オカリーナは閉管楽器か
                                                                                                     

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疑問
オカリーナは閉管楽器なのか?
閉管楽器とは、何なのか?
オカリーナは、そもそも管楽器なのか?

オカリーナは閉管楽器であるとよく言われる。高校の物理の授業でも、閉管楽器の例はオカリーナであると習った記憶がある。しかし、事情はもっと複雑なようだ。閉管楽器の物理学的定義は、「一端が開口、他端が閉口である管楽器で、基本振動数は管の長さの4倍、奇数倍音しか生じない管の構造をもつもの」ということらしい。この定義での閉管楽器の代表は、クラリネットであるが、クラリネットとオカリーナが原理的に同じであるというのは、ぴんとこない。そもそも、オカリーナは「管」楽器なのか?

仮定
オカリーナは、物理学的な定義とは関係なしに、その外見のみから閉管楽器と呼ばれているのではないか?
物理学的な意味の「閉管」と、見かけ上の「閉管」が混同されているのではないか?

 

考察  

管楽器とオカリーナ類について、2つの分類の仕方で整理してみる。

I. 発音源による分類 (参考:音楽之友社の音楽中辞典)

    管楽器
木管楽器 金管楽器
(奏者の唇が振動する)

無簧(むこう)楽器
(するどいエッジに吹き付けられた空気が渦を起こして空気を振動させる)

リード楽器
(リードが振動する)
ヴェッセル フルート
(つぼ状の容器内の空気が空洞共振を起こすことによって発音する)

ホイッスル フルート
(管の端近くにエッジを形成する穴があり、その上方の管の端に吹き口がある)

(管の一端は閉じており、この端の近くの側面にある歌口を横から吹く) (管の一端に断面状に歌口があり、管を縦にして吹く) シングルリード楽器 ダブルリード楽器
オカリーナ
中国の楽器Xun
リコーダー
フラジョレット
フルート、
横笛(おうてき)
パンパイプ
尺八
クラリネット
サックス
オーボエ
ファゴット
トランペット
ホルン
トロンボーン

管楽器とは、管の中の空気柱の振動によって発音する楽器の総称である。この定義では、厳密な意味では、オカリーナは管楽器ではない。オカリーナの内部は管ではなく、不定形な空洞であり、空気の「柱」が振動するわけではないからだ。管楽器ではないが、つぼ状の容器内の空気が空洞共振(またはヘルムホルツ共鳴)を起こすことによって発音する、ヴェッセル フルートと呼ばれる楽器群がある。ヴェッセル=vesselとは器の意。オカリーナはヴェッセル フルートの代表例である。他の例としては、中国の楽器Xunもこの仲間に入る。「エッジを形成する穴があり、その上方の吹き口から息を吹き込む」という点では、オカリーナとリコーダーは共通している。

余談であるが、無楽器(ヴェッセル フルートは除いた方が無難)と、リード楽器を総称して木管楽器という。なお、金管・木管楽器というとき、楽器の材質とは関係がない。

今日では、管楽器・弦楽器・打楽器というような分類法では、多種な楽器を分類するのに不便なため、発音原理に着目した、5分類法(体鳴楽器、膜鳴楽器、気鳴楽器、弦鳴楽器、電鳴楽器)も用いられている。これによると、オカリーナは、気鳴楽器のうち、器の中の空気(空洞または気柱)を振動させる吹奏気鳴楽器、されにその中のフルート属(エッジを吹く)として分類されるのであろう。

 

II. 物理学的(共鳴のしくみによる)分類

ヴェッセル フルート 管楽器
ヘルムホルツ共鳴

閉管楽器?

壺状の楽器?

閉管楽器

  1. 一端が閉口、他端が開口である管楽器

  2. 基本振動の波長が管の長さの4倍で、基本振動の奇数倍音を生じる楽器。

開管楽器
  1. 両端ともに開口である管楽器

  2. 基本振動の波長が管の長さの2倍で、基本振動の整数倍音を生じる楽器

オカリーナ クラリネット フルート、ティンホイッスル

物理学的な閉管楽器の定義は、管楽器で音が鳴るしくみを知らないと理解できない。ここではその理論については省略するが、詳しく知りたい方はここのページをご覧ください。

両端の閉口・開口の別によって、基本振動数や倍音の特徴が上の表のようになるのは、厳密には管の太さがほぼ一定の管楽器の場合のみである。吹き口(リード部)から開口部に向けてほぼ円錐状にだんだん太くなっている管(サックス、オーボエ、ファゴット、トランペットなど、かなりの管楽器がそうなっているらしい)では、上記の閉管・開管の特徴が当てはまらない。たとえば、ソプラノサックスとクラリネットは発音原理が同じ(シングルリード)で長さもほぼ同じであるが、ソプラノサックスの音域はクラリネットと比べて約1オクターブ高い。クラリネットは基本振動の奇数倍音、サックスは整数倍音を生じる楽器である。ここまで来ると、閉管・開管楽器の定義も曖昧になってくる。

まとめ
オカリーナは、発音原理からは管楽器として分類されず、ヴェッセル フルートという壺状の容器内の空気が空洞共振で発音する楽器のひとつである。(注)
オカリーナは管楽器ではないので、物理学的な閉管楽器の定義の対象外である。(私の高校の物理の先生は間違っていた。)
閉管楽器の定義は、少なくとも次の3つが考えられる。
  1. 一端が閉口、他端が開口である管楽器
  2. 基本振動の波長が管の長さの4倍で、基本振動の奇数倍音を生じる楽器
  3. オカリーナのように外見上「閉じた」(壺状の)楽器?

1と2は物理学的な定義であり、1=2となるのは、管の太さが一定の場合のみである。そのため2を閉管楽器の定義とする場合が多いようだ。一方、3の定義は、物理学用語の「閉管」の意味が誤解されたことから生じたと想像される。今では、オカリーナを閉管楽器の代表だと思っている人は多いようだ。オカリーナのメーカーの公式HPにおいても、「オカリーナは閉管楽器なのでラッパ口がない」という表現が見受けられたり、高校の物理の先生が勘違いをしているなど、専門家の中でも、閉管楽器の意味の捉え方が統一されていないようだ。

以上をまとめると、

クラリネットが閉管楽器であるという時の「閉管」という用語は、物理学的な定義に基づいている。一方、オカリーナは発音や共鳴のしくみから考えると、厳密には管楽器とはいえず、物理学でいう閉管の定義の対象外である。しかしオカリーナは閉管楽器であると言われている。その理由として、次のようなことが考えられる。

オカリーナの外観について、「管が閉じている」という表現がぴったりであることから、物理学の「閉管」という用語が、誤ってオカリーナに対して用いられるようになった。このことをきっかけに、「閉管楽器」という用語が、本来の物理学的な定義とは無関係に、オカリーナに代表される壺状の楽器一般を表すようになった。

閉管という言葉をオカリーナに対して用いるのは、混乱を生じるので避けるべきであろう。それでは、オカリーナのような壺状の楽器一般を指す場合、何と言えばいいのか?いまのところ、ヴェッセルフルート、または、壺状楽器というような言い方しか思い当たらない。

 

(注)日本やイタリア製によくみられるSweet Potatoタイプのオカリーナでは一般的に、右手でもつ部分の中の空洞は細く、「管」状になっている。もしかしたら、この、「不定型な空洞」よりは少し「管」に近い形状により、オカリーナが管楽器の性質を一部持ちあわせている可能性がある。一部のオカリーナには、倍音を出せるものがあるが、それらは高音用の(小さい)、細長い楽器である場合が多い。低音用の(大きい)オカリーナは、内部空洞に「丸い」部分が多い。一方、高音用の(小さい)オカリーナは、内部空洞を小さくしなくてはならないが、おそらく人間の手の大きさに合わせる目的で、丸い部分を少なくし、細長い形状にする場合が多い。そのために小さいオカリーナは、管楽器の要素をより多く持ちあわせ、倍音を出せるものがあるとも考えられる。

 

参考
音楽之友社「音楽中辞典」
http://www.iris.dti.ne.jp/~post/onpa/
http://www.geocities.com/Vienna/3941/closedend.html
http://www.phys.unsw.edu.au/music/basics.html
オカリーナとフルートにおける、トーンホールと音程の関係については、 フルート オカリーナ館内「オカリーナの原理」の項に詳しく述べられている。

 

        <2001.5.3記 2001.9.25改訂>

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