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「……あ、あ、あ……」
「……な、な、な……」
恐怖のあまり身動き一つ取れずに固まった視線の先には白い物体がぼんやりと浮かび上がってい
た。
今度は確実に『人』ではない────わかるのはそのことだけ。なぜならその白い何かはちょうど
人一つ分ぐらいの高さの位置でゆらゆらと揺らめいていたのだ。
澤村と希理子はその光景にますます相手を抱き締める腕に力を込める。そうしていないと思わずそ
の場にへたり込んでしまいそうだったのだ。それを相手にすがることでどちらもが気絶寸前一歩手前
で踏み止まっている。
「あっ、あっ、あっ、あれ……」
「……う、う、う、うん……」
互いが互いの言わんとしていることをこれ以上なく理解しあってゆっくりと、毎秒数センチ単位で
その白い物体の方に固まってしまった顔をゆっくりとその反対側の方向────つまり真正面から向
き合う形にゆっくりと動かしていく。
そうやって実際にはほんの数秒の間だが、2人にとっては永遠とも思われる恐怖の時間から解放さ
れ、自分以外にも同じ現象を目撃しているいわば『同志』がいるという安心感を、瞳の端に映り込み
始めた互いの姿に感じ始めた瞬間、突然突風が吹いた。
「!」
「!」
思わず飛んでくる砂粒をさけようと2人は目を閉じる。だが次の瞬間それまで以上の恐怖が2人に
襲い掛かってきた。
「!!」
やっとのことで目をそらし始めることが出来たあの白い物体が先程以上にガサガザガサガサと激し
い音を立てながらまっすぐにこちらの方に接近してきたのだ。
もう後数メートル、確実にその何かと自分達はぶつかりあってしまう。
「!!!!!!!!!!!!!!」
あまりのことに逃げ出すことも出来ずに2人はぎゅっと目をつぶり、もう数ミリの間もない程互い
の身体を抱きしめあう。
するとその瞬間その突風はやんだ。
「!!────────────────────?」
澤村と希理子は恐る恐るゆっくりと瞳を開けた。得体のしれない何かとぶつかる覚悟を決めていた
というのに何もぶつかってはこなかったのだ。
だが足元になんだかまとわりつく奇妙といえば奇妙な、だけど何だか確かに覚えがある感触がその
風がやんだ直後から感じ取れるようになっていた。それが何なのか確認すべく2人はゆっくりとその
ままの体勢で自分達の足元に視線を移す。
「……スーパーの買い物袋……?」
「……ああ……」
希理子の言葉に澤村は脱力しながらこくりと頷く。
「……『あれ』が『これ』ってことだろ……」
「はあ……」
澤村のその解説に同じ程頭の回転が早い希理子が納得してため息をつく。つまりはこの2人の足元
に絡み付くスーパーの買い物袋が澤村と希理子両名を恐怖のどん底に叩き込んでいた『何か』だった
のだ。
おそらく海水浴に来た客が残していったゴミという名の有り難くない忘れ物であるこのビニール袋
は地元の有志達による清掃活動でも取り残されこの海岸に打ち捨てられていたのだ。それがたまたま
風が対流して渦巻いているところに浮かび上がって空中でただよい、それを2人が目撃して勝手に幽
霊か何かだと勘違いしてしまったのだ。
真相さえわかってしまえば笑い話以外の何ものでもないが、つい数時間前に恐怖体験をしたばかり
の2人は冷静さを失ってしまっていた為、良く見ればわかったであろうその物体を見誤ったのだ。
だんだんと冷静になっていき、持ち前の聡明さを発揮しはじめた2人はその真相に互いに対するバ
ツの悪さ───本当はなんでもない物を勝手に勘違いしてしまった恥ずかしさを感じ、思わず視線を
彷徨わせる。だが今一番顔を見せたくない相手の顔がどれだけ視線を彷徨わせても瞳の端に映ってい
る。
そのことにますます冷静になっていく2人はどうしてなのかゆっくりと、今度は状況を観察する視
線を持って辺りを見回す。
「……あっ」
「……うん」
その時になって初めて2人はまだお互いが抱きしめあい、その腕の中に存在しあうことに気がつい
た。
その瞬間ドンと心臓が跳ね上がる。恐怖に震えて跳ね上がっていた心拍数が今度は別の意味で暴走
しはじめた。それはますます速くなり、もう何がなんだかわからない程ドックンドックンと波うって
いる。
思わず澤村は見下ろし、希理子は見上げた互いの瞳には自分と同じように微かに熱を帯びた潤んだ
瞳で自分だけを見つめている相手のその姿が映った。もしかしたら自分よりも熱く、激しく熱を帯び
た瞳────。
その瞬間、互いの意識から互い以外の存在は消えた。
ここからはどちらの『気分』を味わいたいか御選択ください。同じエンディングですが経過が少し違います。
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