FESTIVAL D'AVIGNON

アヴィニヨン演劇祭公式ガイド 06


■OFF参加〜黒テントの場合

 1996年、黒テントはヨーロッパツアーを行った。演目は『WOYZEC
K』。公演は、イタリアのヴィアレッジオの野外ステージで6月26日
より2日間、グルノーブルの演劇祭で7月1日より3日間、最後にアヴ
ィニヨンのオフで10日より10日間と、まる1ケ月に渡るツアーであ
った。

 このツアーの劇団の報告書をもとにしながら、アヴィニヨンを中
心に、同劇団の横田桂子さんから話を伺った。

 劇団は 6月21日に東京を発ち、7月4日にツアーの最終地アヴィニ
ヨンに到着している。アヴィニヨンではフュナンビュル劇場におい
て準備期間を経て同 9日から18日までの公演、最終日の19日には公
演に代えて、仏の劇団(劇団サブリエ)と日仏交流のシンポジウムを
行い、翌々日に帰路につくというというアクティブなものである。

 これには前年のオンシアター自由劇場などと共同してのオフ参加
を踏まえて、その成果を黒テントとしてさらに膨らませようとした
ものである。そのために前年の95年10月にITI (国際演劇センター)
と、アヴィニヨンで知り合った関係者などに96年の『WOYZECK』 海
外公演の可能性を打診し、参加可能なフェスティバルを問い合わせ
ている。アヴィニヨン・オフについては11月になって、劇団サブリ
エ側からコラボレーションの誘いがあった。そのサブリエ側の参加
取り止め、劇場変更などアクシデントもあったが、それらをふまえ
た結果としてのアヴィニヨンの公演は、前年以上に成功し観客数も
伸びた。初日の9人が楽日には150人。口コミによるものだという。
フェスティバル期間前半のみの上演であり、劇場側からも公演の続
行を持ちかけられたそうだ。

 こうしたツアーの目標としては、黒テントの演出家の佐藤信氏は
「共同作業ができる劇団との出会い」を挙げている。それは「ある
国の文化が、他の国に伝えられたときに、どのように変化してそこ
で紹介されているかを知ること」の重要性を考えているからである
。黒テントは80年代からアジア諸国の劇団とのコラボレーションを
続けており、それは前大戦での侵略行為に対する市民の側からの反
省、また相互理解への歩みよりの契機を目的としている。運動のモ
デルは、営利的な興行演劇に反発し、近代的な思想、演劇形態を模
索した19世紀以降におけるヨーロッパの民衆演劇運動である。翻訳
劇を「古典」として上演してきた日本の現代演劇の屈折はとりあえ
ず保留し、同じ現代社会を生きている人間の「古典」として、その
周辺国からストレートにヨーロッパを問い直す試みでもあるという。

 アヴィニヨンのシンポジウムでは、黒テントを招待したグルノー
ブル演劇祭のディレクトリス、レナータ・スキャント氏が、欧州の
多様な民族土壌からくる異文化への興味、交流手段としての演劇祭
の意義、劇団相互の交流の必要性を述べ、劇団サブリエのプロスペ
ロー・ディス氏は、演目に対する政治的圧力による助成拒否、また
オフ参加も困難になる当時の状況があり、それに対抗するためにも
拠点としての劇場、また他劇団との交流の必要性を述べた。劇団サ
ブリエへの助成却下から派生した黒テントとの共同公演・ワークシ
ョップ中止に替わるシンポジウムであった。

 仏側は身近な政治上の理由から、日本側は歴史上の<自己>確認的
な意味合いからと、両者の動機は異なったが、共同作業という目標
は一致し、相互交流は充分達成した。しかし佐藤氏が今後の課題と
して挙げる「演劇祭以外での自主公演」は、宿泊施設や日程等、相
当の困難があるようだ。また、同じく課題としてあげる「共同作業
の追及」「国内巡演にワークショップやストリートパフォーマンス
を取りこんでの再編成」は、「旅する劇団」としての旅の追及であ
る。

 佐藤氏によると、ツアー公演の「意味や目的の内容は、参加した
ひとりひとりにとって、少しずつ、あるいは大きく異な」る。互い
の違いは認め合い、「新しい経験や発見を集団の持続性のなかに組
みこんでいく努力と知恵」が、結果として統一的に団員に問われる。

 そのためかこの上演は「ル・モンド」紙評によると、創意工夫、
再解釈の妙からなる「自由の尊さを教えてくれる」と受けとめられ
た。足場の馴染む日本での上演と異なり、海外公演は<旅>そのもの
が集団にかける負荷により、またおそらく、相手国側の、遠方から
の劇団に対する友好的な期待により、政治的な主張を反映させる困
難がともなうようだ。

 佐藤氏は、演劇のためでなく、「旅するための演劇」、定住でな
く「さすらう演劇」とあえて言う。グルノーブルは当年のテーマ「
演劇と亡命」に合わせ、越境する黒テントを招待した。亡命者の個
々の発言力はいつも小さい。アヴィニヨンにおいても、日本からの
オフ参加はある意味で「亡命」となり……、参加しようとしている
みなさん、作戦をよーく練りましょう。

[杵渕里果]

 
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