空の色、風の声
(第1部・その2/22篇)
◇◇◇ 目次 ◇◇◇
彷徨/個性化の過程/旅人
立ち往生/願い/氷の中の炎/遠い声/安らぎは/巡る
帰ることのできぬ旅/わかっちゃいない/欠けている/
初心者/生きる場を/きりぎりすの詩
それでも/ひざを抱えて/現在進行形/ナルシス/
わがまま/そんな私は子供です/片恋の闇
彷徨


ひとりぽっちの闇
誰もいない
自分を抱き締める----

確かだ
確かに感じる
私だ
私自身だ

うれしいような
かなしいような
そんな気持ち

自分が確かであることは
それはうれしいことなのだけど
なぜそうなったのかを振り返ってみると
やはりかなしくなってしまう

私にはいろんな望みがあった
だが、求めても
求め続けても
何も手に入らなかった

私に与えられたものといえば
このどうにもならない心だけだ
他には何も与えられなかった
心を抑える力も
それを外化するだけの表現能力も

そうして、今度も心だけが私に残された

どうして私はいつも一人なんだ
なぜ私には自分の心しかないんだ
こんなにも求めても
求めても、求めても
得られるのは確かな心
確かすぎる寂しさ
個性化の過程


なぜ?どうして?
そう問うてみたところで
私には神もなし、仏もない
運命なんてものもわからない
答えが返ってくるはずもない
私にはこの心だけ

なぜ?どうして?
そう問いかけてみたところで
過去はすでに私の後ろに
何もわからない
何も変わらない
あるのは、ただ現在

なぜ?どうして?
そう問うてみるのだが
答えはやはり返ってこない
ただあるヴィジョンがこの心に

なぜ?どうして?
そう問いかけると必ず闇
そのなかに白くぼんやりと一本道
闇の彼方へと伸びた一本道
旅人


私は旅に出たことがほとんどない
物見の旅に
慰安の旅に
あてどない旅に
そんな旅をしたことなどほとんどない
雑誌やテレビなどで見る遠く離れた場所
行きたいと思っても、思うだけ
(それで私には経験が乏しいのだが)
それでも私はやってゆける
それでも私は旅人だ、さすらい人だ

私は何かしらの手助けを借りて、通路を作り
この世のここにしか存在しない
別な世界を旅している
そこには、現実の世界を映したものもあれば
過去の世界も、未来の世界も
神話の世界もあるのだ
それらの世界を自由に作り出すことはできないが
通路を間違えなければ、ほぼ望みの場所に行ける
私は興味に任せて旅に出る

これまでそんな旅を続けてきた
寂しくなれば誰かを傍らに
そんなこともできるのだが
ひとり旅であることに変わりはない
この世界はここにしかなく
私以外、誰も入ることはできないだから
立ち往生


後ろを振り返ってみたところで
そこには思い出と後悔があるだけ

そのことははっきりとわかっている
わかってはいるのだけれど
その思い出を味わいたくて
その後悔にいじめられたくて
あっ、と思えば後ろを見ている

前方に広がる暗闇
背後で呼ぶ思い出と後悔
前にあるひとつ
後ろにあるふたつ
いったいどれが重いのだろう
願い


待ってても来ない
待ってても来ない
開けておいた窓からは
冷たい風だけが入ってくる
暖かな風は
日の光は、いったいどうしたの

心が北向きなのかな?
北側の窓を開け放っているだけなのかな?

でも、だとしたら
いったいどこが南なんだろう
迎える準備はできているのに
そればかりを待ち焦がれているのに
入ってくるのは冷たい風
氷の中の炎


「いつかはきっと」
「きっといつかは」
そう思い続けて
無理にでも前を見ていたけれど
その「いつ」は、本当にいつなんだ
私には、その「いつ」は訪れないのか
このままここで、ひとり
うずくまっているしかないのか
寂しいんだ
つらいんだ
そう言ってみても、ここには私一人

心の炎は熱く燃えているはずなのに
そのまわりには固くガッシリと冷たい氷

氷の中の炎
それが私の心だ
自分自身を守るために
私は炎を氷でくるんだ
それでも、何かあるたびごとに
炎は激しく燃え上がり
包む氷は次第に厚くなっていった
そうして私は
固く、固く
冷たくなってしまっていた
遠い声


どうして?
そう問いかけても
答えなど見当たらない
「もういい」
そんな声が聞こえる
「もういい、あきらめろ」
そんな声が聞こえてくる

でも、でもね
どうして?
と、問いかけて

「原因を探すのではなく
 意味を求めてゆきなさい----」

そうしなかったら
僕は弱虫の甘えん坊のまま
うずくまって、それっきりになってしまう
安らぎは


もし今、私に信じるという能力が与えられたら
いくつかの扉が消え
ひとつの扉が開かれることだろう
そうして、私はその扉をくぐり
その先にある一本道を
胸を張って歩いてゆくことだろう

だが、私には信じる力が欠けている
信じようと思っても信じきれない
このことだけが確かなものとして信じられる
そんな馬鹿げた矛盾

私は信じていたいんだ
でも信じきれないんだ
堂々となんて歩けない
いつもキョロキョロ
何かを探しながら、うろうろと歩きまわり
それでも、気づけば道の上にいるのだけれど....
巡る


信じられるもの
信じられるもの
与えてくださいな
お願いです
信じられるものを与えてください

ああ、でも
いったい誰に向かって私は訴えかけているのだ
信じる能力を欠いている私が
いったい何に対して訴えかけられるというのだ
訴えかける先があるだけでも幸せだ
そこには信じられるものがある
だが、私には何もない
神も、仏も、運命も
所詮はおためごかし
現実も、他人も
そうして自分の心さえも信じきれていない
信じていたいのに、信じきれない
結局、これだけが唯一の信じられるもの

それは私だけなのだろうか?
それとも、誰もがこんな
どうしようもない疑問を持ったままでいるのだろうか?
それとも、信じられなくても
どこかで信じているものがあるのか?
ただそれが明確でないだけなのか?

また疑問だ
信じられるもの....
帰ることのできぬ旅


自由な空
そこへと飛び立てない

かごの中で遊びなれた鳥にとって
空はあまりにも広すぎる
飛び行く先も
飛ぶべきルートも見えず
ただ青

あれほど憧れていた空だというのに
蒼穹には私の非力さだけが映っている
わかっちゃいない


ああ、わからない、わからない
現実のどこに自分を置いたらいいかわからない
社会に出ようとする以上
私もひとつの歯車にならざるを得ない
私も何らかの役割を担わなければならない
そうしたことをもう否定しようとは思わない
とにかくこの狭い部屋にはうんざりなんだ
私は外に出たいんだ
だが、自分という歯車を
社会のいったいどこに置いたらいいんだ
欠けている


つらくてどうにもならなくなると
いつも必ず、何かが僕を励ましてくれる
「頑張れ」と
その気持ちがありがたくて、うれしくて
そうして力は取り戻せるのだけど
そこから先がわからない
どう頑張っていいかわからない

目にする本
耳にする音楽
出会う事物
心の中にいる人たち
みんなが僕のことを励ましてくれるのだけど
僕もその声に応えようと思うのだけど
そこから先がわからない
初心者


苦しみを感じることに長けてはいるが
喜びを感じることに関して
私はまだ駆け出しの初心者だ
見出せない日常の富
見えてくるのは影ばかり
影の中にも宝物は隠れているはずなのに
初心者の私は、たやすくそれを見出せない
生きる場を


場を見出せない私にとって
この世は何と空虚なことか
まあ、空っぽなのは
現実なのではなく、私の心なのだが
私の心の中には
現実的なものがあまりに少ないので
軽い心はすぐにふわふわ
別な世界へと漂い行ってしまう
まあ、それはそれで楽しいことなのだけど
それで取り残される私はいったいどうしたらいいんだ
残る私はやはり一人の人間で
この世の中で生きてゆかねばならない
だが、心はここにいてくれない
きりぎりすの詩


私には居場所がない
落ち着いていられる場所がないんです
私がひとりでいることは
そのために寂しい思いをしていることは
確かな現実ですし
今はもう
そうした現実を否定したり
ごまかしたりしようとは思いません
ただ、今の私にはそうした寂しさを
じっくりとかこつ場所がないのです
これは本当につらいことです
寂しさがゆらぎによってぼやけてしまうのです
心以外に頼るもののない私にとって
その心をしっかりととらえることができない
と、いうのは
曖昧な靄のような不安と
果てのない寂しさの始まりなのです
それでも


「ごめんなさい」
あなたからもらったその一言が
私の思いをぐるり囲ってしまって
ここはもう、光のあたらぬ閉ざされた場所
それでも思いは
あたりの空気を使って燃え続け----
ひざを抱えて


「さよなら」と
何とか言いはしたものの
今も私はここにいる
現実はわかる
だが、否定しようとしても否定できない
もうひとつの現実がここにもある
立ち去ろうとしても
思いは今も心の中に
私には自分の心しかないから
外せぬ思いに「さよなら」が言えない
言ったところで
思いも心もここにいようとする
現在進行形

たったひとりの女のために
わたしの心は痛かった
ヴェルレーヌ


たったひとりの女のために
わたしの心は痛かった

今でもどうにもあきらめきれず
だからわたしは泣いている

心も思いも彼女から
どうにもこうにも離せずにいて

だからわたしは泣いている
会うことも許してもらえないから

泣き虫のわたしの心が
わたしの思いに訴える

「いつまでそうしているの?
 泣きながら彼女を待ち続けるの?」

思いが心に言いきかせる
「承知のはずよ
 彼女の側にいなければ
 わたしは息絶え
 わたしがいなければ
 あなたも途方に暮れるということを」
ナルシス


ここにはあなたがいない
思いを口にしても
ここにはあなたがいない
行き場を持たない言葉は
冷たい広がりへととけてしまう

エコーの声が聞こえる

ここにはあなたがいない
水面には自分の影
あなたの姿は映らない
どうして?
大切なのはあなたなのに....
わがまま


失いたくないものは
この気持ち?
それともあなた?

あなたがいなくても
思いがあればそれでいい、そんなことは言わない
でも、思いがなければ
あなたがいても意味がない、とは言ってしまう

結局、自分が大切なんです
失いたくないものはこの気持ち
でも、これがなぜ
あなたに向かうのかはわからない
この気持ちの中にある「あなた」という限定
そんな私は子供です


私は「愛している」とは言えません
「好き」とは言えても
「愛している」とは言えません

私にはわからないのです
行き場を失い、自分の中に閉じこもったままの
この思いが、はたして
「愛」と呼べるものなのか

それに私は怖いのです
この思いに
「愛」という称号を与えてしまうと
それは行き場を求めて
遮るものをぶち壊しに行きそうな気がして

もしそうなってしまったら
まず壊されるのは私ですから
それが怖いのです
片恋の闇


閉ざされた扉は閉ざされたまま
別な扉も現われない
あなたに開けてもらうはずだった扉
今はもう
自力で鍵を作らなければならない
明かりも薄れ
部屋の中は暗くなる一方
たたずむことも不安でしかない
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