空の色、風の声
(第2部・その3/13篇)
◇◇◇ 目次 ◇◇◇
やさしさ/隔絶
感情の反逆/悪循環/いつものこと/ささやき/ざわめき/
相討ち/肥大/目には目を/無言/氷片/こんなものですよ
やさしさ


ああ
寂しさや悲しみ
苦しみや痛み
そうしたものをすべて集め
そうしてそれらを圧縮して
そこからぽつり落ちるひと粒の涙
透き通っていて
やわらかで、あたたかで
ああ、そんな涙ひと粒
口に含んでみれば
ほのかな甘み
誰もが持っているはずなのに....
隔絶


小春日和の日
南向きの部屋
透明なガラスを通して日の光
ぽかぽかと暖かい
そっと窓に顔を寄せると
外の冷たさがヒヤッと----
中の暖かさ
外の冷たさ
手を伸ばそうにもガラス戸
暖かさはあっても
冷たさを薄れさすことができない
感情の反逆


今の私に口を開かせないほうがいいです
何を言い出すか
それこそ自分でもわからないのですから
今は私を黙らせておいたほうがいいです

私には善悪の判断より
好き嫌いの判断のほうが大切なのです
もちろん好きなものが一番大切です
私は好きなものが傷つけられると
自分が傷つけられたように感じてしまうのです
そしてその痛みが我慢できないところまでくると
好きなものを傷つけた奴が
どんなに「自分は正しい」と言ったところで
私はそいつを許しません
正しさなんてものは関係ないのです
ただ許せないのです
そうなるとこれまで抑えていた力が
「正しさ」を主張するものと似ている力が
皮肉な笑みを浮かべながら暴れ回るようになってしまうのです
「正しさ」なんてものは
そんな判断なんてものは
やはり限られた領域でしか通用しませんから
それを破壊するのもたやすいこと
それを破壊してしまえば
出てくるのは、私の頼みとしている力と似ている
わがままな甘えん坊の駄々
そうなればこっちのもの
それは私の領域ですからその弱い部分もよくわかっています
そうやってそいつの心をズタズタにしてやるのです

ふだんはそんなことはしませんけど
今は危険です
そろそろ抑えきれなくなりそうです
悪循環


流血はさらなる流血を求め
遺された人々の脳髄にその爪を食い込ませ、叫ぶ
殺せ!

決して
愛せ
とは言わない

血は油だ
燃え盛るは憎しみの炎
炎を消すために油を注ぎ
流血は流血を呼び
遺された者もまた血を流し、叫ぶ
殺せ!

いつものこと


この空の下
血を流している人たちがいる
だが、私にいったい何ができる
「反戦運動」
始まってから言ってどうなる?
(戦っているのはいったい誰だ)
日本で言ってどうなる?
(戦場はいったいどこだ)
眺めているだけのリングサイドから「止めろ」と叫ぶ
だがいつまでたっても戦争はなくならない
それで今度も戦争だ

あーあ、こんなものなのかな
政治に何を求めても無駄なのか
人間はいつまでたっても変わらないのか
集団の愚かしさ
個人の無力さ
もういいか
誰もこんな言葉など聞いてはいないんだ
誰もこれらをどうすることもできないんだ
黙って見てるか
黙ってここから眺めているか
ささやき


何事もなかったように
人類が滅亡してしまったらいいのにね
人間が、どんな理由でもいいから
人類以外のものに迷惑かけることなく
そっくりそのまま滅亡してしまえばいいのにね
そうすればもっと楽になれるのにね

神でも悪魔でもいいですから
私に力をお与えください
人間を消去する力をお与えください
原爆?
それでは駄目です
地球が傷つきます
そんなものではなくて
人類をぱっと消してしまうような
それこそ本当に魔法のような力を
この私にお与えください

一番の方法はね、自殺だよ
君が死んでしまえば
君という現実は存在できないのだから
外にある現実なんてどうでもいいじゃないか
それを確かなものとしているのは君自身なんだから
君が死んでしまえば
何ものも意味を保てなくなるんだよ

愚か者は死ねばいいのに
誰が愚かだって?
「正しさ」に頼りきった者
低級な感情しか持たない者
集団に埋没している者
小さな自分しか認めない者
そんな愚か者は死んでしまえばいい
私が愚かと認める連中は死ねばいい
ざわめき


何が正しいのだろう?
正しい何か
間違った何か
どれも正しい?
どれも間違い?

私は何も言えない
私は何も言いたくない
私には善悪の判断なんてつかないんだ
私はそういうものを捨てたんだ
そういうものが信じきれなくて
そういうものから明日を生み出せなくなって
私は自分の判断を自分自身だけに限定し
感情に明日を託したんだ
そうしなければ、自分を失いやすい私は
個人として存在することができなくなってしまう
だが今、
その感情が私を呑み込もうとしている

もう嫌だ
くだらない「理由」で
他人が戦い合い
血を流し合うのを見るのはもう嫌だ

無責任?
何とでも言え
私は関わりたくないんだ
戦争が始まってから反戦を唱えるほど無神経じゃない
はなから戦争なんて嫌いだ
だが今、戦争は行われている

もう遅い
何を言っても無駄だ
動き出した「集団」という愚かな怪物には
個人の力など、所詮無力だ
同様の愚かな「集団」となって
敵対するものを破壊するしかない
しかしそれが何の解決になるのか
いつかまた「それ」は甦り
同じことが繰り返される....

正しい「集団」など存在しない
すべての「集団」が
それ相応に正しさを持っているのだから
あるのは、ただ愚かな「集団」
相討ち


こうやって
抑えようもない感情を力に
冷たい思考を振り回し
奴等を攻撃してみても
奴等を傷つけたのと同様に
やはり私も傷ついてゆく
私の頼みとする「感情」が
巨大な力に巻き込まれながら
「もう止めろ!」と叫んでいる
肥大


この世の不幸を
一身に背負ったかのように
私は苦しんでいる
他人の愚かしさを指摘しながらも
自分では何もできないことが
さらなる苦しみとなって
私はどうしようもなく苦しんでいる
目には目を


思い上がっている?
そうだよ
ここでは私は神に等しいのだから
狂っている?
そんなものは程度の差
思いたければ思いなさい
そうやって
適当にレッテル張っているあなた方には
小さな自己満足だけがご褒美です
そうやって
あなた方は過去に留まった現在を生きてください
あなた方に未来を生む力はありません
いつまでたっても過去と現在です
無言


黒い波が打ち寄せている
だが夜ではない
昼間なのに
波が黒い色をしているのだ

人間は人間同志にしかわからない
「言葉」を使っている
それでお互い何かを伝えあう
だが、ただそれだけのことだ

人間は人間同志にしかわからない
「言葉」を使っている
それで人間同志何かを伝えあう
だが、人間以外のものの言葉はわからない

音もなく海が黒くなってゆく
飛べなくなった鳥が
浜辺で無様によろめき歩いている
もう人間の言葉など聞きたくない
氷片


この空の下
血を流している人たちがいる

私は知っている
そういう人たちがいることを私は知っている
私の好きな空に
血を滲ませた雲を絞り出す人たちがいる
そのことを私は知っている

知りたくないのに知ってしまう
だが知る必要がある

それで私に何ができる?
それで私は何をすべきか?

私はただ知るだけだ
あの空と同じように
さめた目で眺め
冷えゆく心で知る----
こんなものですよ


今日は久しぶりに競馬で大勝した
狙った馬がすべて来て
こんな日があるから止められない
おかげで帰りに豪華な食事、おいしかったな
家に帰って、暖かな部屋でのんびり本を読み
勝利の余韻に、時折ふふふと
ほかほかの気分でお風呂のなか
今日の儲けの半分は買い物をして
残りは来週以降の資金に
何を買おうかな、欲しいCDもあるし
新しい洋服も欲しい、あれこれ考え
来週も頼みますよ、とお願いしながら
お風呂上がりのおいしいビール
ほろ酔い気分のところで
ふかふかの布団のなか
「おやすみなさい」
←その2へ その4へ→
「鈴の音」の入口へ ホームに戻る
"send a message" 
to Suzumi