とても80手以上かかるとは思えない構図ですが、どういう仕掛けでこんなに長手数になるのでしょうか。
初手は99飛と飛を取る一手。
受方は持駒なしなので、合駒はできず、同銀と取り返します。
成か不成かはとりあえず保留にしておきましょう。
続いて93飛と打てば、飛合は取って簡単、81玉とかわすしかありません。
83飛成にも同じく91玉の一手。 ここで93龍から83龍を繰り返しては千日手で失敗。
打開の鍵は、最初に動いた99の銀にありました。
そう、龍ノコで取りに行けそうです。
99銀成となっていれば、龍ノコで88龍、99龍として銀が取れるので簡単。
これで2手目は99銀不成が正解とわかりました。
不成でも、98龍、89龍、99龍とすれば銀が取れるんじゃないかって?
いや、不成のときは89龍のときに88飛合が利きますよ。
99飛、同銀不成、
93飛、81玉、83飛成、91玉、94龍、81玉、85龍、91玉、
96龍、81玉、87龍、91玉、98龍、81玉、89龍、88飛合、
同龍、同銀不成、
88同龍を再び同銀不成と取るのが大事なところ。
ここ、同銀成なら、また龍ノコで銀が取れるわけですね。
同銀不成と取られると、99銀が88に移動しただけで、何も打開できていないように見えますが、この銀を移動させること自体が趣向の目的、
遠くの駒を玉に近寄らせるので、呼び出し趣向といいます。
83飛、91玉、93飛成、81玉、84龍、91玉、95龍、81玉、
86龍、91玉、96龍、81玉、87龍、91玉、98龍、97飛合、
同龍、同銀不成、
続けて88から97に移動させることに成功しました。
どこまで呼び出せばよいのでしょうか。
とりあえず、続けて呼んでみましょう。
93飛、81玉、83飛成、91玉、94龍、81玉、85龍、91玉、
96龍、81玉、87龍、86飛合、同龍、同銀不成、
83飛、91玉、93飛成、81玉、84龍、91玉、94龍、81玉、
85龍、91玉、96龍、95飛合、同龍、同銀、
93飛、81玉、83飛成、91玉、94龍、81玉、85龍、84飛合、
同龍、同銀、
84まで呼び出しました。
銀が93に利いてきたので、もう龍ノコを繰り返すことはできません。
ここで、銀を84まで読んだ意味を考えてじっくり読んでみましょう。
9手詰です。
72馬、同玉、84桂、61玉、51飛、同銀、72銀、52玉、
63金 まで85手
そう、84まで呼び出したのは桂で取る質駒にするためだったんですね。
それに気づけば、72馬の発見はそう難しくないでしょう。
51飛捨てがとどめの妙手で収束します。
呼び出し趣向でもっとも有名なのは、将棋図巧第1番でしょう。
16の角を飛打飛合の繰り返しで25、36、45、56と鋸状に呼び出します。
呼び出し趣向で 受方の駒を移動させる方法には、二つのパターンがあります。
取らせて移動する場合には、現在の玉位置から離れたところで王手する駒を毎回発生させる必要があります。
移動合で移動させるときは1枚の駒で王手することも可能です(例えば、おもちゃ箱No.2)。
離れたところの王手駒の発生にもいくつかのパターンが考えられます。
- 飛角香の遠打による
- 飛角(龍馬)の遠開き(空き王手での移動)による
- 龍ノコ、馬ノコなどで移動
- 玉を呼び出す駒まで近寄せて、捨駒などで移動させたあと再び元の位置まで戻す
図巧1番は遠打による呼び出しです。
これを龍ノコでも代替できるのではないかという発想から創作されたのが、大塚播州さんの「おとぎ詰」(詰将棋の欠片)でした。 今回のTETSU作は、縦型で、呼び出す駒が銀になっています。
なお、呼び出し趣向では鋸状に呼び出すのは必須ではなく、上田吉一さんの名作のように一直線に呼び出す作品も登場しています。
呼び出し趣向は、あまり作られていませんが、まだまだおもしろい展開が考えられると思います。
本作は新たな作品の登場を期待して、呼び出し趣向の紹介のため作図したものです。
なお、本作の趣向は、坂東仁市さんの「竜王渓」(詰パラ1994年9月)がオリジナルの作品です。
合駒制限のため全駒配置になっているのでちょっとびっくりしますが、89銀を85まで移動させる趣向部分はほぼ同様ですので、あわせてご鑑賞ください。
くるくる展示室No.318参考図 坂東仁市「竜王渓」 棋譜ファイル
それでは、みなさんの感想を。 解答到着順です。
- 蛇塚の坂本さん:
- とにもかくにもイントロが長かった。7二馬や8四桂の主役級が登場するのに76手の前ふりが必要とは馬ノコ為らぬ龍ノコの凄さを感じましたしかし収束はアッケない気がしました。
イントロというか、その趣向部分が中心なので、収束はできるだけ短くしました。
- 山下誠さん:
- 玉方に歩が無いので中合の煩わしさがない。龍鋸の繰り返しを純粋に楽しめる。
- 占魚亭さん:
- 銀を呼び込む竜鋸のサイクルがいい感じです。
- キリギリスさん:
- 竜では銀を入手できなくて最終的に桂馬で取るところが面白いと思いました。
- 長谷繁蔵さん:
- 72馬以下キレイに収束決まる
面白いのを見せて頂き有難う
- ぬさん:
- この初形で85手も続くことに驚き。
解いてて気になったのが、龍鋸の経路が一意に定まらない場合の扱いです。
龍ノコは経路が限定されてないのが普通なせいか、あまり気にしない人が多いですね。
このようなひと目でわかる非限定は許容範囲かなと思います。
- 中沢照夫さん:
- 龍鋸と飛合の繰り返し。いつの間にか銀が質駒に。
- S.Kimuraさん:
- 最後は悩みましたが,銀の腹に潜り込んだ龍を,飛合で邪魔するのは楽しかったです.
- Pathfinderさん:
- まさか龍鋸が繰り返されるとは思いませんでした。収束まで上手くできていますね。
- はやしさん:
- 銀を引っ張り出しました。
- おかもとさん:
- 楽しい龍ノコ。収束もうまいものですね。
- 小山邦明さん:
- 銀を84まで動かせば質駒になる事を利用した面白い手順
- 波多野賢太郎さん:
- 銀が不成だとなかなか王手で銀がとれなくてなるほどなあと思いました。手数こそ80手台ですが、難しくなくて楽しかったです。
- 隅の老人Bさん:
- 王が寝返りしている間に、忍び足で階段を下りるの誰?
真夜中の怪事件、飛と馬が消えて、やっと解決。
- 池田俊哉さん:
- 龍鋸を使って99銀を銀生連続で84まで持ち上げる。
呼び出し剥がしと言っても良いのかな?
何枚も呼び出して剥せば呼び出しはがしになりますが、1枚だけなので単に呼び出し趣向ですね。
- 金少桂さん:
- 図巧1番の飛車の遠打の代わりに龍鋸を用いることで、銀が近づくまで何度も龍鋸を繰り返すことになって面白さが増していると思う。
- ハマGさん:
- ノコがネストすると手数が掛算で伸びますね。
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