新しき国で 小池 真一


 祖国から、自分の可能性を試すため、今日、僕はプルト共和国に降り立った。

「なあ、ヨーンはどうするんだ?」
 僕は共に移住してきた仲間に聞いた。
「え? さあ。どれにしようか?」
 国に着いて、最初の難関かもしれない。移住者手続き。この国に住むための簡単な手続きだが、僕達3人はいきなり迷っていた。いきなりショルグとウルグを決めろ、と言われたのだ。まだ国の組織もよく分からなかったが、人生に関わる大事な選択なので、疎かにもできず、さらに悩んでいた。
 移住仲間のもう1人である、カイシは意を決したように言った。
「うん。これに決めた。コークショルグとリムウルグ」
 彼女は手続き用紙を、出迎えに来たシャイアルさんに渡すと、2人の方に振り向いた。
「で、どうするの?」
 うめきつつ、答える。
「うーん。じゃあ。コークショルグとバハウルグ、かな」
 なんとも曖昧な僕に続いてヨーン。
「じゃあ、俺はミダショルグとガアチウルグにするよ」
 2人とも手続き用紙をシャイアルさんに渡した。彼は用紙にざっと目を通した。
「皆さんお決まりですね。
 カイシ・ラングルさん、8才。所属はコークショルグ、リムウルグ。
 ヨーン・フォーチュンさん、6才。所属はミダショルグ、ガアチウルグ。
 そしてアルカディア・フィートさん、6才。所属はコークショルグ、バハウルグ。
 3人ともよろしいですね?」
『はい』
 3人が揃って返事をした。
 これで晴れてプルト共和国の人間になることが出来た。多少の不安はあるが、そのことが自分の心を躍らせている。
 3人は希望を胸に、シャイアルの言葉を聞いていた。


ザカーの塔を出ると、3人の人がいた。
 そのうちの1人、黒っぽい服を着た、黒い髪の男の人が声をかけてきた。その顔の穏やかな笑みが印象的だ。
「やあ。君達が新しく来た移住者だね」
「はい、そうですけど」
 僕がちょっと訝しげに答える。
「私はサイファ評議会の議長を務めている、アラニス・エマーソンです」
 なんと評議会議長の直々の出迎えだった。3人は慌てて背筋を伸ばす。
 アラニス議長に続いて、緑の服を着た恰幅の良い女性と、青い服を着た褐色の肌の男性。
「私はバハウルグ長のジューリアよ。ジューリア・リード」
「リムウルグ長のラシディ・イーグルです」
 自分達のような移住者に、評議会の偉い人達が出迎えに来た事に内心驚きつつ、僕は礼を言う。
「お出迎えありがとうございます。僕はアルカディア・フィートと言います。彼はヨーン・フォーチュン。で、彼女がカイシ・ラングルです」
 僕の紹介に会釈をする2人。その後、議長がこう言ってきた。
「こちらこそよろしく。さあ、長旅で疲れているだろう。まずは君達の家に案内しよう」


その日の夕方、ヤーノ市場とリムウルグの交差点で僕はヨーンに出会った。
「やあ、ヨーン。何してるんだい?」
「何って、まあいろいろと買い出しだけど。アルカディアは買わないのか?」
「昼間のうちに済ませたからね。そりより、議長さんが夕食を一緒にどうだって言われてるんだ。
ヨーンもどうだい?」
「議長さんが?」
「うん」
「いいな、俺も行こう。時間はいつ?」
「今日は議長さん、ずっと家にいるって言ってたから」
 ヨーンがアルカディアの後ろから近づいてくる人を見つけた。
「昼の4刻ぐらいかな?」
「何が4刻なわけ?」
「うわわわっ?!」
 近寄ってきたのはカイシだった。驚愕している僕のことを気にせず、
「アルカディアったら大袈裟ねぇ。それより昼の3刻に何するの?」
と聞いてきた。いまだに驚いたままの僕に代わってヨーンが答える。
「ああ、アルカディアが議長さんから夕食一緒にどうかってお誘い受けたんだったさ。で、俺達もどうかって聞かれたんだ」
「いいなぁ。あたしも行っていいわけ?」
 なんとか立ち直った僕が答える。
「うん。構わないんじゃないかな」
「やったぁ♪」
 カイシは大きく喜んでいる。隣でヨーンが苦笑いをうかべつつ僕に言ってきた。
「こんな大勢でいいのかな」
「さあ」


「こんばんは〜」
 夕方、僕達はアラニス議長の家、評議会官邸にやって来た。玄関でアラニス議長が出迎えてくれた。
「やあ、よく来たね。さあ、あがりなさい」
 さすが評議長の邸宅である。自分が住むことになった家より断然広い。3人は少し緊張しながら入っていった。
 居間に通されると、朝会ったジューリアさんによく似た女性がいた。3人の思いを察したのか、アラニスさんが口添えをしてくれた。
「彼女は私の妻のミウラだよ。朝会ったジューリアさんの姉なんだ。ミウラ、彼らが今日移住し
て来た子だ」
 言われて僕達は軽く会釈をする。
「ミウラよ。よろしくね」
 ジューリアさんの姉と言うことだが、確かに雰囲気が似ていた。
「で、娘が2人いるんだが」
「奥の台所で手伝ってもらってるわ。年が近いって言ったら張りきってるわよ」
 僕達に好印象を与えておこうってことだ。でもミウラさんが言ってしまったので、その魂胆がばれてしまっているが。
 アラニスさんの娘さんが出て来て自己紹介をする。フレンデさんとカリナさん。カリナさんは僕と年が同じらしい。今日、成人式だったそうだ。
 ちょっと居間で軽く話をすると、食事となった。
「3人の歓迎会なんだから。遠慮する事無いのよ」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ、3人の移住のお祝い、あとカリナの成人祝いだ。乾杯しよう」
 アラニスさんの声で、7人が杯をとる。
『乾杯〜』

 こうして、3人の新しい生活の初日は更けていった。

解 説

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