オカリーナの小道
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オカリーナは閉管楽器か?




 管楽器(フルート)と壺状楽器(オカリーナ)の音色の特性の違いがよく分かる演奏動画



1.疑問 

★オカリーナは閉管楽器なのか?
★閉管楽器とは、何なのか?
★オカリーナは、そもそも管楽器なのか?
オカリーナは閉管楽器であるとよく言われる。高校の物理の授業でも、閉管楽器の例はオカリーナであると習った記憶がある。しかし、事情はもっと複雑なようだ。閉管楽器の物理学的定義は、「一端が開口、他端が閉口である管楽器で、基本振動数は管の長さの4倍、奇数倍音しか生じない管の構造をもつもの」ということらしい。この定義での閉管楽器の代表は、クラリネットであるが、クラリネットとオカリーナが原理的に同じであるというのはぴんとこない。そもそも、オカリーナは「管」楽器(注1)なのか?

(注1)このページでは、管楽器の定義を、「気柱」の振動によって共鳴する楽器と定義しています。


2.仮説 

★オカリーナは、物理学的な定義とは関係なしに、その外見のみから閉管楽器と呼ばれているのではないか?
★物理学的な意味の「閉管」と、見かけ上の「閉管」が混同されているのではないか?


3.考察 

管楽器とオカリーナ類について、2つの分類の仕方で整理してみる。
I 主に発音原理による分類(参考:音楽之友社の音楽中辞典)


 吹奏楽器
    管楽器
管の中の空気柱の振動によって発音する楽器の総称
木管楽器 金管楽器
(奏者の唇が振動する)

無簧(むこう)楽器
(するどいエッジに吹き付けられた空気が渦を起こして空気を振動させる)

リード楽器
(リードが振動する)
ヴェッセル フルート
壺状の容器内の空気が空洞共振を起こすことによって発音する
ホイッスルフルート

管の端近くにエッジを形成する穴があり、その上方の管の端に吹き口がある
管の一端は閉じており、この端の近くの側面にある歌口を横から吹く 管の一端に断面状に歌口があり、管を縦にして吹く シングルリード楽器 ダブルリード楽器
オカリーナ
中国の楽器Xun
リコーダー、フラジョレット フルート、横笛(おうてき) パンパイプ、尺八 クラリネット、サックス オーボエ、ファゴット トランペット、ホルン、トロンボーン

★管楽器を「管の中の空気柱の振動によって気鳴する楽器の総称」とする場合(注1)、この定義では、厳密な意味では、オカリーナは管楽器ではない。オカリーナの内部は管ではなく、不定形な空洞であり、空気の「柱」が振動するわけではないからだ。管楽器ではないが、壺状の容器内の空気が空洞共振(またはヘルムホルツ共鳴)を起こすことによって気鳴する、「ヴェッセルフルート」と呼ばれる楽器群がある。ヴェッセル=vesselとは器の意。オカリーナはヴェッセルフルートの代表例である。他の例としては、中国の楽器Xunもこの仲間に入る。「エッジを形成する穴があり、その上方の吹き口から息を吹き込む」という点では、オカリーナとリコーダーは共通している。
(注1)管楽器はそもそもWind instrument (吹奏楽器)の誤訳とする説もある。

余談であるが、無簧楽器(ヴェッセルフルートは除いた方が無難かもしれない)と、リード楽器を総称して木管楽器という。なお、金管・木管楽器というとき、楽器の材質とは関係がない。

今日では、管楽器・弦楽器・打楽器というような分類法では、多種な楽器を分類するのに不便なため、発音原理に着目した、5分類法(体鳴楽器、膜鳴楽器、気鳴楽器、弦鳴楽器、電鳴楽器)も用いられている。これによると、オカリーナは、気鳴楽器のうち、器の中の空気(空洞または気柱)を振動させる吹奏気鳴楽器、されにその中のフルート属(エッジを吹く)として分類されるのであろう。

善久オカリナレッスンに、「楽器分類学でオカリーナは気鳴楽器に分類され、その中で”容器内隙溝フルート指孔つき”となり、ちなみに”〜指孔なしの楽器が「鳩笛」である」という記述があった。


II. 物理学的(共鳴のしくみによる)分類

ヴェッセル フルート 管楽器
壺状楽器 閉管楽器 開管楽器
・容器内の空気が空洞共振(ヘルムホルツ共鳴)によって鳴る

・このような壺状の楽器を、「閉管楽器」と呼ぶ人もいる
・一端が閉口、他端が開口である管楽器

・基本振動の波長が管の長さの4倍で、基本振動の奇数倍音を生じる楽器。
・両端ともに開口である管楽器

・基本振動の波長が管の長さの2倍で、基本振動の整数倍音を生じる楽器
オカリーナ クラリネット フルート、ティンホイッスル

物理学的な閉管楽器の定義は、管楽器で音が鳴るしくみを知らないと理解できない。ここではその理論については省略するが、詳しく知りたい方はここのページ等をご覧ください。


4.まとめ 

オカリーナは、共鳴原理からは管楽器として分類されず、ヴェッセルフルートという、壺状の容器内の空気が空洞共振で気鳴する楽器のひとつである。(注2)
★オカリーナは管楽器ではないので、物理学的な閉管楽器の定義の対象外である。
★管楽器の定義は、少なくとも次の3つが考えられる。

  1. 一端が閉口、他端が開口である管楽器
  2. 基本振動の波長が管の長さの4倍で、基本振動の奇数倍音を生じる楽器
  3. オカリーナのように外見上「閉じた」(壺状の)楽器

1と2は物理学的な定義であり、3の定義は、物理学用語の「閉管」の意味が誤解されたことから生じたと想像される。今では、オカリーナを閉管楽器の代表だと思っている人は多いようだ。オカリーナのメーカーの公式HPにおいても、「オカリーナは閉管楽器なのでラッパ口がない」という表現が見受けられたり、高校の物理の先生が勘違いをしているなど、専門家の中でも、閉管楽器の意味の捉え方が統一されていないようだ。

以上をまとめると、 クラリネットが閉管楽器であるという時の「閉管」という用語は、物理学的な定義に基づいている。一方、オカリーナは共鳴のしくみから考えると、厳密には管楽器とはいえず、物理学でいう閉管の定義の対象外である。しかしオカリーナは閉管楽器であると言われている。その理由として、次のようなことが考えられる。 オカリーナの外観について、「閉じている」という表現がぴったりであることから、物理学の「閉管」という用語が、誤ってオカリーナに対して用いられるようになった。このことをきっかけに、「閉管楽器」という用語が、本来の物理学的な定義とは無関係に、オカリーナに代表される壺状の楽器一般を表すようになった。

閉管という言葉をオカリーナに対して用いるのは、混乱を生じるので避けるべきであろう。それでは、オカリーナのような壺状の楽器一般を指す場合、何と言えばいいのか?いまのところ、ヴェッセルフルート、または、壺状楽器というような言い方しか思い当たらない。

(注2)日本やイタリアによくみられるSweet Potatoタイプのオカリーナでは一般的に、右手でもつ部分の中の空洞は細く、「管」状に近くなっている。この「不定型な空洞」よりは少し「管」に近い形状により、オカリーナが管楽器の性質を一部持ちあわせている可能性がある。一部のオカリーナには、倍音を出せるものがあるが、それらは高音用の(小さい)、細長い楽器である場合が多い。低音用の(大きい)オカリーナは、内部空洞に「丸い」部分が多い。一方、高音用の(小さい)オカリーナは、内部空洞を小さくしなくてはならないが、おそらく人間の手の大きさに合わせる目的で、丸い部分を少なくし、細長い形状にする場合が多い。そのために小さいオカリーナは、管楽器の要素をより多く持ちあわせ、倍音を出せるものがあるとも考えられる。

参考1
音楽中辞典 (音楽之友社)
わかりやすい高校物理の部屋
Music Acoustics
フルート オカリーナ館 「オカリーナの原理」 オカリーナとフルートにおける、トーンホールと音程の関係について記述あり。


おまけ:鼻笛という楽器があります。
鼻笛は、口笛とオカリーナの中間的位置づけでしょうか?「自分の口の中」がいわば「壺」で、オカリーナのように吹き込み口(鼻から吹く)とウィンドウェイと歌口があります。音程は自分の口の中の体積を変えることによって、変化させます。とても難しい!これを思う時、運指だけで「だいたい」の音程を作ってくれるオカリーナの方が簡単かも、と思えてきます。

<2001.5.3記 2020.2.24改訂>


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