授業日誌 2003年 11月

11月5日(水)実習

光合成色素の分離

ペーパークロマトグラフィー

−72−

ペーパークロマトグラフィーによる光合成色素の分離の実験を行ないました。学習する単元はまだ先なのですが,2年生で実習するついでに,1年理数科でもやってしまいました。


緑色をした葉っぱと,紅葉している葉っぱを用い,まずは色素の抽出を行ないました。写真は,シロツメクサと中庭のドウダンツツジをとってきて,アセトンとメタノールの混合液で抽出しているところです。

さらに。抽出した液をろ紙に濃く染み込ませます。右下の細いガラス管(キャピラリー)を使い,何度も乾かしながら,色素を染み込ませました。



左上の写真は,色素をよく染み込ませた様子です。右側はドウダンツツジで,この時点で,紅葉の「紅」を示す色素が出てきています。この色素は「アントシアン」といい,光合成には関係ありません。

色素を染み込ませたろ紙は展開剤の入った試験管(チェンバー)入れます。この時,色素を染み込ませた部分が展開液に漬からないように注意。

しばらく時間をおくと,左の写真のように,光合成色素が分離されます。左のシロツメクサでは,下から,「クロロフィルb」「クロロフィルa」「キサントフィル」が2種類,「カロチン」と,5つの色素が分離しました。

下の写真は,抽出した色素の強い光を当てたものです。光合成色素は光のエネルギーを一旦吸収すると,その一部を赤い光に変えて放出します。普通太陽光を受けても赤く光っているのですが,明るいと見えないだけです。この赤い光は,反射しているのではなく,光合成色素自身が発光しているのです。

「わー」(生徒)

11月6日(木)授業

DNAの構造・遺伝子としてのDNA

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遺伝子の本体であるDNAは4種類の塩基(A,T,G,C)を持つヌクレオチドが2列にたくさんつながってできています。そしてその塩基の配列こそが,遺伝子としての意味を持っているのです。ですから,塩基の配列が簡単には変化しないこと,細胞分裂の前にDNAが複製される時,極めて正確に同じ塩基配列のDNAが作られることが重要です。それが可能なのが,DNAの構造なのです。DNAの構造が「二重らせん構造」であると,ワトソンとクリックによって明らかにされて今年度ちょうど50年,今日もすごい勢いで生物のなぞが解きあかさています。

「ヒトとチンパンジーは塩基配列の違いが1.6%しか違いません。これは多い?少ない?」(B)

11月7日(金)実習

ショウジョウバエの遺伝実習

F2のカウント

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  10月にはじめた,ショウジョウバエの遺伝の実験も,ついにF2が出てきました。まだ数は少ないですが,今日がかぞえはじめです。来週の中ごろまで数をかぞえて,結果を出します。はたして期待値通りの結果になるかどうか。

来週の月曜から,放課後,昼休み等を利用して,F2の数をかぞえます。

11月11日(火)実習

DNAの抽出実験

−75−

すりこぎで粉砕したブロッコリーに,台所洗剤と食塩を混ぜたDNA抽出液を加え10分間静置します。台所洗剤で脂質でできた細胞膜や核膜を溶かし,食塩でタンパク質を変成させ,DNAだけがほぐれてくるようにします。10分後,ガーゼで搾った汁を別のビーカーに入れ,そこに静かにエチルアルコールを注ぎます(左写真)。すると,抽出液(下の層)からアルコール(上の層)の中に浮き上がってきたDNAが,アルコールの中で凝集して集まってきます。右の写真の透明な層の中に浮かんでいる白いものがすべてDNAです。どんな生物も,遺伝子としてDNAを持っています。それはしかし,ゴミのような白い物体でした。タマネギでもやってみました。タマネギでもDNAがとれました。

「これが遺伝子?白いものが浮き出てきて感動しました。私達も持っているのだなあ」(生徒s)

11月12日(水)授業

刺激の受容と反応

−76−

今日から新しい単元,「環境と生物の反応」です。まずは動物について「刺激の受容と反応」について学習します。
私達動物は生きていくためにさまざまな外界の情報を取り入れ,それに対して適切な行動をしなければなりません。外界の情報は「刺激」と呼ばれ,光や音などさまざまなものがあります。動物はそれぞれの刺激を受容するための「受容器」を持っており,受容器が受け取ることのできる刺激を「適刺激」と言います。刺激が受容されるとそれは神経を伝わる情報である「興奮」にかえられ,脳に伝えられます。脳でさまざまな処理を受けた情報は,必要に応じて「動け」と言う信号を効果器である筋肉に送り,反応としての行動が起ります。

まずは光の受容器である眼についての学習です。明日は自分の眼の構造を探ります。

11月13日(木)実習

眼の中の不思議な構造

−77−
自分自身の眼球の構造を調べます。左目をつぶり右目の正面の★を凝視すると,ある距離においた時に,●が見えなくなります。丸の中心から目印を動かすと,見えてくるところがあり,その点を結ぶと,眼の中で,光を感じる細胞のない場所「盲斑」の形を知ることができます。
約50cm離れたところで,直径10cm弱の範囲が見えなくなります。

11月14日(金)授業

視覚

−78−

光刺激は角膜を通り,瞳孔で量を調節され,水晶体(レンズ)で屈折し,網膜に像を結びます。網膜には2種類の視細胞がありますが,明るい時には,赤,青,緑の色に反応する物質を別々に持った錐体細胞がそれぞれの光を興奮に変換します。暗いところで働く桿体細胞が,弱い光を興奮に変換します。桿体細胞には色を識別する能力はありません。視細胞に発生した興奮は,視神経に伝えられ,さらに大脳視覚野で初めて「視覚」として認知されます。

「映画館に入る時は,しばらく前から片方の眼をつぶって,ロドプシンを作っておきましょう。」(B)

11月18日(火)授業

聴覚・平衡感覚・回転感覚

−79−

」は空気の振動です。空気の振動は耳殻によって集められ,外耳道の奥にある鼓膜を震わせます。鼓膜によって個体の振動に変換した音は,鼓膜につながる耳小骨によって増幅され,内耳に入ります。内耳はリンパ液で満たされていて,リンパ液が振動すると基底膜と呼ばれる膜も振動します。基底膜にはコルチ器という器官があり,コルチ器の上の聴細胞も振動しますが,聴細胞の上にかぶさっているおおい膜は動かないので,聴細胞にある毛がおおい膜との間で接触し,その刺激が聴細胞に興奮を引き起こします。この興奮が聴神経を通して大脳に送られ,音が認知されます。

「一つの音を聞くのにも,えらい面倒なことが起きています。」(B)

11月19日(水)授業

効果器(筋肉)

−80−

筋肉は,筋繊維と言う多数の細胞が一つに合体した,長大な多核の細胞が束になってできています。細胞質には,筋原繊維と呼ばれる,ミオシンアクチンと言う2種類のタンパク質でできた構造が規則正しくならんでいるので,顕微鏡で見ると横しまが見えます。2つのタンパク質の間で滑り込みが起り,筋原繊維が短くなると筋肉が収縮し,関節を曲げたり,反対側の筋肉が収縮すると,逆に関節が伸びたりします。

「関節にはすべて曲げる筋肉と伸ばす筋肉がついてます。よく間違わずに動かせるものです。」(B)

11月20日(木)授業

神経系

興奮の伝導・伝達

ー81−
神経系はニューロン(神経単位)と呼ばれる,神経細胞からできています。ニューロンを伝わる信号は「興奮」と呼ばれ,その正体は,細胞膜内外の逆転した電位です。通常神経細胞は細胞が毬プラス,細胞内がマイナスの電荷を帯びています,しかし,刺激が加えられると細胞膜内外の電位差が逆転して,外がマイナス,内がプラスになリます。すると,隣接する場所に電流が流れて,それ我新たな刺激にり,新たな過電位の逆転が,隣接した場所に起きます。逆転した電位のことを「活動電位」と言い,これが神経を伝わる信号「興奮」の正体です。ニューロンと別のニューロンとの接点はシナプスと言い,軸索末端から神経伝達物質が分泌され,物質によってとなりのニューロンに新たな活動電位が発生することで興奮が伝わっていきます。

11月21日(金)実習

昆虫の体を探る

「カイコガの解剖」

ー82ー

 脊椎動物の神経系をメギスを材料に観察してから,節足動物の解剖を行なう予定でしたが,カイコガが思いのほか早く成長して,まゆを作りはじめました。急きょ,カイコガの解剖です。昆虫は体が体節構造をとり,気門と呼ばれる呼吸器官を持つなど,我々とは違います。

  麻酔したカイコガを解剖ざらに固定して,はさみで腹側と,背側とそれぞれ,一頭づつ解剖しました。写真は腹側にはさみを入れたところです。

皮を開くと透明できれいな絹糸腺がまず眼に入ります。写真の体の中央にそってあるのは消化管で,その両脇に透明な絹糸腺があります。画面をクリックすると,写真が大きくなります。排出器官であるマルピーギ管も見えます。

絹糸腺と消化管を取り除くと,背脈管と呼ばれる,心臓に代わる器官があります。カイコガの血管系は解放血管系で,体の後部の体液を集め,体の頭部に流します。いわゆる血液は存在しません。体液が押し出されるところが観察できました。

「ギェー,と言いながら,最後には「もう一頭」解剖した班もありました。けっこうカワユイ?」(B)

11月25日(火)授業

興奮の伝導と伝達,神経系

−83ー
ニューロンに発生する活動電位は,刺激の大きさに関係なく一定の大きさになります。ニューロンに活動電位が発生するためには一定以上の強さの刺激が必要です。その大きさを閾値(いきち)といいます。
我々の感覚や運動を伝えるニューロンは有髄神経と言い,軸索に髄鞘という構造があります。そのため,興奮はとびとびに伝わり(「跳躍伝導」),その速度は,髄賞のない無髄神経の百倍になります。
ニューロンに発生した活動電位は,ニューロン内では双方向に伝導しますが,ニューロン間では軸索から細胞体(樹状突起)の方向にしか伝わりません。

11月26日(水)授業・演示

大脳のはたらき

ー84ー

ヒトの中枢神経系は脳と脊髄からなります。脳は大・中・小・間と,延髄と言う部分に分けられます。大脳は,一枚のシートが折り曲げられて,頭蓋骨におさまっています。そのシートは皮質(灰白質)には細胞体が,髄室(白質)には神経突起が集まっています。大脳は感覚,運動岳でなく,高度な情報処理を行ない,また,推理や判断,記憶などの機能をもちます。ところが,高度に集積した神経が,複雑なネットワークを形成しずぎて,時には見えてないものが見えたり,経験したことがないのに記憶がでっち上げられたりします。それが錯覚です。

左の図は横線はすべて平行な直線なのですが,縞模様を少しずらすだけで,どう見ても平行には見えません。なぜでしょう。

下の模様みたいなものは何でしょう?じつは,ある言葉が隠されています。答えは画像をクリックして下さい。

出典は「日経サイエンス」(2001年1月号ほか)です。

「脳ってすごい,すごいいい加減? やっぱりすごい!」(生徒)

11月27日(木)授業

大脳以外の中枢神経系

ー85ー
大脳の下には小脳があり,運動の統合の役割をになっています。最近では感情や記憶にも関係していると言うことが分かって来たらしいです。間脳・中脳・延髄はまとめて脳幹と言います。間脳は体内環境の自動調節を一手に担い,ホルモンと,自律神経の中枢として働きます。中脳は眼に関する調節と姿勢保持,延髄は呼吸と心拍数の調節,その他の反射行動の中枢です。
もう一つの中枢神経系が脊髄です。脊髄は,体の下部の反射行動の中枢であるとともに,体のかく部につながる,体制神経(感覚神経・運動神経)と,自律神経の出入り口でもあります。

11月28日(金)授業

伴性遺伝復習

ー86ー

今回の試験範囲はかなりの量があるので,授業は昨日で終了して,復習と演習をはじめます。
まずは,実験でも行なった伴性遺伝。キイロショウジョウバエの眼の色を白くするか赤くするかは,X染色体の上に乗った対立遺伝しW(赤眼:優性)と,w(白眼:劣性)遺伝子によって決まります。純系の赤眼のメスと白眼のオスを交配すると,F1はすべて赤眼,さらにF1の雌雄を交配すると,メスはすべて赤眼,オスは赤眼と白眼が1:1の比で出てきます。ところが,両親の性を入れ替えて,白眼のメスと赤眼のオスを交配すると,F1はメスは赤眼,オスは白眼になり,F1の雌雄を交配すると雌雄とも赤眼と白眼が1:1の比で出てきます。このように交配の結果が雌雄で異なる場合は,着目する遺伝子が性染色体にあります。

「試験範囲長過ぎます」(生徒),「3学期は一斉テストするか?」(B),「いりません」(生徒)

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