超長編作品は、その性格上昔から不完全作が多かったので、
1998年9月、当時発表されていた300手以上の全作品の完全性をコンピュータを使って確認し、コンピュータ将棋協会の例会で報告しました。
それ以降も新たに発表された作品について継続して確認しており、最新の結果を超長編作品リストで見ることができます。
今回の作品も510手台ということで、そこに追加される作品です。
一見して右辺のと金群をはがす趣向に見えますが、いったいどのような仕組みでそんな長手数になるのか、手順を見ていきましょう。
81龍、75玉、57角、64玉、84龍、53玉、54龍、62玉、
52龍、71玉、35角、82玉、71角成、同玉、61龍、82玉、
91龍、83玉、
龍追いによる回転で52の歩を入手します。
ちなみに後手は桂1枚しか持っていないので、81龍に83桂合は57角で合駒なしの詰み。
また54龍に42玉は、52龍、31玉、41成銀、21玉、12歩成、同金、31成銀、同玉、32金まで。
これは実はこの作品の収束です。
つまり、どうすれば龍の回転の中で54龍に62玉でなく42玉と行かせることができるか、それがこの作品のキーになっています。
しかし、なぜ途中で角を捨てるのでしょうか。
それは、84に利いたままだと、このあと81龍、82桂合となったとき84歩が打歩詰なので、それを回避するためです。
また35角を同とと取ってしまうと、あとでその35のと金を狙われて早く詰みます。
さて、この時点で先手の持駒は歩1枚、後手の持駒は角と桂です。 ここから18手かけて持駒の歩を桂に変換します。 この手順をAとします。
A 「81龍、82桂合、84歩、同玉、82龍、75玉、85龍、64玉、
65龍、53玉、54龍、62玉、52龍、71玉、61龍、82玉、
91龍、83玉、」
85龍のとき66玉と逃げられるのが気になるかもしれませんが、桂が持駒のときは以下65龍、77玉、69桂、同馬、67龍で詰み。
Aにより後手の持駒は角と歩だけになるので、もう一度81龍とすると82角合の一手です。 角を入手して39角と打ち、17角、同とすれば、と金を1枚はがすことができます。
先手の持駒はまた歩に戻ります。 この手順をBとします。
B 「81龍、82角合、75桂、84玉、82龍、75玉、39角、64玉、
84龍、53玉、54龍、62玉、17角、同と、52龍、71玉、
61龍、82玉、91龍、83玉、」
39角、17角、同との部分はサイクルによって変わるので、B(39角、17角、同と) と書くことにします。
ここまでで17でと金を1枚はがせたので、継続してはがします。
と金で取る順番はどれからでも可。
ただし、龍で取るのは最後です。
A、B(39角、17角、同と)
A、B(39角、17角、同と)
A、B(39角、17角、同龍)
更に龍をはがしに行くのですが、龍を取られてはすぐに詰んでしまうので、39角のとき48歩と中合します。
これにより、今度は26でと金をはがすことになります。
A、B( [39角、48歩合、同角] 、26角、同と)
A、B(48角、26角、同と)
A、B(48角、26角、同と)
A、B(48角、26角、同龍)
次も同様に48角に57歩と中合し、はがす地点が35に変わります。
A、B( [48角、57歩合、同角] 、35角、同と)
A、B(57角、35角、同と)
A、B(57角、35角、同と)
A、B(57角、35角、同龍)
今度は57角に66歩合は二歩なので66桂合ですが、66がふさがったことで85龍が可能となり、収束に向かいます。
A、
81龍、82角合、75桂、84玉、82龍、75玉、57角、66桂合、
85龍、64玉、65龍、53玉、54龍、42玉、52龍、31玉、
41成銀、21玉、12歩成、同金、31成銀、同玉、32金 まで519手
54龍に62玉は35角と龍を取って簡単なので42玉とせざるを得ず、収束します。
回転型龍追いによる持駒変換と多重連取りの組み合わせで500手越えを達成。
超長編作品リストに追加しました。
この組み合わせの作品としては看寿賞を受賞した井上徹也さんの「涛龍」がありますが、
はがし方や 龍を取られないように中合することではがす地点がずれて行く機構も異なり、立派な新作といえるでしょう。
若島正さん「菅野さんの未発表作を修正しました。
駒がもう1歩あれば、もう少しましな収束をつけられたのですが、どうしても使用駒を削る案が見つけられず。」
ということで、ぎりぎりのバランスで成立しているようです。
なお、515手、517手の解答がありましたが、数え間違いの可能性もあるので正解として扱いました。
上記の解答を見て、作品の問題があると思われる場合にはご連絡ください。
それでは皆さんの感想を(解答到着順)。
- はむきちさん:
- これは難しくてソフトの助けを借りましたが、玉が何周もぐるぐるとても楽しかったです。
展示室はソフト活用で鑑賞するのも大歓迎です。
- 山下誠さん:
- 打歩詰回避と歩の入手を兼ねた角の転換が面白い。
角が合駒で何度も駒台に乗る仕組みもシンプルで良い。
- 松崎一郎さん:
- 「歩で桂を取り、桂で角を取り、角でと金や歩を取り」
のサイクルを13回(と金10枚と歩合3枚)も繰り返す手順の妙に感心しました。
- りらっくすさん:
- これは新しいパターンの多点はがしですね!
アルカナと同じく最奥のデス駒をかばうタイプですが、デス駒の竜が段階的に引き寄せられるのが面白いです。
一旦桂と交換するサイクルも入って500手超えはおみごとです。
大学院に出さなかったのは、はがし駒の取り順による変同を気にされてのことでしょうか?
しかし特に早詰みの無い純粋な非限定になっていれば、メタ新世界などと同様に同手数になるのは明解なので全く問題無いと思いますが
(ムダに限定されてる方がよっぽどイヤです)。
まだまだ可能性を感じさせてくれる超長編作でした。ありがとうございました。
大学院に出さなかったのは、26角や35角の時、先に52龍、71玉としてから26(35)角とする迂回手順のキズを気にされたのかと思います。
- 小山邦明さん:
- 11手目の35角に気付いた時は感激でした。
角と桂の合駒のうまい組み合わせと龍を取らさないための中合いを入れて、見事な500手越えの長編作品でした。
- 占魚亭さん:
- 龍追い×と金剥がし。
長手数だがサイクル手順が分かりやすく作られているのは菅野氏らしいですね。
- おかもとさん:
- 龍追い×持駒変換×と金はがし。
左上の龍追いが「天」で、右下のと金はがしが「地」かな。
- inokosatoshiさん:
- 竜に追われて天を駆け巡る玉に、地下から角の鋭いレザー攻撃。
歩、桂合いの妙防で逃れようとする玉。 息をのむ緊張感あふれる名作が誕生です。
- たくぼんさん:
- シンプルな機構ですが無駄なく長手数を実現しているのがすごい。
中合でルートが短くなるのも見ていて気持ち良い
- 池田俊哉さん:
- 涛龍を思い起こさせる「龍追い+持ち駒変換+多重連取り」。
多重連取りとしては19龍の配置が画期的で、収束への入りまでスムースに作られている。
最初のところだけ「82玉71角成」の筋が入るが、他の部分でもこれが成立しており、
逆に全部この筋だったらもっとすごかったのに...と思わないでもないのは、欲張りなんでしょうね...
- S.Kimuraさん:
- 右下のと金をはがすのは想像が付きましたが,具体的にどのようにはがすのかが分かりませんでした.
- 金少桂さん:
- 序の35角〜71角成がちょっと不思議な味の導入。
と金はがしで最後に別の駒(本作の龍)に狙いをつけることで収束に入るのがよくあるパターンだが、
本作の場合、龍に狙いをつけられたときに歩捨合で焦点をずらして、再度別地点でのと金はがしになるのが巧いところ。
その結果、3地点でと金はがしを行うことになり、はがすと金の枚数が大量に増えて超長手数が見事に実現。
余分の手がほとんどないくるくる的な作りで、500手越えの超長編にもかかわらず12名もの解答をいただきました。
研究展12で解答12名、本日5月19日で519手、偶然の一致ですが何となく気持ちいいですね。
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