元々本好きの私にとって、今の仕事はとても自分の性に合っていると思っています。
自分のような者が、大好きな本造りに携わっていられることに、この上ない幸せを感じています。
自分が担当する装幀という仕事は、正面だけでいうと高々A5判(148mm×210mm)に満たない小さな世界でしかありません。
しかしこの小さな世界は、少しだけ大げさにいうのなら、人類の英知が生んだ百花繚乱の《知の曼荼羅》へと誘う、「どこでもドアー」なのだと思います。「ドアー」の数だけそこに人の英知の世界があります。
そして、どのような読者も、最初に必ずこの「ドアー」を開いて、著者が描き出す創造の空間へと導かれて行くのです。
今思うと、昔よく読んだ小説やエッセイ集等、著者には失礼ながら、内容は記憶から薄れてしまったものも多いのですが、不思議なことに自分の場合、その本の装幀、挿絵、そして文字や用紙の感触等は、今でもはっきりと覚えています。
本とはそのように、単なる情報の集積だけではない、様々な魅力を秘めた小宇宙のような気がします。
そして、私もそんな読者の記憶に残る、いい仕事をしていきたい。それが今の私の夢であります。