道 標
(その3/18篇)
◇◇◇ 目次 ◇◇◇
旗印/尋ね人/糸を紡ぐ/残りものには?
虚無感/食感/夢想花/どちらの嘘を
途上/静謐/しんしんと/幻夢/青の時/青春
思い出から今へ/さて/なぐさめ/同じことだけと
旗印


個人の看板背負って
私はこの道を歩いてゆこう
錦の御旗もきらびやかな勲章もなく
堂々と胸を張って
でも、時にはお気軽な気持ちで
スキップでもしながら
私はこの道を進んでゆこう
尋ね人


「一緒にいましょうね」
そう語りかけてくれるあなたは
いったいどこにいるのですか?

確かにあなたの存在は感じられるのですが
外の世界ではあなたの感じがつかめない

まだ時を迎えていないだけのこと?
それとも、心の中のあなたであるだけ?
糸を紡ぐ


理想の女性を作ろうとしているのではありません
私はまだ見ぬあなたを探しているのです
まだ見ぬ、だから
今の私にはあなたの姿がわかりません
もし出会っても
うっかりしたら見過ごしてしまうかもしれません
でも、そんなことになってしまったら
私はやりきれません
ですから、私は夜ごとに
あなたの感じを思い起こすのです
私の心と響きあう
あなたの心を見つけ出すために
いつかきっと訪れる出会いの時を逃さぬために
残りものには?


私は自分を表わすのがヘタです
そもそも自己表現が巧みな人は
そんな必要はないから詩など書かないのです
自らの生や思いを
行動として、形として
表わす能力を欠いているから
それで仕方なく
残りもの
誰もが持っていて
安っぽちくなってしまっている言葉
そんな表現手段で四苦八苦するしかないのです
虚無感


穴が空いている
人のひとりやふたり
たやすく呑み込んでしまうほどの
大きな穴が私にはある

真っ暗で
しんと静まり返り、冷たいところだ

本当にイヤになるぐらい静かな空間なのだが
イヤになる
そんな思いさえ抜け出られぬほどに
私の心の穴は暗く大きい
食感


何をやるにしても先が見えてしまう
先が見えてしまうことの味気なさは
空想で誤魔化してしまうにしても
見えた先の内容については
これはもう誤魔化しようがない
厭味なほど具体的で
パサパサの、味もそっけもない現実だ
だが、飲み込めば
どっしり重く胃にこたえるのも現実だ
夢想花


いったい私は何になりたいのだろう
具体的な将来の姿は
ますます闇の中に沈み込んでしまっている
夢、
もうそれさえも見れなくなってしまった
だが、夢を失ったのではない
はなから私には具体的な夢などありはしなかった
希望という名の個々の小さな夢はあったにしても
今、私が失っているのは
夢見る力だ
たとえ曖昧なものであっても
夢を見る
つまりは望む
そうした力を私は失ってしまっているのだ
どちらの嘘を


《でも》でもなければ《しか》でもない
私は何者にもなれない
だから、もう
無理をして何者かになろうとは思わない
ただ、何者かであるかのような振りをして
そうやって他人を欺いて生きてゆく

私は何者にもなれないのだから
そんな生き方も許されると思う

そんな生き方は嘘だと思っていた
確かにそう感じていた
だが、何者にもなれない自分
それを認めたとき、私は行き場を失った
社会の中に「私」という自分はいなかった
途上


一歩踏み出したそのときから
ふるさと
そう感じられる場所はなくなり
どこにいても私は落ち着けない

周囲の事物が
行け、進め
と、私を急かす

ここも私の居場所ではない
静謐


失ったもの
すべては過ぎ去ってゆく

何ひとつとして留めておくことができなかった
心にあった大切なものでさえも

私もまた過ぎゆくもの
留まることのない過程

思い出し、悔しがり、懐かしみ
わずかに流れ落ちる涙

去りゆくすべての中で
ただ涙だけが心に静けさを与えてくれる
しんしんと


静かだ....

目に映るものも
耳に入るものも
心に届かずにいる

いったい私はどこにいるのだろう

時折そよぐ風以外
私の存在の確かさを知らせるものはない
その風とても、この静けさと同じく冷たい

静かだ
本当に静かだ....
幻夢


朝靄の中
湖面はざわめくことなく
とろり、ゆったり広がっている
風のひとつもなく
冷気を漂わせながらも
空気は穏やかに時を留めている

日が昇れば
風も吹くだろう
湖面もざわめくだろう

だが、朝靄の中
湖面は静かな落ち着きを保っている
青の時


何かが変わった
ほんの少しのことなのだけれど
何かが変わってしまった
何だかとても大切な部分
どうやらそれを失ってしまったみたいだ

心の中にあった小さなハリ
敏感すぎるものだったけれど
その小さなハリが消えてしまっている....

もう、心が荒れ狂う
そんなことはないのかもしれない
今も、苦しみや悲しみ
寂しさ、もちろん怒りだってある
でも、今は
それらの広がり方
進み方が変わってしまっている
青春


わずかな風が
主弦を鳴らし
その響きに共鳴弦が応え
自身の響きを主弦に返す
強くなり
弱くなりしながらも
続くその共鳴

終わったはずなのに、時折
かつての響きをおこす共鳴弦
そのかすかな響きに
再び自らの震えをもって応える主弦

いつしか共鳴弦は失われ
主弦はそれ自身だけで響きを奏でる
思い出から今へ


幼かった私が教えてくれる
若かった私が教えてくれる

夢は散ってゆく
思いもまた散りゆく
残るのは思い出

幼かった私がじたんだを踏む
若かった私が拳を握りしめる

涙、
それは失っていない
夢や思いを潰されても
涙を流す心がまだ残っている
さて


秋には強いんだ
寂しくても
やりきれなくても
これまで毎年毎年
さんざんにイジメられてきたから
私は秋には強いんだ

ただ、この強さが
傷つかない
と、いうものではなく
傷ついてからのしぶとさ
で、あることが
今も気がかりなことなんだけど----
なぐさめ


で、春霞のような
甘く、あったかな空気が
心のぽっかりに漂っていてくれたら
と、思ってしまう

寒いな、冷たいな

それでも待っている
つらい時というものがある
望むはずもないのだが
その時が訪れることは予感できる
同じことだけど


泣くだろうな
いっぱい涙を流すだろうな
叫ぶだろうな
どうにも仕方なくて叫ぶだろうな

痛みは確実にやってくる
悲しみも確実にやってくる

イヤだと言ってもやってくる
わかっていてもやってくる
わかっていても
泣くね、叫ぶね
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