空の色、風の声
(第2部・その1/13篇)
◇◇◇ 目次 ◇◇◇
気づき
天使と堕天使/今になって/眩暈の中で/呪文/空
永遠へのかけ橋/路傍の石/鎮魂歌を
心/宇宙の中心/それぞれの世界/世界
気づき


そこは真っ暗な闇だった
空気は凍てつき
過ぎる風がこの体を傷つけていった

先は見通せる
闇だ
だが、一歩も進めない
闇の冷たさが骨の髄まで浸透し
感覚が消え失せてしまっている
それなのに
風が切りつける痛みは伝わってくる

あのとき、何があったのだろう
疲れて目を閉じていたはずなのに
じっと闇を凝視している自分に気づいた
そのとき、かすかに声が聞こえた
どこを見るまでもなく
闇の中、声は赤黒い光となった

やはり動くことはできなかった
声も出せなかった
だが、何かに触れた
確かに触れた
マグマような熱い一塊のものに触れた

私の中で何かがはじけ
硬く鋭い音を立てて闇が砕け散った

彩りを取り戻した世界の中
私は、ぽっと立っていた
足もとにガラスの破片が散らばっていた
天使と堕天使


世界の中にあるとき、私は
どんな偉大なチャンピオンよりも
力強く
誇らしげに
両手でがっしりと、おのが心を掲げ
自らの活力を喜びとして表わす

世界を見失ったとき、私は
どんなだらしのない敗残者よりも
惨めに
情けなく
おのが心にのしかかられたまま
地に倒れ伏し、砂利を口に呻く
今になって


自分が誰なのか?
これが始まりだったような気がする
そんな疑問が
この道を歩むきっかけだったように思える
答えは出た、だが----

ひとつの答えは新たな疑問となり
疑問の中から再び別な答えが生まれ
生まれた答えもまた疑問の始まりとなる

そんなデコボコ道がこれから先も続いてゆくのだろう
ただ、今はその先にいるものの姿が
ぼんやりとだが
しかし、ある確かな感覚をもって感じられる
呼んでいるのだ
未来の私が
現在の私を呼んでいるのだ
欠けたままの己れ自身を満たすために
眩暈の中で


自分の思いに振り回されて
自分のリズムを失って
そうして私は泥酔者
思いの中に沈み込み
自分自身を失った

自分の思いに振り回されて
平衡感覚を失って
前に向かっているのか
後ろに戻っているのか
そんなことさえわからなかった

もうどうでもいいんだ
いや、どうでもよくないんだ
でも、どうでもいいんだ
思いは大切なものだけど
あせってゆけば駄目になる
呪文


「大丈夫」
それがキーワードなのだと思う
それが心の力をいざなう言葉なのだと思う

調和
満足
それらを求める気持ち

求める思いはいつも残っていた
それはどんな闇の中に落ち込んだときでも
確かに残っていた

私は幸せなタイプの人間だ
尽きえぬ思いが
望みとなって
閉ざされた心の闇に
わずかな明かりを灯していてくれる

そこに向かって
「大丈夫」
この一言を重ねあわせれば
扉が開く
闇が壊れる
健康な私が戻ってくる
<くう>


私は希望を捨てない
私は希望を捨てきれない
それがどんなに小さなものであっても
私がどんなに冷めているにしても
それでも私は望む思いを捨てられない

それでいいんだ
私はそういう人間なんだ
どうにもできない力が
私を私としてここまで歩ませ
そうして、それはこれからもそうなんだろう
暖かな気持ちの中で育まれてきた私は
望みとともに進む以外にないのだろう

それで私が多くのつらい思いをするにしても
望む思いが、私の力となり
進む道を照らし出してくれているのだから
そのことを否定することはできない

思いを否定しようとしまいと
いずれの現実も、私に答えを返してくる
大切なことは、望む思いを力に
訪れる現実を迎えにゆくこと
そうやって望み続け、生き続け
私はにっこり笑って、ふわっと死にたい
すべての力を使い果たして
無へと帰りたい

自己満足?
そう、これは大きな自己満足
私はそれを望んでいるんだ
希望を捨てられない私は
望む思いを使い尽くす以外
自分を満たす術がわからない

「所詮は、自己満足じゃないか」
言いたい奴は言えばいい
だが、その言葉の源はどこにある?
疑い、否定しようとする
その思いの源には、いったい何がある?

私はこの道を行く
これまでと同じように
ゆらめきながら
よろめきながら
空を見上げ
景色を眺め
ときには、じっと地面を見据えして
これからも定まらぬ歩みを続けてゆく
永遠へのかけ橋


一枚の写真
そこに写っているのはその一瞬の時
その時以外のものは写っていない
でも、それは流れの中の一瞬の姿なのだから
そこには、それ以前の時の姿も
それ以後の時の姿も
ぼんやりとだけど、写し込まれている
路傍の石


私は生きている
生まれたときからこれまで生きてきた
だが、過去の私はもういない
いるのは現在の私
しかし、過去の私も、現在の私も
「私」というひとつの流れとして生きてきた
そのつながりは今もって失わずにいる
そう、過去の私も、現在の私も
過去や現在という時間によって切り取られた断片だ
何かを探り、求めるために切り取られた断片だ

現在の私
しかし、「現在」
そう区切った「時」でさえ動いている
「現在」
口にされたその言葉も
ここではすでに過去のものだ
「時」を便宜的に区切ってみたところで
「時」はすべてを巻き込み、姿を変えている
あるのは点としての現在
いるのは常に現在の私だ

流れゆく「時」も
その真っ只中では常に現在だ
今、私がその真っ只中にいる
「私」という流れと
それを呑み込んでいる大きな流れ
多くの複合的な流れ
ひとつの時
無数の時----
鎮魂歌を<レクイエムを>


そうだ、結局
私は死ぬために
死を目指して、生きているのだ
生の充足による死
それを目指しているのだ

だが、死後生
そんなことを言おうというのではない
死んだ後で
生があろうが、なかろうが
そんなことはどうでもいい
死んだ後でも
人間の想像で追いつくような生ならば
そんなものは意味がない

天国も地獄も関係ない
そんなものは信ずる者に任せよだ
裁くのは神でもなければ、仏でもない
私に預けられた命
私に費やされた命
それらが私を裁くのだ
死の瞬間に裁くのだ
私の死が
生に満ちているのかどうかを



閉じられた円の世界
はてのない円周率

閉じられた世界の中の
閉じることのない世界
宇宙の中心


宇宙がなぜ調和していられるのか
太陽系はなぜ太陽系としていられるのか
地球はなぜ球体で
なぜ地軸を持ち、自転し
なぜ公転するのか
月はなぜ地球の周りを回っているのか

一つの中心は
もう一つの中心と呼びあって
新たな中心を生み出し
その中心もさらなる中心と調和しあい----

究極の中心
それはどこにある
絶対どこかにあるはずだ
この宇宙が調和しているかぎり
どこかにその中心があるはずだ
それぞれの世界


一本の桜の木
無数の花
一本の桜の木
無数に咲く花

ひとつの花
ひとつの花
小さくて
可愛らしくて
はかない

ひとつの花
ひとつの花
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ....
舞い散る花びら
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ....

一本の桜の木
ひとつの花
無数の花

ひとつの花
舞い散る花びら
一枚の花びら

一部と全体
一部と全体
世界


夕闇の中
風は止まり
大気がやわらかな質感をもってただよい
虫の声
水の音
赤黒い闇
水面に映るいくつものきらめき
大気はそれらを包み、伝え
私はそれらを見、聞き、感じ
だが、私もこの場に包まれ
見られ、聞かれ、感じられ
無数の小宇宙が互いの小宇宙を巻き込む
尽きることのない創造と誕生の舞踏
開いた花びらの中から咲く花
高みへと上りゆく噴水
極点である無限
瞬間と永遠
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