道 標
(その4/9篇)
◇◇◇ 目次 ◇◇◇
夢幻
心の利/悟浄歎異/死生観
期する思い/約束/願わくは/道標/道
夢幻


夕方のあるひととき
ふっと空気の流れが止まり
湖面がぬめりとした穏やかな相を見せたとき
それは訪れる

やわらかに広がる湖面に起こる小さな波紋
水底より浮かび来たる亜成虫

ぱく....

微かな音と共にその黒い殻が割れ
姿を現わす白きメイフライ

ふわり....

ひとつを合図に
またひとつ、そしてまたひとつ

無数のかげろうたちが繰り広げるゆるやかな群舞
またひとつ、そしてまたひとつ
心の利


「きっと何か意味があるはずだ」
そう目的論的に
悪く言えば功利的に
現在にあたっているから
過去に遠ざかったものたちが
「やはり無駄ではなかった」
と、いうことになってくれる

不思議だ
本当に不思議だ
現在がロクな状況じゃない
それは確かなこととして実感している
だが、ここにも意味がある
そう感じられるだけのしぶとさもまだある
驚きだ
驚くほどに不思議だ
悟浄歎異


私の神さまは
ただ穏やかに微笑んでいるだけです
何を命ずることなく
何をなすこともなく
ただ穏やかな微笑みでもって
私を
そうして世界のすべてを
観じてくれているのです
そのことが
移ろいゆくものである私には
何よりもありがたいものなのです
死生観


終わりを不幸ととる人もいれば
終わりを幸せとする人もいる

そういうことだ
だから私は
輪廻や来世なんて御免だし
天国なんて所も必要としていない
いつか来るその時なら
続きを求めるのではなく
確かな終わりを迎えたい
ただそれだけだ
期する思い


まだ夜
だが朝は来る
寝て待つもよし
起きて迎えるもよし
さてと----
約束


見ていてください
あなた方からのあたたかな思い
----やさしさ、思いやり、慈しみ....
授かった私がどう生きてゆくかを

待っていてください
きっと
きっといつか
私の晴れ姿を
私の心からの笑顔を
あなた方にお見せできる日が来ますから
願わくは

願わくは花の下にて春死なん 
そのきさらぎの望月のころ
西行


「来年の桜は見られるのかな?」
と、妙にしんみりとした不安
(それとも予感?)
があって、死が近いものに感じられる今日この頃

死ぬのはわかっている
でも、それはいつなのだろう

そう思うと、一瞬
ぞっとする不安が走り
即座にその不安を吸い込み
しんとした冷たい静けさが広がる

これが私の人生?
私の生きざまの証しがこれ?
でも、証しを残したいとは思っていない
ただ生きているという証しが欲しいだけなんだ

そう思って六畳間にひとり
机にベッド、本棚に洋服ダンス
本にCD、マックもあるな
そうしていくつもの詩を書きなぐった
ノート、ノート、ノート....

これだけ?
後はここにいる私ひとり
これだけの証しでおしまい?

私の心は六畳の広さ
よく頑張ったのかな?
それとも、やっとでこれだけ?

死ぬんだろうな
いつかは死ぬのだろうな
笑って死にたいな
来年の桜、見たいな
道標


現在の私は道標だ
世界に対しても
自身に対しても
問いを発して
しるべ付けを行なう
私は道標だ

すべては依然として過程だ
結論でもなければ、結果でもない
世界の結論など欲しくない
自分自身の結論もやはりまだ欲しくない

わかっている、終わりがあることは

だが、まだ結論の時ではない
結論を先取りして歩みを止めてしまうのはイヤだ
私はまだ生きている
世界もまだ生きている

私は問いを発し続ける
そうして得られるものも
また新たな問いのはじまりとなるのだろう
だが、結論の時が訪れるまで
私は自身の道行きにしるべを打ち続ける

月やあらぬ春や昔の春ならぬ   
わが身ひとつはもとの身にして
在原 業平


後戻りはできない
人生とはそういうものだ

ああ、元いた場所に戻ることはできるさ
だが、たとえ戻ったにしても
そこはすでに元の通りの場所ではない
私とても以前の私ではない
疲れてもいる
少しは逞しくなったところもある
何にしてもここまで歩いてきたんだ
そうした経験もあれば
それなりの自負だってある

さて、行くか
いつだって道は歩む先にあるんだ
焦る必要はない
ゆっくりと、じっくりとでいいんだ
疲れたら、休めばいい
くじけそうになったら、空を見上げる
寂しくなったら、周囲のものに思いを寄せる
それでもどうにもならなくなったら
かつていた場所を巡り
見失ってしまった自分のかけらを探せばいい
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