局では、すでに日本からのカンパニーを多く受け入れ
ているフュナンビュル劇場をあらかじめ公演会場に決定し、芸術祭
開催中の10月半ばに、プログラム・ディレクターのアラン・イゴネ
を招聘、アランは芸術祭の視察として、水と油、nest+KdC、MODE、
ク・ナウカ、かわせみ座の公演を観て回った。「この広い東京で、
たとえ中心から離れた劇場でも観客がつめかけていることに驚いた。
また、観客の平均年齢がフランスよりもずっと若いようだ」と、初
めての東京の印象を語っている。

 例年、オフの劇場ではフェスティヴァル開催中からすでに翌年の
ブッキングが始まっているが、今回は前年の夏に劇場を押さえたた
め、夜 8時開演というベストの時間帯を確保することができた。今
年から開設されたフュナンビュル劇場のホームページでも、「キノ
コ」の公演は今年の目玉として紹介され、世界各地のフェスティヴ
ァル事務局から招待状を送って欲しいという問い合わせもあった。
また、東京都から公式に派遣されるカンパニーというメリットを最
大限に活用、アランの尽力によってアヴィニヨン市庁舎で市主催の
レセプションを催す手はずも整う。

 こうした事前の宣伝活動と同時進行で、上演作品『フリル(ミニ)
』をアヴィニヨン・ヴァージョンへ創り直す作業が行われる。 2年
前にフュナンビュルで公演を打ったオペラシアターこんにゃく座の
スタッフに、現場の状況に関する助言を求める一方、主に Eメール
によって劇場側との打ち合わせを進めていった。
 

■オフの現場の乗り切り方

 今回、初の海外公演となったキノコにとってだけでなく、オフの
劇場環境というのは、体験したことのないものにとっては想像し難
いものがある。劇場とはいっても、元はガレージや納屋。フュナン
ビュルも18世紀の馬小屋を改築したものだ。機材はほとんどが中古
、品番を聞いてもどんなものだかよくわからず、結局は現地で驚か
されることになる。

 また、ラテンのノリのせいか、予定通りにことが運ぶことはほぼ
ない。7月1日、振付の伊藤千枝以下、5人のスタッフが現地入り
したが、現地製作の美術用に発注しておいた木材は未着。スケジュ
ール通り、夜中仕込みに行けば、他のカンパニーが場当たりをして
いて、「午前4時には終わるから、3時間後に来てくれ。」「……。
」これではまるでフュナンビュルがとんでもない劇場のようだが、
フュナンビュルの名誉のために言っておくと、オフの小劇場のなか
では、ここの設備は良い方。プロの間では、良い作品を上演するこ
とで定評もある。結局のところ、オフで公演を打とうとするときに
一番大事なのは不測の事態にも動じない精神力、判断力、適応能力
の高さなのだろう。まあ、日本じゃないんだから臨機応変にいこう
ぜということ。

 今年のアヴィニヨンは例年にない猛暑で、体力的にも相当消耗す
る現場だったが、キノコのメンバー、スタッフたちは、天性の大ら
かさで乗り切った気がする。決して状況に妥協したということでは
ない。現に、東京からもち込んだ小道具の電飾が変圧器をかませた
途端にダメになったときには、近郊のホームセンターをかたっぱし
から巡り、「ノエルはまだだよ!」という店員の声にもめげずに、
最後にたどり着いた店舗の内外装専門店で、東京からもってきたも
のと寸分違わない電飾を発見したのだ。こういう“アヴィニヨンの
奇跡”は、困難を乗り切った瞬間、素直に大喜びできる人にだけ訪
れる。

 あまりの猛暑に人の出足が悪く、ほとんどのオフの劇場で初日の
観客が二桁に満たなかったなか、キノコが50近い集客をしたことは
、劇場関係者の間でも奇跡だと言われた。テンションは日増しに上
がり、7日間の公演はスタンディング・オベーションのうちに幕を
閉じた。
 オフの集客は口コミ。このままフェスティヴァル最終日まで公演
を続けたなら、キノコはもうひとつの奇跡を引き起こしたはずだ。
アランはバラシの最中にも「惜しいなー!」を繰り返していた。

[中島香菜]
 
 

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