空の色、風の声
(第1部・その3/13篇)
◇◇◇ 目次 ◇◇◇
峠の茶屋
潤い/みずいろ/(無題)/ペア/和音/ふたつの願い
メッセージ/一夜の夢/広がり/つながり/一夜の魔法/一夜の夢
峠の茶屋


  痛みを感じるたびに
  私は涙を流します
  そうして涙のしずくを
  心の穴にためてゆきます

私の心は穴ぼこだらけで
でこぼこで
以前はひどいもの
岩がごろごろしていて
霜をまじえた寒風が吹きすさぶ
荒涼たる場所でした

  痛みを感じるたびに
  私は涙を流します
  そうして涙のしずくを
  心の穴にためてゆきます

心の穴に涙のしずくをためてゆき
穴は
池に、湖に----
今では私の心もたいしたもの
天気の移り変わりもあれば
草木も生い茂り
それらが花咲くときもあるのです

  痛みを感じるたびに
  私は涙を流します
  そうして涙のしずくを
  心の穴にためてゆきます

それでも残る
荒れ地がまだまだあって
そこから吹く冷たい風が
嵐となって
私の心は、やはり乱れるのです
いつになったら
そうは思っても
勝手気ままに涙は流せない

  痛みを感じるたびに
  私は涙を流します
  そうして涙のしずくを
  心の穴にためてゆきます

調和を求め
痛みを怖れ
それでも痛みはやってきて
これからも私は涙を流すのでしょう
それを思うと
何ともまあ、難儀なものです
潤い


望みがかすかにでも感じられる
それがいちばん始末に負えない
ほんのかすかな望みなんだけど
心はそのかすかな望みでいっぱいだ
本当は
本当にかすかな望みのはずなんだけど....
みずいろ


あったかで甘い涙
そんな涙を
流してみたいな
なめてみたいな

わたしにも
そんな涙があるとは思うのだけど
これまで流した涙には
そんな涙はまったくなくて
冷たかったり、熱かったり
しょっぱかったり、苦かったり....

あったかで甘い涙
流してみたいな
なめてみたいな
(無題)


手元にあるものを
いろいろ苦心し、努力して
何とかそれらを形にして
いそいそ着飾って出かけてゆく

ごほうびを----
と、願う心と裏腹に
返ってくるのは
ひしがれた自身の思いと
悲しくなるだけの慰め

こんなもの!
それらをみんな投げ捨てて
じたんだ踏んで悔しがり、うずくまり
でも、あの人は側にいてくれるはずもなく
暗闇の中ひとり泣きじゃくり

寂しくなって、不安になって
投げ捨ててしまったものを拾い集め
どんな望みがあるにしろ、ないにしろ
それらをもう一度組み上げて----
ペア


よく見ると
すずめはいつもペアで行動している
ただ群れているようだが
実は決まったペアでいる

まず一羽が降りてきて
ちゅちゅ、とシグナルを送ると
もう一羽がやってきて
二羽で仲よくやり取りを
和音


「一緒にいましょう」
そんな感じが言葉を携えて広がってゆく
しかし、
それが外界からもたらされたことはなく
私はいつもひとりだ

甘えた願い?
だが、それにしてもこの感覚は何だ
何かが欠けている
なくてはならないはずの大切な何かが欠けている
そんなどうしようもない欠落感があるのはなぜなんだ
ふたつの願い


二枚の羽を重ね合わせ
鈴虫が鳴いている
心地よい
爽やかな音色が響く

わたしの心と
あなたの心
二つの心を重ね合わせて
そんな鈴虫が奏でているような
美しい音色を作り出せないものかな

弱々しくも
確かな震えをもたらすその音色
寂しい響き
切ない響き

わたしの心が
鈴虫の羽音のような
澄んだ音色を出せるのはいつ?
わたしの心の震えが
あなたの心を震わす夜は
メッセージ


私の唇と
  あなたの唇
ふたつの唇を重ねあわせて
互いの舌をからめあい
無言の言葉のやり取りを----
一夜の夢


一夜の夢か
それでもいい
それでもいいから、そんな一夜を与えてくれ
しかし一夜の夢
夢?
夢ならずっと持ち続けている
夢じゃない
一夜かぎりは現実だ
広がり


こんなにもすばらしい秋の夜を
ただ寝て過ごしてしまうのがあまりにも惜しくて
今夜私は宵っぱり
朝まで起きてるつもりです

冷たく少し湿り気を帯びた
今夜の風は、なぜだか妙に心地よいのです
寂しいことには寂しいのですけれど
ちょっとしたやさしさが
こんな私を包んでいてくれるのです

どうしてなんだろう
そう尋ねてみようかなとも思ったのですが
今夜はそういうことは止めにして
このやさしさに身を任せてみることにしました
このちょっとしたやさしさを
心いっぱいに受けとめていたいのです
つながり


静かな音が私を包み
やわらかな力を確かに感じる

何なのだろう?

すべてのものが生き生きとしている
すべてのものがやさしい力強さを持っている

何なのだろう、この感覚?

冷たくよそよそしかったものたちが
確かな生命感を取り戻している

そう、
生きている
その思いにすべてのものが包まれている

あっ、ああ....
私が生きているのだ
私が生きて感じているのだ
私という生命の一様式の活動が
この場に存在する
すべてのものの生命の力と響きあっているんだ
一夜の魔法<ひとよのマジック>


こんなにも
心地よい空気が流れる夜には
あなたとふたりベッドの中で
あなたの鼓動を感じながら
私の鼓動をあなたのそれにあわせていたい
そうして、あなたを私の中に
私をあなたの中に、感じていたい

ふたつの心を重ねあわせて生まれる
尽きることないハーモニー
それは、こういう心地よい空気が支配する
こんな夜にしかできない
たった一夜の魔法なのです

でも今、私の傍らには
その心地よい空気が
やさしく微笑んでいるだけで
ここには、あなたがいません
それでも私は
自分自身をはっきりと感じ
今宵の空気の力を借りて
かすかにあなたを感じています
この心地よい空気が
あなたの「感じ」を伝えてくれているのです
一夜の夢


現実の世界のなか
一夜かぎりを夢にしてしまう者には幸福は訪れない
夢とともにある
もう一つの世界をわかることもなく
現実からも逃れようとしている彼らには
幸福という名の
ふたつの世界が奏でるハーモニーは響くことはない
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