☆ 国体
 
 待ち合わせ場所の、新横浜駅前に、一般人から見ると異様に背の高い、彼等の姿が目立っている。
 「三井はどうしたんだ?」
 赤木があたりを見渡して、宮城に尋ねる。
 今日は現地集合にしたため、朝から三井とは会っていないのだ。
 「それが、まだ見かけてねーです」
 「なんだと?」
 こんな日に、遅刻するなど、心のたるみに違いないと思い、赤木は、説教してやらねばと拳に力を入れた。
 一方、三井は、駅の構内を走っていた。
 今朝、甥っ子になかなか離してもらえなくて、思いのほか時間を食ってしまったのだ。
 ようやく宥めすかして、家を出て電車に飛び乗ったのだが、やはり、遅刻ぎりぎりになってしまった。
 必死で待ち合わせ場所に向かって走っていた。
 ようやく集合場所にたどり着いて、宮城を見つける。
 「ワリー、遅れた…」
 「どうしたんスか?心配したっすよ」
 「あぁ、ちょっと家で、出掛けにごたごたしちまって…」
 荒れた息を整えながら、三井は、すまないと答える。
 「三井!いったい何をしとったんだ!遅刻など、性根が足るんどる証拠だ!」
 いきなり、赤木が説教モードでたたみかけた。
 「なっ…!」
 遅刻をしたことは、変えようもない事実なので、三井は反論の矛先が鈍る。
 赤木が、くどくどと説教をはじめたので、三井は、首をすくめながら、どうにか逃げ出そうとあたりを窺う。
 しかし、助けが入りそうな気配がなく、がっくりと項垂れたのを、赤木は反省していると感じたのか、ようやく説教を終わらせようとした。
 「今後、こんないいかげんなことを続けると、やめさせるぞ。反省して、これからは、時間を守るように」
 そう言い置いて、牧のところに、全員揃ったと報告に言った。
 「ふえー」
 「災難でしたね、三井サン」
 「ま、まぁな…。今日はいつもより説教長かったぜ」
 肩をすくめて、三井は溜息をついた。
 「ミッチー、なんで遅刻したんだ?」
 背中から、赤毛の小坊主が抱きついてきた。
 「うわっ、こら!暑いだろ!桜木!ちょっと、甥っ子に朝離してもらえなかったんだよ!」
 「ん?あぁ、あのちっこいミッチーか?」
 「そうだよ。朝からぐずっちまって、離してくんなくってよ。宥めすかして出てくんのに時間かかっちまって」
 「ちっこいミッチーってなんですか?」
 三井の甥っ子を見たことがない、宮城が尋ねる。
 「ちっこいミッチーは、ちっこいミッチーなのだ」
 「はぁ?」
 「あ、あのな…。俺の甥っ子だよ。この夏の間ずっと、うちに泊まりこんでるんだ。で、俺が、面倒を見てるって感じでよ」
 「へぇ…。三井サン、おじさんなんですか?」
 「うっ…。ま、まぁな…。姉貴の子なんだけどよ。姉貴ともども、家にいついちまって…。」
 「え、もしかして、リコンの危機なんスか?」
 「いや。姉貴んとこは、いまだにラブラブなんだけどよ。なんか、甥っ子が帰りたがらねーんで、義兄さんの転勤までこっちにいるとか言い出しちまって…」
 「はぁ、なんか、優雅ですねぇ」
 「まぁな、暇な専業主婦やっちまってるからなぁ…」
 「じゃぁ、とうぶん、甥っ子がいるんですかい?」
 「だろうなぁ…」
 「また遊びに連れてくればいいのだ。ちっこいミッチーは、ミッチーみたいでかわいいぞ」
 「はぁ?」
 意味がわからんと、宮城が頭を捻っていると、桜木から三井を引き剥がそうと、今まで、ベンチに座って居眠りしていた流川がやってきて、ひと悶着起こりそうになった。
 「センパイをハナせ!」
 「ふぬ!ミッチーは、わたさねーぞ!」
 「お、おい、お前ら、また…」
 「こら、花道!流川!いいかげんにしねーか!」
 「くおらー!なにやっとるかー!」
 報告から戻ってきた、赤木に、4人とも拳骨をもらってうずくまる。
 「な、何で、俺まで…」
 「そ、そうっスよ。赤木の旦那、ひでぇ…」
 「騒ぎは、全員の責任だ!わかったか!それと、そろそろ、集合だ!荷物を持ってついてこい!」
 怒鳴る赤木に、4人は、目を合わせて、溜息をつく。
 「なんだ?何か文句があるのか?」
 ギロリと赤木ににらまれて、フルフルと首を振る4人だった。
 堂々と歩く赤木のあとに、荷物を持って、そそくさとついていく。
 「ったく…。桜木と流川のとばっちりをいつも受けるのは俺なんだよな…」
 かんべんしろよと三井がこぼす。
 「まぁまぁ、三井サン」
 宮城に宥められて、三井は、首を振る。
 集合場所にやってきて、集まったメンバーを見れば、まだ陵南が揃っていないようだ。
 「あれ?仙道は?」
 ざっとメンバーを見渡して、ひときわ目立つはずの男がいないのに気づく。
 サポートの越野がおろおろと、右往左往している。
 先日の合宿で同室だった、福田を見つけて近づいて仙道はどうしたのか尋ねる。
 どうやら、遅刻しているらしい。
 仙道は、遅刻魔のようで、陵南では要注意人物のようだ。
 「へぇー。仙道ってそうなのか?」
 この間、流川対策にバスケに誘って待ち合わせたときは、そうじゃなかったけどなぁと、三井は思ったが、福田が頷くのを見て、黙っていた。
 「大変だな、あいつ、キャプテンだろ?」
 三井が同情していると、背中に不穏な気配を感じた。
 振り返ろうとした途端にがばっと抱き込まれてしまった。
 「う、うわ!」
 「三井さーん!おはようございますー」
 「せ、仙道?」
 三井が、じたばたと暴れていると、越野がやってきた。
 「仙道!なにやってんだよ!お前一人が遅刻だぞ!」
 「だって越野。駅に行ったら電車が俺を置いていくんだよ。まいっちゃった」
 「まいっちゃったじゃないだろ!電車がお前を置いていったんじゃなくて、お前が乗り遅れたんだろ?それに、三井さんに抱きついてなにしてんだよ!とっとと離れて、牧さんに挨拶に行ってこいよ!」
 越野が、背伸びして仙道の耳をひっぱる。
 「いたたた…。ひどいよ越野」
 仙道はようやく三井を解放し、越野に引っ張られて、チームのまとめ役である牧のところに、遅れた挨拶をしに行ったようだ。
 福田に軽く手を上げて、三井が、湘北のメンバーのところに戻っていく。
 「全員揃ったようですね」
 宮城が、全体を見渡して人数を確認する。
 「あぁ、最後じゃなくてよかったぜ」
 目立たなくてよかったと、三井は思った。
 一行は、ぞろぞろと連れ立って、新幹線ホームに移動して、新幹線に乗って一路大阪を目指した。
 
 大阪についた一行は、まず、宿舎に向かう。
 宿舎は、会場である府立体育館からは少し離れた、繁華街のはずれにあった。
 ビジネスホテルなので部屋割りは基本的に二人部屋である。
 さて、ここで、部屋割りをどうするか、問題になった。
 「どうしたもんかな」
 牧が首を捻る。
 藤真が牧の横にやってきて、提案する。
 「そりゃ、くじ引きしかないんじゃないか?」
 「やはりそうか?」
 「とりあえず、あみだくじでもするか?」
 藤真がそういうと、紙を2枚出して8本ずつ線を引く。
 下に部屋番号を書いて、折り曲げる。
 「さて、これで、どうしても同じ部屋に入れられない奴等をこっちに固めてくじを引かせようぜ」
 そういうと、問題を起こしそうな1年生3人と仙道、そして、残りの2年のうち福田、宮城の2人を呼び、最後に三井に引かせる。
 「な、何で俺がこっちなんだよ!まだ、2年が残ってるじゃねーか!」
 「お前のほうが落ち着きがない」
 藤真に一言で断言されて、三井は真っ赤になる。
 「ひ、ひでー」
 ブツブツ言う三井を無視して、もう一枚のあみだくじを、残りの神や越野や3年生たちが引いていく。
 名前を書いて横線を2本ずつ引いていくのだ。
 最後に、藤真が引いてくじの結果発表となる。
 「えーっと、301号が赤木と桜木、302号が越野と仙道、303号が長谷川と流川、304号が花形と宮城、305号が神と福田、306号が牧と三井、307号が高砂と清田、で、俺が308号で一人部屋だな」
 文句があるかと、じろりと一同を見渡す。
 桜木と、清田が文句を言いそうになったが、赤木と牧に頭を張られて大人しくなった。
 それぞれ、部屋に荷物を置き、夕食まで休息となった。
 部屋の鍵を渡され、それぞれが部屋に散る。
 ちなみに監督達は4階の部屋に一人ずつ泊まる事になっている。
 306号室に三井と牧が入る。
 「三井、まぁよろしくな」
 「うん、こっちこそよろしく」
 「三井が、あっちに入ってたんでラッキーだったな」
 「へ?なんで?俺、藤真に煩いからってあっちのくじ引かされたんだぜ」
 「だが、俺としては、1、2年の面倒見させられるより、三井と同室のほうがはるかに楽だからな」
 「そ、そんなもんか?」
 「清田と当たったら、こんなに落ち着いて話なんて出来なかったろうな。高砂はとんだ災難だ」
 ベッドに腰掛けて、牧が笑う。
 「牧ってもっと面倒見がいいと思ってた」
 「面倒は、みるよ。必要ならな。しかし、できることなら、のんびりできるにこしたことはないな」
 そういうと、肩をすくめた。
 「まぁ、そうだな。俺も赤木に同情するよ」
 三井も、とことん桜木の面倒を見るためのような、赤木に同情する。
 「俺たちは、せっかくの幸運な部屋回りを、十分に利用しよう。落ち着いて、試合に臨もうな」
 「おう!全国制覇だからな!」
 「そうそう、その意気」
 二人は、荷物をといてクローゼットに服をかける。
 三井は、ベッドにダイブして大きく伸びをする。
 牧も、ベッドに寝転がってふうと大きく息をつく。
 夕食の集合まで、約2時間。
 二人は居眠りをすることに決めたようだ。
 牧が、目覚ましをセットして、再び横になる。
 すぐに、寝息が聞こえて、306号室に静寂が訪れた。
 
 夕食の時間になり、牧が目覚ましの音に目を覚ます。
 まだ居眠りしている三井を揺り起こす。
 「三井、三井」
 「う、うーん…」
 ぼやっと目を開けた三井に、くらくらしながらも、牧は踏ん張って三井を覚醒させる。
 「三井、そろそろ夕食だ。起きろよ」
 「…うん」
 ようやく、三井が起き上がり、伸びをした。
 横目で牧は三井を見ていたが、国体の間、二人きりで無防備な三井の姿を見ていられる幸運と、かなりの忍耐力を使うであろう予感に複雑な思いをしていた。
 「さぁ、いくか?」
 「お、おう」
 部屋の鍵を持って、夕食会場である、2階の会議室に向かう。
 途中、エレベーターが使用中でなかなかやってこないので、横の階段で降りることにした。
 会議室に向かう途中で、桜木と赤木に会う。
 「ミッチー!どっかいってたのか?」
 「んあ?どこもいってねーぞ?」
 「さっき、部屋のドアを叩いたけど、返事なかったぞ。留守じゃなかったのか?」
 「あ?あぁ、寝てたんだ。昼寝だよ昼寝」
 「昼寝?じいも一緒にか?」
 桜木が、不思議そうに牧を見た。
 「あぁ、本当だ。どうやら疲れていたようで、ぐっすり熟睡したよ」
 「ふぬっ…」
 桜木は、なんかずるいと思いながらも、それを語彙にすることが出来なかった。
 夕食をとって、明日の予定を教えられる。
 明日は開会式があり、午前中それに参加。
 そのあと、午後から体育館で第1試合を行うとのことだ。
 神奈川代表は、シードされているので、試合はない。
 翌日の2回戦が緒戦となる。
 対戦相手は、明日の第一試合の結果で決まる。
 3年生たちが、ここ数年の相手候補の状況を分析し始める。
 しかし、三井は最近の各都道府県の動向などよく知らないので、疎外感を感じながら、ぼんやりと牧や藤真を眺めていた。
 「三井さん、どうしたんです」
 横にそっと座って、仙道が三井に声をかける。
 「ん?いや別に」
 「なんか、牧さんをじっと見つめちゃって、妬けちゃいますよ」
 「はぁ?何言ってんだ?」
 「だって、三井さんうっとり牧さんみてたでしょ」
 「うっとりなんてしてねーぞ!俺は、まとめ役って大変だなぁって思って、見てただけだ」
 「そうなんですか?」
 「おう、そうさ」
 「なんか、信じられないけど、まぁそういうことにしておきましょう。ところで、三井さん、今日はこれからどうしますか?」
 「んあ?風呂入って寝るだけじゃねーの?」
 「そんな、もったいない。ここは、大阪ですよ。食い倒れのメッカ大阪です。粉ものが美味いんですよ。食べ歩き行きましょうよ。ねぇ、三井さん」
 そう言って、べったりと三井の背中に抱きつく。
 「な、何言ってんだよ!国体にきてるんだぞ!遊びにきてんじゃねーんだぞ」
 じたばた暴れる三井を逃さず、がっしりと抱きこんで、仙道はなおも囁く。
 「いいじゃないですか、ねぇ、三井さん、デートしましょうよ」
 「や、やめろって、仙道!暑苦しいんだよ!放せって」
 「三井さんが、うんって言ってくれるまで離れません」
 「こら、センドー!ミッチーに何する!」
 桜木が気づいて三井を仙道から引き剥がそうと、近づいてきた。
 ぐいぐいと三井を引っ張って、仙道から引き剥がす。
 桜木は、引き剥がした三井を抱きこんで、仙道を威嚇する。
 「センドー、ミッチーは湘北のだからなっ」
 「そんなの、三井さんは今は神奈川県代表なんだから、俺の先輩でもあるんだよ」
 「ふぬつ!」
 だから、権利はあると、再び三井に手を伸ばす。
 三井は、仙道と、桜木の間で翻弄されて、ややぐったりしている。
 そこに、流川が参戦するにいたり、三井はグロッキー状態になる。
 その3人の攻防に気づいた、宮城と越野、福田があわてて、引き剥がしに入る。
 「こら、お前等、三井サンがフラフラじゃないか!何やってるんだ」
 宮城が三井を引っ張り出して、背中に庇う。
 越野と福田が、仙道を遠くに引っ張っていこうとする。
 「三井さーん」
 仙道が、三井に声をかけるのを、流川と桜木が前に立って威嚇する。
 その後ろにいる宮城に庇われている三井は、情けなさで一杯だった。
 からかわれているのだろうか、それとも、嫌がらせなんだろうか、
 とにかく、他の3年生に対してと、自分に対しての後輩達の扱いが違うのだ。
 他の3年生にはこんなに馴れ馴れしい態度はとらないくせに、自分に対しては同級生かそれ以下の扱いをしてくる彼らに、三井は、機嫌が急降下していく。
 「あ、三井サン!」
 宮城の声を背に、三井は、会議室を飛び出し、階段を駆け上がり部屋の前までやってきた。
 「あ、鍵…」
 さっき鍵をかけたのは牧だったので、三井は鍵を持っていなかった。
 ここでも、自分に落ち込んでしまい、部屋の前に蹲ってしまう。
 「どうしたんだ?三井?気分でも悪いのか?」
 足音がしたかと思うと、牧の声が頭上から聞こえた。
 三井は、落ち込んで、顔も上げずフルフルと首を振る。
 「とりあえず、部屋に入ろう、な?」
 そういうと、牧は部屋の鍵を開け、三井の腕を引いて部屋に入れようとする。
 三井は、抵抗するそぶりを見せたが、これ以上構われたくなくて、諦めて立ち上がり部屋に入る。
 部屋に入って、ベッドに俯きにダイブする。
 牧が、慌てたように近づき、背中に手を置く。
 「大丈夫か?気分が悪いのか?三井?」
 三井は俯いたまま首を振り、このままにしておいてくれという。
 「しかし、具合が悪いのなら、医者に見せたほうが良いだろう?監督に連絡して、車を呼んでもらおうか?」
 安西先生に連絡するということで、三井が反応して起き上がる。
 「別に、体調が悪いわけじゃねぇ。ちょっと落ち込んでただけだ」
 「落ち込んでたのか?一体どうしたんだ?何かあったのか?」
 三井は、話すべきかどうか悩んで、俯く。
 牧が、向かいのベッドに腰掛けて、三井の答えを待っている。
 三井は、溜息をひとつつくと、しぶしぶ話し始めた。
 仙道や、桜木や、流川たちの、自分への扱いが、どうやら、他の3年と異なるのは、やはりブランクがあったことで、舐められているのかと落ち込んでいたことを打ち明けた。
 「仙道は、俺にもそんなに先輩として接してこないぞ」
 「そうか?でも俺みたいに抱きついたりしねーだろ」
 「まぁ、仙道に抱きつかれるのは、ビジュアル的にも、勘弁だが…。それは、三井を舐めてるんじゃなくて、アプローチのひとつなんじゃないか?」
 「アプローチ?」
 「言ってなかったか?お前にアタックするって、あいつ?」
 「そ、そういえば…。冗談だと思ってた」
 「俺にも牽制してくるくらいだから、本気なんじゃないのか。まぁ、何処まで真剣なのかは今ひとつわからないが」
 「う、うーん…」
 「それに、桜木も、流川も、お前は渡さないと、俺に噛み付いてくるぞ」
 「嘘…」
 「嘘じゃないって。以前、実業団の試合見に行ったろう?あの日、三井と別れてから、あいつ等は三井は渡さないと大見得を切っていたぞ」
 「マジかよ…」
 「あぁ、それ以来あいつ等は、俺を仇呼ばわりさ。それを言えば、俺だって、先輩とはあまり思われていないようだな」
 「…なんで牧を敵視するんだ?」
 「まぁ、俺が、あいつ等を牽制したからじゃないかな」
 「え?」
 「だから、三井は俺と付き合っているから、手出し無用だと、あいつ等に断言したからさ」
 「…」
 「迷惑だったか?」
 「いや…。牧はそれでこまらねーのか?そ、その…ガールフレンドとかに…」
 「あぁ、今付き合ってる彼女はいないよ。それに、バスケで手一杯で、彼女を捜す余裕もないし、何と言っても男子校だから、出会いがないしなぁ。当分は、三井と付き合っているといっても、困ることはないよ」
 「そっか…」
 「三井は困らないのか?俺と付き合っていると噂されて、困る彼女がいるんじゃないか?」
 「え?俺?い、いや、俺、ぜんぜんもてねーから…」
 「そうなのか?意外だな」
 「お、俺…バスケに復帰するまで実はグレてたから…。学校の奴等には怖がられてるんだ。だから、ぜんぜん、女にもてねー…」
 「三井がもてないのは、意外だな。湘北は見る目のない奴が多いんだな」
 「そ、そんな…」
 「まぁ、当分は今のまま、あいつ等を牽制するということでいいんだな。俺と付き合ってるっていうことで?」
 「あ、あぁ。牧がこまらねーのなら」
 「じゃあ、そういうことで」
 もう、そんなに落ち込むなと、牧が三井の肩に手を乗せてぽんぽんと叩いた。
 時計を見ると、夜の8時過ぎだった。
 「そうだ、三井近くにたこ焼きの美味い店があるらしいんだが、いかないか?」
 「え?」
 「あの夕食では、腹一杯にならなかったんだが、三井はそうじゃないか?」
 「そういえば、ちょっとものたりなかったかも」
 「せっかく、大阪に来てるんだ。美味いものを喰っていこう」
 「お、おう、でも、いいのか?宿舎抜け出して?」
 「自由時間だからな。別に喧嘩するわけでもないし、たこ焼き食いに行くぐらい、大丈夫だろう」
 なんなら、監督に許可をもらおうかと、受話器を取り上げる。
 「いや、そこまでは…。海南は、いつも全国に行ったときとか、自由時間はそんな感じなのか?」
 「まぁな。締め付けたって、問題は起こるさ。それなら、自主性にまかすほうが、逆にみんな気をつけるんだよ。子供じゃないしな。自覚も起こるから、案外無茶はしないよ」
 「へぇ」
 だから、外に行こうと牧が三井を誘う。
 三井も、小腹が空いてきたので、頷いて、牧とともに部屋を出る。
 廊下でも、誰にもでくあわさず、二人は、外に出た。