張郡栗山町の「北の錦」小林酒造さんに最初にお邪魔したのは、かれこれ7、8年前、雑誌の取材の折りだった。そのとき立ち会ってくださったのが現・四代目当主の小林米孝社長で、その後もささやかなご縁をいただいた。ふたりともそば打ちが趣味で、「“そばや酒”のできる店をやってくださいよ」なんていう話で盛り上がったりしたものである。
 外食事業の構想が実際に進行していることを最初に伺ったのは、今年(2003)の5月だったと思う。リサーチの結果、「そばと酒」というのはまだまだ北海道ではむずかしいと判断されたらしい。そば気狂いには少々残念だったが、蔵直送、汲みたての酒を、鶏料理を中心とした厳選された酒肴でいただくという、左党垂涎のプロジェクトとあいなったのである。
 レンガと札幌軟石からなる栗山の酒蔵の景観に魅せられている人は多いと思う。知る人ぞ知る、一番蔵から六番蔵までその蔵の連なりは、1世紀以上かけて定着した町の大切な景観である。店名の「七番蔵」は、その蔵元の第七番目の蔵が、札幌にできましたよ! という気持ちを表現したものである。丸に田んぼの田は小林家の屋号(「まるた」と読む)だ。 
 単に元の酒を飲ませるために直営店を開くだけではなく、本酒という、われわれに授けられた大切な文化を、静かに考え、発信する場所にしたい。そんな四代目の思いが「七番蔵」の開店には込められている。来し方、行く末を見据えている、古くて新しい酒亭。そのイメージを具現化する書体として、篆(てん)書を使いたい、と僕は考えた。そして、書道家・星野藤閣(とうかく)に依頼した。私の母である。書家には失礼ながら、僕は送られてきた書を、デザイナーと共に縦横のロゴにそれぞれ仕立てた。
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書:星野 藤閣 七番蔵の顛末(1)