コンピュータがどんどん速くなってくると、飛角図式のようなシンプルな詰将棋は全検されて、
人間が創作する楽しみが失われてしまうのではないか。
これは最近の話ではなく、なんと17年前、詰パラ500号記念号に載っている話です。
帝都大学理学部講師の陣内竜堂氏が、飛角図式を全検し、未発表の3327作を詰パラ編集部に投稿してきて、
すべての作品の著作権を主張したというストーリー。
吉村氏は、この物語が「きわめて高い確率で近い将来起こり得る大事件」だと書いています。
本当にそうか、詰将棋創作プログラミングの一環として検証してみました。
試算した結果は、飛角図式の全検にはスーパーコンピュータを使っても90年ぐらいかかるということで、
当分は陣内竜堂さんが現れるのを心配する必要はなさそうです。
将棋のあり得る棋譜の組合せ数は10の220乗といわれていますが、
詰将棋の場合、初形の配置だけで決まってしまうので、将棋にくらべると組合せはずっと少ない。
といっても、シンプルな飛角図式でも90年もかかるぐらいで、詰将棋全体となれば、
この先どんなに高速になってもコンピュータに全検できるような小さな数ではありません。
しかし全検できなくても、将棋のプログラムがプロ棋士の棋譜なども活用して、
人工知能的なアプローチでプロ棋士を超える実力になってきたように、
詰将棋創作についても、いずれは看寿賞を受賞するような作品をコンピュータが生み出す時代がくるのかもしれません。
上記の検証で、飛角図式の全検は無理なことが分かったので、それならいろいろ組合せ数を減らすことを考えれば、
一定の範囲内では全検できるのではないだろうか。
そう考えて発見したのが本作です。
通常の飛角図式は盤上に4枚の飛角を配置するわけですが、使用駒飛角図式を考え、
さらにその一つとして、飛一色図式の角一色持駒に限定して調べてみました。
ここまで限定しても全検には10日以上かかりましたが、いくつかおもしろい作品もみつかりました。
一番きれいな形だったのは創作プログラミング作品22(45飛65飛|58玉|角角 31手)。
残念ながら21手目からの4手を別手順の6手で作意に合流するキズ(迂回手順?)があるので、展示室での出題は断念。
しかし、本作も手順も含めた美しさでは負けていないと思います。
前置きが長くなりました。 手順を見ていきましょう。
目につくのが、24角、23玉、14角、同玉、42角成と飛を取る手順。
好調のようですが、25玉、23飛、36玉と逃げられて届きません。
35角、23玉、14角、33玉、 (途中図1)
35角と離して打つのが好手です。
33に逃げられるので、ちょっと指しにくいかもしれません。
12玉や22玉は42飛成で簡単。
24歩の捨合は、同角で1歩入手できるので先ほどの手順で歩が叩けて詰み。
また、24桂合なら、同角、23玉、15桂、14玉、36角、25銀合、42角成以下。
2枚の角を打った時点(途中図1)で、通常の飛角図式になりました。
成駒なし、持駒なしなので、正純飛角図式ですね。
ここで持駒もなくなって一見切れ模様ですが、42飛成が英断の一手でした。
同玉で持駒飛だけで詰むのかなあと不安になる形。
大丈夫、大駒3枚の威力はすばらしくこれで詰むんです。
42飛成、同玉、 (途中図2)
ここで局面を見ると、なんと角一色図式に。
飛一色図式から飛角図式を経て角一色図式に変身するとは、なかなかおしゃれですね。
ここから、まだまだ大変。 大駒3枚の追い回しで入玉させることに。
22飛、43玉、32角成、34玉、24飛成、45玉、44龍、36玉、
44龍に56玉は、46龍、67玉、57龍以下斜め龍追いで詰み。
こんなところに趣向手順がでてくるとうれしくなりますね。
54馬、37玉、46龍、28玉、
ここは、46龍、27玉、54馬、28玉とする手順前後が成立。
48龍、38歩合、46角、29玉、18馬、同玉、38龍、17玉、
28龍、16玉、17歩、15玉、24龍 まで31手
18馬捨てが決め手で、以下15まで追い戻して収束します。
手順前後のキズはあるものの、飛一色図式が角一色図式に変身する史上初(?)の趣向に、
大駒3枚の追い回しもおもしろく、楽しめる作品だと思います。
それでは、みなさんの感想を。 解答到着順です。
- Pathfinderさん:
- 飛一色図式から途中で角一色図式になるのが面白い。
- 隅の老人Bさん:
- これまた素晴らしい好作。
初形良し、持駒良し、詰手順良し。
詰上がり図も、これまたお気に入り。
- 小山邦明さん:
- 初手24角から飛を入手する手順から考えるのが、33玉もさせたくないですし、普通の感覚ですよね。
このように飛を取って追い回す手順になるとは思いませんでした。
角2枚に持駒飛で追い回して詰むとは想像しにくいかも。
ちなみに持駒飛の角一色図式を検索してみたら、次の2作だけでした。
- 42角43角|41玉|飛 7手 二上達也 将棋世界1953年12月
- 62角64角|85玉|飛 9手 来嶋直也 詰パラ2010年4月
- 山下誠さん:
- 好形、好手順で詰上がりもきれいですね。
- 占魚亭さん:
- 追い詰めだが、きれいな順。
- 池田俊哉さん:
- 6手目42飛成が大英断で、大駒だけで大海を追うのはやりにくい。
手順前後も残念だが46龍に対して25玉でも面白かったのに、とも思う
46龍に25玉は、43馬、34飛合、26龍、14玉、32馬、同飛、24龍までと、もう一度飛角図式になるかっこいい手順。
- S.Kimuraさん:
- 普段は,柿木将棋 for iPad を使って解いていますが,念のため,柿木将棋VIIIで確認したところ,違う解答を出したので,こちらで解答を出します.
柿木将棋 for iPadは,16手目に45歩として分岐し,31手で最終手は23馬,玉の位置は13でした.
柿木将棋VIIIで16手目を45歩として,続きを解かせたところ,iPad と同じ解答を得ました.
流れを追い切れていないので,どちらが正しいのか分かりませんが,いずれの解答も,良く追いつめられるものだと思いました.
15手目54馬に45歩合は、同龍、37玉、46龍で作意順に戻るので無駄合ですね。
PC版とiPad版で無駄合判定のロジックが異なるのかも。
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