夜 風
(その2/10篇)
◇◇◇ 目次 ◇◇◇
紙ふうせん(1)/紙ふうせん(2)/紙ふうせん(3)
あ、う..../祈り/密林の夢/おうっ!
光/世界/単純な思い
紙ふうせん(1)


捨てられた紙ふうせん
カサカサ、コロコロ
転がってゆく
あっちへカサカサ
こっちへコロコロ
何処へ行くやら風まかせ
地べたの上を
ホコリといっしょに
カサカサ、コロコロ
紙ふうせん(2)


クシャッ
と、踏みつぶされて
それで私は紙ふうせんではなくなった
クシャッ
イヤな音だった
一瞬、背骨の中に
くすぐられるような痛みが走った
クシャッ
と、踏みつぶされて
それでおしまい

紙ふうせんを見ていたのはだれ?
紙ふうせんを踏みつぶしたのはだれ?

クシャッ
と、踏みつぶされて
それで私は紙ふうせんではなくなった
紙ふうせんは何処にも見えない
紙ふうせん(3)


捨てられた紙ふうせんは
踏みつぶされて
大地に吸収されてしまいました
そこでやわらかな力を
ゆっくりと蓄え、紙ふうせんは
ある晴れた日に
ピョン
と、再び姿を現わしました
今度はゴムまりに成長して

今は踏みつけられても大丈夫
踏まれた力をカテとして
ポーン
とっ、
やっぱり何処へ行ってしまうやら....
あ、う....


結果として「それ」とわかる
何かを追い求め
これまで私はやってきた
そうして今も見えぬ何かを追っている
予感はあるのに
その「とき」への感じはつかめるのに
求めている何か
その具体的な姿が見えずにいる
祈り


眠る前のひととき
ビールを飲み
頑丈にできている意識の力を
酔いの中へと漂わせ
陰鬱な思いに主導権を譲る大切なひととき

今はこうして
鬱々としている方が気が楽だ
自分が不安に悩まされ
依然としてうまくゆかない現実に嘆きを放つ
誰も聞いていない
ひとり....

これが正直なところだ
どんなに飾ってみたところで
今の私は暗い
密林の夢


夜だ
深夜だ
目覚めているのは野良猫だけだ
街灯が点ろうと
もはや誰も通らぬ道の上
妖しげな声をあげる野良猫
そう、そうだ、野良猫だ
猫?いや、
虎だ、虎になるんだ
生命感を取り戻した夜の街
街灯の光を浴びたダークグレーの竹林
吠えろ!
唸れ!
構えを解かず
獲物を待ち続けろ
おうっ!


鳴け、明けガラスよ
一夜を明かした
その実りはあった
一人ぼっちの夜
だが、それがカテだ

安易な方策を求めても
私のために起きていてくれる人などいはしない
起きているのは
眠れぬ夜を抱えた私だけだ

鬱屈として過ごした一夜
夜明けに飛び込んできた明けガラスの声

声は告げる
「俺はここにいる」と



緑の平原の上に
力強く、白い道が伸びている
闇は消えた
あたりは明るい
そう、思いをはせれば
すべてのものは私とともにある
それを忘れれば
闇が訪れ、再び世界は消え失せる
今も私はひとりだ
だが、ひとりぼっちではない
世界の中のひとりだ
世界


生命は不思議なもので
存在は不思議なもので
この世は不思議なものでいっぱいで
だからたのしい

時につらく苦しく感じるけれど
でも、そうしたつらさや苦しさとなるものも
そうしたことを感じる源も
やっぱり不思議だ

私がいて
私が何者で
どうして私がここにいるのか----

いろんなことがあった
いろんなことがある
そうしてそれらいろんなことが
もっと大きないろんなこととつながっている
単純な思い


歌うことは楽しい
歌えることは嬉しい

歌うことが何よりも好きで
歌っているときが何よりも楽しい
たとえそれが悲しい歌であろうと
歌いこなせれば、私は
薄霞のようなよろこびが広がるのを感じる

音を通して歌うことも
言葉を通して歌うことも
生きるという大きな調べから生まれてくる
歌声は肉体存在の確かさを教えてくれ
言葉は心の確かなありようを教えてくれる
歌っていれば、私は
生きている自分とひとつになることができる
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