パートナーへの感謝状 小池 真一


1. 夫から妻へ


いや、いろいろ心配かけたな。すまないとは思ってるよ。
でも、カイシも十分おれに心配かけているからな。
ま、どっちもどっちだってアルカディアやヨーンは言うだろう。
でも、今こうして考えてみるとカイシ以外のパートナーって考えられないってな。側から見れば変わった組み合わせかもしれないが。

 最初は……、大通り北か。2人の出会いはそこが初めてってわけじゃないけど。
出会いって言うとなんだかカッコよく聞こえるけどな。
なんせ口論から始まったカップルなんてプルト中でおれ達だけさ。
けどよ、カイシのタラの港での言葉は正直驚いたぜ。
嫌われてるとばっかり思ってたんだがね。単刀直入につきあってくださいと来たからな。ま、予想外。
理由はなんなんだろうな。聞いても答えてくれないのさ。カイシはプライド高いから答えないとは思ってたけどね。
でもおれも変だったかもしれない。カイシのその言葉を聞いた途端、なんだろうな、何も考えられなくなって、気付いたらつい、いいよと返事しちまったから……。
その時からもうカイシ一筋さ(その前はとか聞かないように)。カイシといると心が休まるっていうか、まあよく言い表せないがね。
そりゃもう結婚までまっしぐら。もう誰にも邪魔はさせんってな。
うーん。ちと恥ずかしい話だ。

 カイシに直して欲しかった事か?
いや、カイシはあのままがいいんだよ。それはおれが保証するさ。
そうだな……、強いて挙げるとしたらあの訓練癖かな。まあそのことは他人に言える立場ではないが……。
すく訓練のやり過ぎで病気になるし。雨の中を平気で何刻もアイシャ湖で泳いでて風邪を引かれたんじゃな。ただの笑い話だ。
そうそう。1番困ったのが、子供がお腹にいるって時に訓練を続けたことか。
出産の直前までバスの浜で走りつづけておいて。
もうあの時ほど心配したことはないぜ? 心労で、見守るこっちの身が持たないって。
ま、それだけだな。

 そう、おれが死んじまう時だったか。カイシが泣きながら言ってくれたよな。『いつまでもあなたと暮らしていたいのに』って。
あの言葉、ありがとうな。嬉しかったぜ。
20年近くか。カイシと一緒に過ごしてきたのは。
たしかにおれも十分だとは思ってない。20年なんか短すぎるさ。でもワクトの決めたことだ。そのへんは信じたくはないがね。
そうだな。機会があればいずれまた一緒に、な。
今でも愛してるぜ。

 最愛なるパートナー、カイシへ。


パートナー


2. 妻から夫へ


 タカと一緒に暮らして何年だっけ。えーっと……。
まあ、そんなの関係ないわよね。大事なのは愛なんだから。私達はいつでもラブラブだったもの。
なんだか惚気てるみたい。しっかり書かないとね。

 付き合い出してから分かったんだけど、意外とタカってまめなのよね。
最初はね、いっつも訓練と仕事ばっかりしてて無愛想な人って思ってたの。
そんな時に、なんだか些細な事で大喧嘩でしょ。変な流れでデートすることになって。
でも、うーん、なんでだろ。そんなタカに恋してる私がいるのよね。なんとか言いくるめて恋人関係になって。
タカはタカで付き合い出したら一変。あの変わり様は面白かったわ。
いまとなっては楽しい思い出。でも、過去のこととは思ってないよ。

 そうそう。私がドリーヌを産んだ時の事よ。
みんなひどいのよ。みんなして私のこと訓練バカみたいなこと言うんだもん。
強い子を産むためにも訓練は欠かせないって言ったら、それより私の身が持たないって言うし。
私はそんなに軟じゃないですよーだ。
タカもいつのまにかアルカディアとヨーンを味方につけて訓練止めろって。
他の出産が近い人には無関心なのに。
心配してくれるのは分かるんだけど、ちょっと悪いことしたかな。サッチの時は少しは自粛したんだけどな。

 そうね、タカに直して欲しかったこと……。
なんで試合の時、本気になって戦ってくるのよー。妻に向かって遠慮もなく攻撃してくるなんてひどいと思わない?
まあ……、ね。
初めて夫婦で対決したときはタカ手加減してくれてたみたいだけど、私が気付かないでのしちゃったのが原因かな。あはは。
でも私も手加減する必要なかったからいいかも。仮にもコーク杯の優勝者だものね。私。

 時が経って、思いもしなかったアルカディアの早死、ヨーンに続いて、そして今度はタカまで……。
アルカディアとヨーンは、年齢からいって私が最初だと思ってたから驚いたわ。
タカが死んじゃった時は……、あんまり思い出したくないの。もう年だって分かっててもね。

 だめね、私には湿っぽい話は似合わないみたい。明るく行かないとね。

 明るいカイシが1番だって言ってくれたタカへ。
 今でも愛してます。

 最愛なるパートナー、タカへ。

解 説

<前  展示室    次>