4.カイロその1
これから、パピルス屋によって、カイロ市内に行くのだ、カイロで最も大きい市場(スーク)ハン・ハリーリの中にあるレストランで、エジプト料理を昼食にするらしい。
「なんか、すっげー腹減ったかも・・・・」
「あぁ、機内食のあと何も食べていないしな」
かれこれ10時間近く何も食べていないのだ。確かに空腹感は、かなり前からあった。
バスで、ピラミッド地区からカイロに向かう通りの途中にある、パピルス専門店に立ち寄る。ツアー会社と提携している店だろう。幾分割引を利かせてくれるらしいが、値段は、それなりに高い。パピルスは、葦に似た植物を薄く裂いて布のように重ね、重石で固めたものだ。日本語のできる店員が、製造工程を説明してくれる。あちこちの観光地で売っている一山いくらのパピルスは、バナナの木皮などで作った偽物が多いのだそうだ。また、専門店のものは手書きだが、安いものはプリントされたものが多いという。本物と、偽物を見分けるには、くしゃっと握りつぶしてみれば、本物は、多少しわがつくが、伸ばせば元に戻るが、偽物はバリバリに破れてしまうのだそうだ。かといって、道で売っているものを握りつぶすわけにもいかないので、結局は、試すことができない見分け方ではある。
説明のあと、自由にパピルスを見たり買ったりする時間がある。
「結構いろいろあるんだなぁ」
三井は、パピルスでできた、しおりセットを買おうとしている。牧も、小さなものを、下宿に飾ろうかと、絵柄のチェックを始めた。少し横長の『死者の書』が、気にいったのでそれを買う事にする。あと、実家や、知り合いの土産に数枚買って、バスに戻る。
バスに乗って、カイロの旧市街地に向かう。オールドカイロは、六世紀頃にビザンチン帝国の要塞が築かれたところだ。七世紀頃からイスラムの勢力下にあり、イスラム地区が広がっている。
カイロ市内の交通事情は、悪いの一言につきる。信号が少なく、あったとしても守るものはいない。少しでも止まれば、クラクションの嵐だ。何より恐ろしいのは、ぎりぎりの車間距離だ。片道二車線の道に車の列は最低三列。とにかく横を、すれすれに車が走っているのだ。しかも、その間を、歩行者がわらわらと横断していく。少しでも気を抜くと事故になりそうなものなのだが、みんな馴れているのか平然としている。
「ふーっ、すっげーパワーだよな。俺、きっと、一人で道渡れねー」
三井が、クラクションに閉口して、脱力したように言う。
牧も、フリータイムの時に道を渡ることができるか、少し不安だったので、三井に同意を表してやる。
バスが、市場の入り口に着いたので、みんな車を降りた。ガイドに引率されて、レストランに向かう。一行は、曲がりくねった、路地をずんずん歩いて行く。
「なんかはぐれたら、帰れねーよな」
三井が不安そうにこぼした。遅れないように必死で着いて行く。
着いたレストランで、ようやく遅い昼食にありつけることになった。エジプトの名物料理だという。
「げっ!」
配膳された皿の上を見て、三井が、声を上げた。名物の鳩料理は、鳩の姿のままグリルしたもので、なかなか食べるのに勇気のいる代物だった。
「何で、頭まであんだよーっ」
鳥と言えば、フライドチキンぐらいしか食べない三井には、まるまる姿焼きの鳩に、どうしても手が出せない。あきらめて、付け合わせのサフランライスや、ナン(小麦粉を練って薄く焼いた、パンのようなもの)、サラダ、スープなどをつついている。
牧は、一応鳩にもチャレンジしたが、あまり食べるところが無く軟骨が多いと言う印象だった。現地の人は、軟骨まで食べてしまうそうだが、さすがに、それは遠慮したい。
デザートのプディングを食べて一息ついて、集合時間まで、市場の中を散策する事にした。
「がらくたみてーな土産もんが、いっぱいあるよな」
ふらふらとウインドウを眺めながら歩いている三井が、一軒の店の前で足を止めた。金製品の店で、ピアスや、ネックレスが並んでいる。中から店の男が出てきて、三井を中に連れ込んでしまった。慌てた牧が、店の中を覗くと、三井が、狭い店の奥に引っ張られ、男が、入り口に立って逃げないようにブロックしているのだ。
「三井、どうしたんだ?」
「牧ぃー、引っ張り込まれちまった・・・・・どーしよー」
三井が、情けない声で牧に答える。何か買うまで、出してもらえそうにない。
「しかたない、とりあえず、一つ買うか」
牧は、いずれ買うつもりだった、土産を、ここで買うことにした。小さなペンダントトップを選ぶ。金は高そうなので銀製品にした。値段を尋ねると、かなり高い。六割くらいの値段に負けろと言ってみる。値段の交渉をして結局最初の言い値の二割引き位になった。品物を買って、やっと外に出る。
「あー、びっくりした。あの親父何だかベタベタしてたんだよな」
三井は、牧が値段交渉してる間も、ずっと男の手が、自分の肩に乗せられていたのを思いだした。
「確かに馴れ馴れしいな。女性は、結構触られると聞いたが、三井にまでとは、どう言うことなんだろうな」
イスラムの国では、あまり女性が表に出ないため、結構観光客が、痴漢にあったりすると、観光案内に載ってはいるが、男性でも、安全とは言い難いとも案内には書いてある。三井は、どうやら、その方面の人に捕まったらしい。
「全く、気をつけてくれよ」
牧は、三井の肩を、ぽんぽんと叩いて、溜息をついた。
集合して、バスのあるところに戻る途中、進行方向でいきなり爆発音がして、煙が上がった。テロかと、おそるおそる近づいていくと、一台の車が煙を上げていた。周りには野次馬がたむろしている。どうやら、いきなり車が火を噴いたらしい。ガイドの説明によると、この国では、日本なら整備不良で引っかかるような車が、大手を振って往来を行く。そんな車が、時折、火を噴くのだそうだ。どうやら、よくあることのようで、周りの野次馬にも緊張感がない。火を噴いた車には、水がかけられ、あとには、完全にお釈迦になった車と、途方に暮れた運転者と、何とも言えないオイル臭が辺りに残った。野次馬も、見るべき事は見たと、言う感じで、その場から離れ始める。
「大らかというか何というか・・・」
牧が呆れてつぶやく。
「やっぱ外国って感じだよな。あんな車、日本じゃ走れねーよ」
三井がぽそりとつぶやいた。
バスに乗って、シタデルに向かう。ここは、古い要塞のあとで、城壁に囲まれた中にモハメド・アリ朝の遺跡がある。
バスを降りて、城壁の中に向かう。途中、やたらと、日本語の流暢な物売りがいる。大きな声で、「もうかりまっか、どうぞー。ぼちぼちでんな、どうぞー」と、妙な節回しで歌っている。かなり、有名なおやじらしく、あちこちの国の観光ガイドに載っているのだそうだ。三井たちの団体が通り過ぎたあと、ドイツ人らしい団体がやってきたら、今度は、いきなりドイツ語で歌い出した。節回しは同じである。
「すげーよな、何カ国語歌えんだろう?」
三井は、また妙なところに感心している。牧は、誰が、あのおやじに日本語を教えたのか、と考えてしまった。あれは、やはり関西圏の人が、教えたんだろうか?
シタデル内部の、モハメド・アリ・モスクについた。外装をアラバスター(雪花石膏)という、半透明の石で覆われているため、アラバスターモスクとも言われる。この、アラバスターは、ピラミッドの化粧板として使われていたものを、剥がして材料としたと言われている。中庭からは、コンコルド広場にある、オベリスクのお礼にフランスから送られた、装飾時計塔が見える。しかし、これは壊れているらしい。モスクの中にはいると、豪華な装飾に目を見張る。しばらくの間、床に座ってぼーっと眺める。
「何か、すっげー細かい細工なのな。結構エジプト人って、アバウトっぽいけど、やるときゃやるぜって感じで、なんか、びっくりする・・・」
相変わらず、三井は、変なところに感心しているなと、牧は思いながらも、確かに、今日一日で、受けたエジプト人の印象と、このモスクの凝り様には、少しギャップがあるなと相づちを打つ。
モスクから出て、広い前庭から、カイロ市内が一望できるというので、見に行く。生憎、砂嵐がひどく、そんなにはっきりとは見えないが、カイロタワーや、ゲジラ島のホテル群など新市街の高層建築がうっすらと見えている。
エジプト人の学生の遠足らしい団体がいて、日本人の女性を見かけると、やたら話しかけてくる。どうやら”おしん”と呼びかけているらしい。ガイドの説明では、NHKの連続ドラマのおしんが、昨年放映されて、一躍日本ブームになったらしい。日本女性は、みんなおしんのような働き者だと言う認識があって、フレンドリーに話しかけてくるらしい。同じツアーの女性が、女子学生たちに取り囲まれていた。なにやら、みんな自己紹介をしてくるようだ。ニコニコと話しかけてくるが、団体でこられるとなかなかに迫力がある。添乗員に助けられて、ようやく学生の輪の中から抜け出せたようだ。
5.ホテル
<メナハウス・オベロイ客室より>
バスまで戻って、ようやくホテルへの帰路についた。時間が、夕刻で、カイロ市内は、交通渋滞のまっただ中で、市街地を抜けるまでにかなり時間がかかった。今朝30分ほどで行けた道に、倍以上の時間がかかった。ピラミッドが大きく見えてきて、ようやくギザのホテルに近づいたことがわかる。
メナハウス・オベロイの、新館に、割り当てられた部屋があった。三井たちの部屋は、かなり本館よりで、残念ながら、角度の関係から、ピラミッドは、クフ王のものしか見えなかったが、それでも、ピラミッドビューの部屋なので、文句は言えない。
部屋の外に、置かれていたスーツケースを、部屋の中に入れる。
「あーっ、疲れたよなー。何だか今日は、一日がすっげー長いみてぇ・・・」
「朝五時頃から、ずっと動きっぱなしだからな」
「そーだよな、朝からピラミッド見て、ラクダ乗って、スフィンクス見て、パピルス買って、市場で飯食って、ぶらぶらして、モスクみてやっと帰ってきたんだもんな」
三井は、今日の行動を指折りながら、確かめている。
「落ち着いたら、直に夕食だぞ」
「あぁ、結構腹減ったなぁ」
「お前、鳩に手を着けなかったからな」
「やめろーっ。思い出すじゃねーか。夕食はなんだろうな」
鳩がでたらどーしようと、三井は真剣に悩んでいた。
牧は、ベッドに腰掛ける三井の肩に手を置いた。
「夕食は、ビュッフェスタイルだそうだから、大丈夫だろう。それより・・・・」
三井の顎を持ち上げて、自分の方を向かせる。三井が、きょんとしているのに、苦笑しながらも、軽くキスをする。三井は、途端に牧を振り解き、ベッドの反対側の端まで飛び退く。
「う、わっ!な、何すんだよ、いきなりっ!」
真っ赤になって、抗議する。
「何って、ホンのご挨拶じゃないか。いつもと比べりゃ、可愛いもんだろう?」
牧が三井を追って、ベッドに乗りかかり、平然と答える。
「そ、そうじゃねーって!何でいきなりすんだよ!」
「じゃぁ、訊けばいいのか?三井、キスしていいか?」
「ば、馬鹿ヤローっ!だから、こんな所でいきなりそんなこと言うなって言ってんだよっ!」
「こんな所っていっても、今日から2泊するんだぞ。三井、お前ただの物見遊山に来ただけなのか?せっかく二人きりになったっていうのに、お前は嬉しくないんだ」
「違うってば・・・。ただ・・・俺は・・・今そんな気になれなかっただけで・・・」
三井は、どういっていいのかわからなかった。ただ、夕食のことや、今日の行動のおさらいをしているときに、ベタベタする気になれなかったのだ。
「わかったよ、続きは、後でって事だろう?」
三井の肩を、ぽんぽんと叩いて、牧は、三井から離れた。
「牧、怒ったのか?」
三井は、少し不安げに尋ねた。いきなり、喧嘩では、これからの旅行が辛い。
「いや、別にそうじゃないから、安心しろ」
牧が、いたずらっぽく笑ったので、三井は、内心ほっとする。
「そ、それならいいんだけどよ・・・・」
「食事まで、まだ少し間があるな。本館の方を見に行くか?両替とか大丈夫か?」
「おう、小銭がもう少しほしいよな。どうも、エジプシャン・ポンドって、小さい紙幣から無くなるなぁ」
二人は、夕食までホテルの本館のショッピングコーナーをひやかすことにした。そのときに、もう少しチェックを両替する。
エジプトの通貨は、エジプシャン・ポンドで1ポンドおよそ0.3ドル(約30円)である。1ポンドは100ピアストルと言う小さい通貨に崩れるが、ピアストルなどは、日本人の手元ではあまりお目にかからない。ほとんど流通しているのは紙幣で、硬貨は土産物屋で売っていたりする程で、観光客には、あまり手に入らない。紙幣は、日本では、お目にかかれないくらい使い古されたものが多く、金額の判定に苦しむものもあるほどだ。新券などは、それこそ銀行で運が良ければ手にはいるくらいだ。
「スモール・チェンジ、プリーズ」の一言で、小額紙幣に崩してもらうが、それでも、1ポンドは少ない。20や50ポンドが混じってしまう。あまりしつこく崩すのも気が引けて、絵はがきなどの小物を買って崩そうと考えた。
ショッピングコーナーの店をのぞく。金細工の店や、本屋などの間に、絵はがきを売っている店を見つけ、絵はがきと切手を買う。日本への国際郵便は、はがきで70ピアストル、およそ20円だ。
「こんくらいでいいかな・・・・。たしか、船で移動するとき何にもすること無いんだろ?うちの連中に、絵はがき送るって言っちまったしな」
「だが、一週間くらいかかるらしいぞ。船を下りてから出すと帰国の方が早いかもしれないな」
「いんだよ、出したって事が肝心なの。エジプトの土産の一つなんだからさ」
確かに、異国からの絵はがきは、受け取っても嬉しいものだから、それでいいのかと牧も思う。
そうこうする内に、食事の時間になったので、レストランに向かう。
本館と、三井たちの部屋のある新館の間に、そのレストランはあった。中庭に面した入り口から中にはいる。料理は、ビュッフェ形式で、多種の料理が並んでいる。
三井の懸念した鳩は、無かった。もっとも、鳩料理というのは、かなり高級料理で、そうそうビュッフェなどに出てくるものではないそうだ。
あれこれと、つまんでみるつもりで、少しづつ取り分けてくる。全体に、薄味で、香辛料も控えめ、塩味がベースのものが多い。豆のスープが、三井は気に入ったみたいだった。ナンというエジプトのパンには、タヒーナと言う豆や香辛料などをつぶしてオリーブオイルなどと混ぜてペースト状にしたものを、つけて食べると美味しい。水にまだ慣れていないので、なるべく生野菜は避けることにする。
あれこれ食べて、満足して部屋に戻る。
「はーっ、思ってたより普通のメニューだったよな。変なやつばっかだったらどうしようかと思ってたけどさ」
「観光客向けだからな、そうそう妖しいものは出さないんじゃないか?」
そうだなと、答えて、三井はベッドに大の字に寝ころぶ。少し食べ過ぎたかもしれない。牧は、念のために、整腸剤を飲んでおこうと、三井に言う。
「えーっ、まだ大丈夫じゃねーの?生水は飲んでねーし」
「料理で、使ってるかもしれないだろう。奥地に行ってトイレがないところで、苦しみたいのか?」
「うっ、わかったよ・・・」
もともと、あまり腸の強くない三井は、トイレに駆け込む自分の姿を想像して、溜息をついた。鞄の中から、下痢止めの薬を取り出して、ミネラルウォーターで飲み込む。
牧も、同じように薬を飲んだ後、今日一日で飲み干した、ミネラルウォーターのボトルに、水道水を入れ、塩素系の生水を飲み水に変える薬品を混ぜる。別に飲むわけではないが、歯磨きなどに使おうと考えたのだ。
「三井、先にシャワー使うか?」
「お、おう、そうする」
三井は、スーツケースを開けて、着替えを出す。恥ずかしくて普段は着れそうにない、牧と色違いのパジャマを、着るかどうか少し悩む。
「三井、それを持ってきたのか?今夜はそれを着るんだろ?俺も持ってきたよ。初めてかな、二人で着るのは・・・」
牧が、三井のスーツケースをのぞき込んで、少し嬉しそうに牧は言った。
「う、うん・・・そ、そーだな・・・」
三井は、顔が火照るのに閉口しながら、淡い青のパジャマを掴んで、パスルームに駆け込む。しっかりドアに鍵をかけて、服を脱ぎ始める。
『なんで、あんなに恥ずかしいこと平気で牧は言うんだ。あんなに嬉しそうに言ったら、いやだっていえねーだろうが・・・・』
心の中で、文句を言いながら、これから二人きりの11日間の夜を思って、少し溜息をついた。別に、嫌ではないのだが、もし、牧に迫られたら拒みきれないだけに、体力が持つか少し不安だったのだ。
「ま、何とかなるか。牧だって、少しは考えるだろーし」
最近、二年下の赤毛の後輩の影響で、楽天的になってきた三井は、そういって、シャワーのコックをひねる。
「ん?」
身体を洗おうとして、気がついた。水に少し色が付いているように思えるのだ。よく見ると、砂が、少し混じっている。添乗員が、そういえばそんなことを言ってたなと、三井は、思い出した。砂漠に近いだけに、老朽化した水道管等はどうしても、砂が混じってしまうのだと言うことだった。お湯が出るだけましかもしれない。VIPが泊まるというこの宿が、そうなんだから仕方ないかと、三井は思った。
その日は、サウジアラビアの皇太子が、本館を借り切っているという話だった。日本の総理が、エジプト来訪の折りに泊まったホテルだとも聞いた。そんなホテルでも、こんな設備なんだから、普通の家庭じゃすごいんだろうなと、カイロから、ギザに来るバスの車窓から見た、民家の様子を思い出して、三井は考えた。
とりあえず、髪と身体を洗って、さっぱりする。お揃いのパジャマを、着ることを、少しためらったが、牧が、ハネムーンと称するこの旅の間は特別だと、自分に言い聞かせて、袖を通す。
バスルームを出て、牧に交代を告げる。
「水にちょっと、砂混じってるぞ。やっぱ、砂漠なんだな」
「そうか、ま、それも異国ならではの経験だな」
牧も、着替えを掴んでバスルームに向かった。牧は、少し濃いめの紺色のパジャマを手にしている。やはり、お揃いで着るつもりのようだ。
三井は、とりあえず翌日の着るTシャツなどをスーツケースから出して、ワードローブにかける。今日着た服は、やはり砂埃で汚れている。こりゃ、毎日着替えなきゃならない。途中でTシャツを買うか、洗濯しなきゃならないなと、三井は思った。
する事が終わって、三井は、牧が、戻るまでちょっと休憩するつもりでベッドの上に横になる。
牧が、シャワーを浴びて部屋に戻ると、三井は、熟睡していた。
「三井、そんな格好では風邪ひくぞ」
牧は、溜息をついて、三井をベッドの中に入れて、ちゃんと眠る体勢にしてやる。どうやら、ハネムーンの第一夜は、疲れに負けてしまったらしい。確かに、この一日は長かった。成田から19時間のフライトの後、観光に走り回ったのだから、牧も、かなり疲れている。三井の寝姿を見て、少しくるものがあったが、あきらめて、自分も眠ることにする。
「仕方ないな。お休み、三井」
無邪気な寝顔を見せて、くーかー寝ている三井の額に、牧はそっとキスをする。
二人の旅は、まだ始まったばかりだ。甘い夜は、翌日までお預けということで、牧は、部屋の明かりを消した。