何も言えない強気の自分 2



 カフェテラスでの自分の態度は思いっきり不自然だった。
カミューは鋭いから…、わからないわけがないと思う。
でもかまってなんかいられなかった。
何かに追われるように早足で廊下を歩く。

仕事場へなんか行きたくないはずなのに
それでも仕事から逃げようとか考えられないのがマイクロトフらしいというべきか。

小会議室に入りドアを閉め独りっきりになりようやっと息をつく。
あたり一面書類の山。
うんざりするけどさっきの場所よりきっとマシ。
でもこれが原因といえば原因。

仕事なんかしたくない…
でも仕事自体が嫌いになったわけじゃないのに…。

「なんで一緒に仕事なんかする事になったんだ…」

要するにそこに行き着くのか…。
自分でも馬鹿馬鹿しい。
子供じゃあるまいし、仕事のことでつまらないわがまま…はまだ言っていないと思うけど…
 

いいや、選り好み?
なんでもいい…
選択の余地なんかどこから見ても欠片もないのに。
理由だってどこを探しても今の自分に正当性などたぶん爪の先ほども出てこない。

  一緒に仕事がしたくないなんて…。
 

ため息を吐いて自分の席に座り書類を一枚取り上げる。
書きなぐったような大慌ての書類。
大きな戦の後はいつもこんな書類で机が埋まる。
もともと書類仕事は得意ではいけれども嫌いって言うわけでもないのにな…。
少しずつ整理されて規律が出来ていくのがいい。
それで組織がちゃんと動くのがわかるのが好きだったから…それは今も変わらない。
席に座ってなんとか今の状況を頭にたたき込む。
 
 

つい少し前に大きな戦いがあった。

戦争が終わり、大きな町を開放し、街道を押さえる。
そして今までいた戦線を押し上げると同時にすさまじい量の普段は見ない仕事が発生する。
増えた地所の治安。前線の砦の普請、補給路の確保、
新たな地での新しい志願兵、土地の郷士達の兵の組み込み、
それに伴う大々的な人員の移動と編成の変更…etc…etc…。
力の戦いが終わり地獄のような書類戦争の始まりだ。
人手不足はここでも酷い物だった。

総括はシュウ以下名うての軍師達、民間レベルの統制には
元領主や副市長経験者などがあたる。

軍関係は…ここで困ったことがあった。
軍関係の管理系統がもともと2つあると言うことだった。2つとは、騎馬隊、もしくは軍隊としての規律の中で生きてきた隊、マイクロトフ、カミュー率いるマチルダ騎士団を筆頭とする正規軍グループ、歩兵、弓兵、や志願兵などがメインとなるビクトール、フリックの率いる傭兵隊の二つである。
 

最優先で、そして必須項目として必要とされる事、軍そのものを情報物資外交、ありとあらゆる面で支えるための形作りの仕事である。
当然、自分の部下のや回りの事だけ考えていればいい立場の人間では即戦力としては使えない。
そしてそれはTOPの仕事というわけではなく、軍の維持管理やルールづくりなどは経験者の方が都合がいい。

だから管理長というものがあるのなら彼ら4人がその役目にふさわしい、それは誰からみても明らかで、その役目はあやまたず彼らに任命された。
一応軍事執務官とかいう名前は頂いたような気がするが…。

経験者求む、高給優遇…
この任を最初に受けるとき、シュウにこの台詞を言われて、マチルダ組二人は苦笑するしかなかった。
「つまり…やる人いないんですね」
「まぁそうだな…今は新しい奴に色々教え込んでいる暇はないからな出来る人間にがんばって欲しい」

ようは、ていの良い雑務処理ということだ。
「リドリーどのとか…もっとえらい方のほうが…」
「あのな将軍とか大将とか名の付く奴に軍の予算編成とか平常時の治安維持の割り振りとか細かい新人の訓練とかその報告書とか作れると思うか?」
少し考えて首を横に振る。
通常の国ではその手の仕事は必要不可欠なだけに専門の執務官いる。彼らはそういうことをやる人間を管理統制するのが役目だ。
どれか一つ二つは出来るだろうがその手の事を包括的に事務処理したことはあるまい。
報告書も昔は作っていたが今は受け取る方専門だろう…。
しかしマチルダは特別だ。
「マチルダは軍のトップイコール執務上のトップという典型的な歪んだ軍事国家の形態だからな。」
だからゴルドーの決定はマチルダの決定になる。
予算とかの執務官は騎士の中から出来る人間が回り持ちで任命される。
カミューもマイクロトフも団長になる前はもちろん経験がある。
「しかも都合がいいことに貴殿らは無能なTOPを支えてきた優秀な軍士官ときている」
誉められても、にやりと笑われても、もちろん良い気もしなければ反発する気にもならない。
要するに軍事面での中間管理職よばわりされたわけだ。
「わかりました…軍事面での執務官をすればよろしいのですね」
息を吐いてあきらめるように言う。
「頼めるか!」
「拒否権はないように見えましたが」
「当たり前だ!任命書と俺の軍執務に関する権利代行権限書を用意してある」
用意の良さに目眩がする。
まぁ、自分のこれまでやってきたことが役に立つなら願ってもないことだ。
しかし、まさか仕事をしないゴルドーに代わって予算編成から承認までしていたのがこんな所で役に立たつとは…
「貴殿らには、正規軍をメインとした隊の管理を願いたい」
「正規軍?」
「一応管理は2系統に分ける。もう一つは青いのと熊が率いる傭兵達のグループだ」
「はぁ…、ビクトール殿とフリック殿ですね」
「慣れた命令系統でわけた方がいいだろう?」
「それはそうですが」
慣れない人員までは管理しろとはいわないぞ?と親切ぶって笑う笑顔がそらぞらしいことこの上ない。
命令系統が2つ、要は、執務レベルで軍の運営をしたことがあるのが、独立した反乱軍を自分たちで維持運営しなければならなかったビクトール、フリックであり、また国そのものが軍隊を維持するためにできたとまで言われる、マチルダ騎士団の管理者である団長の二人、計4人しかいなかったということなのだろう。
外なところで縁があるものだ。
「今度軍事文官募集しましょう…」
「お前ら以上に他の人間に認められるような奴はそうそういないだろうがな…」
なにがなんでもおっかぶせたい気持ちらしい。

もっとも、それをおっかぶせたシュウはもっと激務のただ中にいる。

軍の中で生きてきたものにとって正確かつ規定のルートを通った管理体制以外はどうにも体が反応しない。
片や志願兵や傭兵などの義勇軍は堅苦しいだけにしか見えない命令系統にはついていけない。
寄せ集めの軍隊を効率よく動かすためにはこうするしかなかったのだ。これはシュウなりの気遣いというか有効な管理というもなのだろう。
もともと、能力的にも、戦力傾向にしてもこの2グループはかなりの隔たりがあったため、この分け方は正しいと言えた。
そしてこの人事はかなりうまくいっていた。

ただしこの様に地図が書き換えられるような戦いの後では管理系統が2つあるというのは問題になった。
新規情報の統合が必要になる。
さもなければ物資一つ、新人一人取るのでも人手不足も手伝って喧嘩になりかねない。
これでは効率という文字がむなしいものになるだけで…。
今までは別個に草案を作成お互いに要求事項だけ交換の後折衝、とやってきた。
しかし草案段階で一緒に詰めればずっと楽になるということに気付いたメンバーにより、
前回の戦いから小会議室を一室占拠して共同でやっつけ仕事を始めたのだ。

だからこれは必要な仕事。
これ以上ないくらい能率的で反論の余地なんか無いくらい見事に機能をしていたのだ…
いや機能しているのだ。
 

はじめ、4人(時折副官、軍師殿付き)での仕事は新鮮で忙しいながらも張りがあり楽しかった。
出来る対等な人間とする仕事が楽しくないわけはない。
断じて消化不良など引き起こすようなことはないのに…。

しかしながら、というかやはりというかあっさりと落伍者がでた。
これがまずかったのか…。
それでバランスが崩れたのだとしたら…。
 
 

「出庫願い…と現在の現役使用数…何だこの項目はぁ!
新しく何の武器をいくつよこせじゃ駄目なのかよ!」
小会議室に大きな声が響く。
「ああ、これはバーバラ殿とテレーズ殿が新しく考えた管理法に関する新しい書類ですね」
「普通の武器はどうしても使用限界っていうのがあるからわりと定期的に交換しなければなりませんしね」
「現在使用している数さえわかればこの先の必要数も大体わかる。予備数もな。これでよけいな数を倉庫で腐らせずにすむ。前はいくつ出したかぐらいしかわからなかったが人数そのものが少なかったから、それでも何とかなった。今までがいい加減すぎたんだ。」
当たり前のように言うカミューとフリックを前に頭を抱えるのは最初に怒鳴ったビクトール。
「そんなこといったってなぁ、今でているブロードソードの数なんかわかるかよ!」
「そんなの調べさせればいい」
ビクトールのセリフは当然のように受け流される。
「そうですね…部隊ごとに書類を提出させましょう。あと人員の割り振りですが…」
 

「……まかせた…」

「はい?」
「は?」
「おい!」

「俺向きじゃねぇや…後を任せた…たのむな」
「……やっぱり…」

落伍者はやはりというかビクトールだった。
頭をかいてすまなさそうに笑いながら出ていった後、あっさりと仕事には来なくなる。
そのくせご機嫌伺いと称して顔を見せてはフリックの怒鳴られているからさすがに神経が太い。

「まぁ、いつものことだな」
予想範囲内だとフリックは苦笑いをする。
「傭兵砦を作った頃からこの手の作業は俺の役目さ。ま、この場にいてくれてもチャチャを入れられるだけだから…」
かんべんしてやってくれな?
あきれる二人に人好きのする笑顔を浮かべてフリックはあっさりと言ってのける。
どうも反乱軍時代からこういうことはフリック一人に押しつけられていたらしい。
フリックがこういう役割分担に納得しているのならこちらではさして言うことはない。
仕事をきちんとやってくれればいいのだ。
そうして3人(+副官)での作業になった。
 
 

崩れたバランス。
当たり前の流れ…
やって当然の仕事。
そして苦しくなったのは…
 

一緒に作業を進めてみると確かにフリックは恐ろしいくらい有能だった。
全体を把握し役割の境界線を引く。団体同士の相互関係、相互協力の認識の感覚がシュウ顔負けにシャープで作業も文句無く早い。
正規の軍隊と傭兵の違いを理解してなお、ものともしない柔軟性もある。
同じくこういう業務の関してはマチルダ時代から他の追随を許さない有能ぶりを発揮してきたカミューと組むと面白いほど仕事が進んだ。
次々に持ち込まれる紙の束が処理済みの印を押され山になっていく。

そしてその山を前に、逃げ出すことも出来ずに今度はマイクロトフが一人ため息をつくハメになってしまったのだ。
 

胸に刺さった魚の小骨。
理由なんか聞かれたって本当に困る。
理由なんて自分だけの問題。

取り残された自分…
整然と全く問題なく機能する共同作業。
ただし自分抜きでだ…。
二人のペースのついていけない。
ガラスの向こうに出来た二人の世界を眺めるだけになるなんて…。
 

俺は役立たずだ…
 
 

 


説明文がきらいです(爆)。

リクを最初聞いたとき
そうか”カミフリ”がご所望ね。
それはそれで楽しそうだ、レッツチャレンジ♪
と息巻いたはいいのですが…
…これがちーっともネタがでてきてくれなかったのですね。
我ながらナサケナイ…