空の色、風の声
(第2部・その2/22篇)
◇◇◇ 目次 ◇◇◇
きりぎりすの詩/影/仮面/おしゃべりの光/片寄り
私と言葉/封印を/適者生存/お題目で言うな/レッドデータブック/言葉遊び
薄笑い/欺瞞/寝言/ぬっぺらぼう/クルクルクル/穴
影の声/宗教/神の愛/リアリティ/段階
きりぎりすの詩


私は夢想家のままでいればいい
夢想家として
私の中の世界のことを
詩によって歌っていけばいい

事実の世界の中で生きる人たちに向かって
現実の世界の中で生きる私の言葉を語るのだ
それで多くの世界が
私の詩を一つの水路としてつながりを取り戻す
私は私自身の中で生き
それを詩として歌うことで
私の外にある世界の中で生きることができる
私の外にある世界の中で生きる人たちは
私の詩によって
その人自身の内なる世界を現実のものとし
その世界の中でも生きるようになる

そうしたことが私の望み
人が自らの現実を生き、さまざまな現実を認め
そうして、世界が
もっともっと複合的なものになってくれれば

私は夢想家のままでいればいい
夢想家として
私の中の世界のことを
詩によって歌っていけばいい



詩のかげに隠れて私は語る
道化の仮面をつけて
氷の仮面をつけて
詩によって私は自らを語る

「私」というもろく傷つきやすい結晶体

私は詩以外に
自らを語る術を見出せなかった
私は道化と氷の仮面以外に
自らを守る術を育てられなかった
仮面


私は形式を探し求め
そして詩だけが残った
それはまとう衣、感謝の花束
だが、武器ではない
私の武器は形式ではない

私の詩を
「詩」として傷つけようとしても無駄なこと
だが、私の詩が
「心」として扱われ、傷つけられたなら
私は手ひどい傷を負うことになる
おしゃべりの光


私はおしゃべりです
何にしても自分の気持ちを表わしていたいから
そうしていなければ
自分の確かさというものが
薄れてゆくように感じられるものですから
それで、私はおしゃべりなのです

でも、自分の気持ち
それを表わすのはたいへんです
気持ち
それを、そっくりそのまま
お渡しできればいいのですが
形を持たないものを手渡すことはできません
形のないものを形とするには
それ自身だけでは駄目なんです
気持ち
そのまっ只中での感覚と
それを外から見た感覚のふたつが必要なんです

まっ只中の感覚だけでは駄目
それはあまりにも抽象的すぎる
外からの視点だけでは
そこには肝心の中身が欠けている

周囲を巡りながら
同時に内部にある力を感じる
形態と本質
その両者をあわせて表現したいのです
片寄り


私はささいなものに目を向けがちです
派手なもの
大げさなもの
嫌いです

私の心の入口には
「好き」「嫌い」という
細かな目のフィルターがあり
そしてそのフィルターには増幅装置が付いている
だから私には
ささいなものが大きなもの
確かなものと感じられるのです

派手なもの
大げさなものは
私の心を壊しかねないので
なかに入れてあげないのです
私と言葉


外界に触れることによって
私のなかにある
「何か」は、目覚め、より純化してゆく

そうして育ちつつあるいくつかの「何か」たち

だがそれを言葉に変えようと思ってみても
心、かなしみ、愛、夢、生、幸せ、死、....
いったい何が伝えられるのか
純粋なものをそれそのままに表わしてみても
ただのラベルで終わっている

内界にあるものを
外界にあるものを通して語れたら
事物そのものに語らせるのではなく
(事物は純粋なものをかすかにしか語ってくれない)
選ばれた事物を通して
私のなかにある純粋なものたちの言葉を語りたい
封印を


ラベリングは嫌いだな
名前なんて所詮は便宜的なもの
名前の中に、隠れている
隠されている、本当のもの
それは固く確かなものなんかじゃない
それは確かなものなんだけど
その動きが確かさを持っているのであって
全体が固定化された確かさを持っているんじゃない
動いているんだ
流れているんだ、心の中のものは
感じるものはすべて動いているんだ
凝り固まった実体なんかじゃない
心は活動の源であり
活動そのものなんだ
適者生存


適者が生き残るのではない
生き残っているものが結果として適者なのだ
「適者」という言葉の中に
すでにそのことは内包されている
言葉が固定的な実体を表わしている
そう思い込むことが誤解の始まりなのだ
言葉は流れゆくもの、移ろいゆくものを
仮に一時、その中に閉じ込めているにすぎない
「適者」にしろ
「愛」や「美」、「正義」や「悪」
言葉として名づけられたものが
いつまでも「それ」としてあり続けはしない
言葉によって呼び覚まされる確かさは
封印を解かれた動きによる確かさだ
すべては流れの中のひとしずく
動き続けている
お題目で言うな


心なんて存在しない
「心」
それがいったい何処にあるというのだ
わかるのは
「感じている」
ただそれだけだ
「感じている」
そのことを
そして、そのわからない源を
仮に心と名づけてみただけのことなんだ
レッドデータブック


さまざまな言葉たちが
手前勝手に用いられ、滅びの危機に瀕している
チンシャ
イカン
シンシ
いったい何が言いたいのだろう
アイ
セイギ
シアワセ
錦の御旗も所詮は旗だ

特にひどいのは
政治家と呼ばれる人たちの使う言葉だけど
マスコミで用いられる言葉
日常生活で用いられる言葉
そう、詩だって例外じゃない
ぼやけた影のひとり歩き
すでに錦の御旗もぼろぼろだ
ご都合主義でもてあそばれて
生きた言葉も滅びへと向かう
言葉遊び


まだまだ文化
それは文明のお化け
お化けは影
影はいずれ闇の中へ

文花はいつに?
それは文明の華
人の生活という大地から
形となった光
薄笑い


批判するだけなら簡単だ
ちょっとの知力があれば
あとは感情の影の力を借りればいい
私にそれをやらせてみな
私の感情は強いから、すぐさま
すべてをバラバラに切り刻んであげるよ
絶対的な正しさ
そんなものは存在しないのだから
隙間はそこかしこにある
知力でできた刃をそこに突っ込み
性悪な感情の力で
ぐりぐり
ぐりぐり
えぐってあげる
欺瞞


「異常」
それがわかったからってどうなるんだい?
そんなの単なるラベリングじゃないか
レッテル張ってみたって意味がない
それに異常と正常
どこがどう違うんだい?
一歩越えれば
君も異常
僕も異常
時が違えば
異常は正常
正常は異常
ラベリングなんて便宜上のもの
レッテル張って安心しても
そんなもんは一時しのぎ
張られた奴はスケープゴート
みんなの影を背負わされて闇の中
寝言


現在の為政者たちが
愚民どもの無気力・無関心をいいことに
勝手放題しているにしても
そんなことはもうどうでもいい
私もこの無気力・無関心の中に
どっぷりと浸かりこんで
ぼんやりぬくぬくした日々の区切り
毎夜毎夜の涼やかな眠りだけを求めている
どうでもよくない心が覚めないように

また今日も嫌な夢を見た

誰が悪い?
誰もが悪い、
たぶんそういうことだと思う
誰かが、ではなく
まず自分が
みんなで、ではなく
まず自分が
そうあるべきなのに
まず自分はぐっすり眠る
他の誰かもぐっすり眠る
ぐっすり眠ってうなされる
ぬっぺらぼう


民衆?
民衆っていったい何か知っているの?
知っててそんなことを言っているの?
教えてあげようか
民衆っていうのはね
馬鹿の総体のことなんだよ
馬鹿野郎しか民衆にはなれないんだよ
ほらっ
民衆っていう字をよく見てご覧
「民」っていう字と
「衆」っていう字
勢いだけでしか動けない
ヌメヌメとした肌色の塊
知性も、理性も
感情もあったもんじゃない
何しろひとりの人間じゃないんだから
そんなものあるわけないじゃないか
あるのはただ民衆
馬鹿の総体
クルクルクル


《ゆとり》という逃げ水を追いかけて
人々は走る、走る、走る
《ゆとり》を手にするために
誰もがみんな、あくせく、あくせく

《ゆとり》活力を力に
能率の車輪は留まることなく回り続け
車輪の外
《幸せ》は羽づくろいに余念がない



効率を得るための効率は
さらなる効率へと費やされる
自らの尾を喰らった蛇は
ぐるぐると回転し続けるだけ
それでバターができるのは物語
影の声


僕は道化師がいいんだ
英雄でなくていいんだよ
英雄なんかになる気はないんだ
道化師の姿でもって
この重い現実という舞台の上を
軽やかに
歌い踊ってゆくのが僕の望み
英雄となって束縛され
愚か者共にまとわりつかれるなんて
まっぴらごめんだ
宗教


そんなに肥料を与えるなよ
そんなに薬を与えるなよ
そんなに枝を切るなよ
その木がますます駄目になってゆくじゃないか

その木は誰の心の中にもある
ともに生まれ
ともに育まれ
ともに育ちゆく

時に雨の日、晴れの日
日照りの日
寒い日、暖かい日、風の日、雪の日、嵐の日----

でも、枯れない
心が死なないかぎり
その木は枯れない、へこたれない

心の中、さまざまな時の流れの中
その木は、ゆっくりと育ってゆく
だから、その木はやわらかな力強さを持てるようになるんだ

自然の中で育った木は強い
下手に妙なことをするから
その木が駄目になってしまうんだ

松の事は松に習へ
古人の涎をなむることなかれ
そういうこと
神の愛


彼は懺悔に行った
許しを求めて、彼は懺悔に行った
彼はすべてを告白した
すべてを彼は告白した

だが、彼は許されなかった

もうそこには、許しを与える神はいなかった
罪を与える神もいなかった
ただそこには何もなさぬ神がいた
神は何もなすことなくそこにいた
リアリティ


妖精や精霊は
ほらっ、そこかしこにいるんだよ
耳を澄ましてごらん
小さく言葉を交わす彼らの声が聞こえるから
よーく見てごらん
かすかに色づく彼らの姿が見えるから
ほらっ、君の肩の上にも
いたずら好きの妖精がひとり
君の耳に何かをささやいているよ

心をゆるやかにしていると
今でも彼らの存在が感じられる
でも、僕たちは忘れてしまっている
彼らがまだ生きているということを
彼らは事実の世界では生きられない
僕たちは
その事実の世界の中に深入りしすぎている
現実の世界を失えば
僕たちとても無事ではすまないというのに
段階


とりあえずは地球と同じ広さの心を
宇宙的な広さの心なら言うまでもないことだけど
まだ宇宙に危機は訪れていないみたいだから
まずは地球並みの広さの心
何しろ今、地球に危機が訪れているのだから
地球は傷ついているんだから
人間の心で地球をやさしく包んであげなくちゃ
だから、その前に
すべての人間が入る大きさの心を
←その1へ その3へ→
「鈴の音」の入口へ ホームに戻る
"send a message" 
to Suzumi