ウォーターサーバー 水 宅配 【蒼天・Party Room】神様、お願いっ!
 

神様、お願いっ!<メリクリ突発企画小説>


「あ、姉ちゃん? 俺、航。入ってもいい?」
「鍵は?」
「持ってる」
「じゃ、どうぞ」
「ほーい」

 私が玄関の方に向かい始めるのと同時に、ガチャガチャと鍵を開ける音が聞こえてくる。
 何だか全身の力が抜けていくのがわかる。あぁ良かったって、やっと一息つけるようなカンジ。仲が良い姉弟でよかった、本当に良かった。

 玄関まで出迎えにいくと、弟は水気をきった傘をドアの取っ手に引っ掛けて、大きな緑色の袋をこちらへ突き出して言った。

「ほら、コレ。クリスマスケーキ、婆ちゃんが金くれたから。俺が呼び出されたってことは、またクリスマスまでもたなかったんっしょ、彼氏」
「よ、余計なお世話だわよ……馬鹿」

 腕を組み、壁に寄りかかって視線を宙に泳がせる。靴を脱ぎながら、そんな私を半分呆れ顔で見上げる航の顔は笑っていた。

「姉ちゃん? 俺が一人の年はいいけどさ、彼女とかできたらこういう呼び出しにも来てやれねぇよ? いいかげん男見る目鍛えろよな〜、まったく毎年毎年……」

 そう言って立ち上がると、いつものように慣れた様子で歩き出し、思い出したように立ち止まる。ダウンのジャケットを脱いで、こっちに投げてよこした。

「ちょっと雨に濡れた。それ、どっかかけといてよ」

 あぁ、やっぱり呼んで良かった。何だか毎年恒例になってるけど、普段一人で暮らしでいる今、やはり血を分けた肉親と過ごせるというのはなんとも落ち着く……って、あれ? 私、なんか忘れてないか? そもそもなんで航を呼んだかっていうと……って、あぁぁっっ!!!!!

「航! 航ちょっと待って、航!!」
「何だよ、姉ちゃん。寒い中歩いてきたんだぜぇ? あったかいとこに早くいかせてくれよ」
「いやっ、そうなんだけどね。そうなんデスガ……あの、そっちにはその……ね、待って」
「何? 何かあんのこっちの部屋……に……あ?」

 最悪だ! 状況説明の前に現物見ちゃった!! あぁぁぁもう、いったいどうやって説明すればいいの、いったいどっから……。

「んー、あれ?」

 航、固まってる。そりゃそうよね、当然だわ。だって、だってだって、だってぇっ!!
 あぁぁぁぁあああああどうしよう? あーあーあーもうどうしよう!? 神様だなんて信じてもらえるわけないじゃない! 何て言ったらいいのよー!!!

「えっと……姉ちゃん? このおっさんって、誰? あ、ひょっとして彼氏?」
「ちがーーーーーーーーうっっ!! 違いますっ!!!」
「ひでぇな、帆波。そこまで全力で否定することねぇじゃん」
「え、違うの? っつか姉ちゃん趣味変わった? 何、ちょい悪系? チャラいちょい悪系好きなの、姉ちゃん」

 完全に勘違いをしたまま、航は椅子に腰を下ろす。私がおろおろと困ってるのを見て、少し楽しそうに見えるのは気のせいじゃない。あぁそうだ、弟はこういうヤツだった。
 なんかわかんないけどオタオタしている私をよそに、おっさんと航は自己紹介がてら話盛り上がってる。何なの、こいつら。すっかり仲良しじゃない!

「へぇぇ、じゃーおっさん神様ってわけだー。へー、いるもんなんだなー」
「おうよ! なんだよ、航。物分りいいじゃねぇの。その点よぉ、お前の姉貴は大変よー、ありゃまだ疑ってんな」
「マジで? あーでも頭固ぇわけじゃねぇんさ。姉ちゃん、他人にも自分にもなんかこう期待してねぇっつーか何つーか。ナニゴトもまず諦め、みたいなとこあって」
「あ、やっぱり? やっぱそう? なぁんかねぇ、そんなカンジっとかおじさん思っちゃった」
「わかる? やっぱわかっちゃった?」

 まったく二人して好き勝手ばっかり言っちゃって! ムカつく! 本当にムカつく!!

「ちょっと! さっきから聞いてりゃ何? 好き勝手ばっかり言ってんじゃないわよ! 航!」
「はいっ!」
「来てくれてありがとう。この家におっさんと二人きりとか、マジ勘弁って思ってたから助かるわ」
「お、おう……」
「でもって、おっさん!」
「神様だっつーの。何よ?」

 めんどくさそうにこっちに視線を投げてくる。あぁもうこの際だから全部言わせてもらうわ、えぇ、言っちゃいますともさ!!

「あのねぇ。リベンジだかなんだか知らないけど、あんたがうんこ以上の力を手に入れたってんなら、なんであれからずっと私はこんなままなのよ。いっつもお願いしてたわ。ここから引っ張り上げて、私を幸せにしてってずっと思ってたわ。なのにリベンジどころか放置じゃない! それなのに今さらのこのこ現れて何よ! だったらとっとと私を幸せにしてみなさいよ!!」

 なんか息切れしてきた。怒鳴り散らして酸欠にでもなったのかしら。頭がちょっとくらくらするわよ。でもいいわ、すっきりしたかも。さて、どう? 何か言ってみなさいよ、神様。

「……ふん、なるほどな」

 あら? 何か拍子抜けするわね。何だろう、このカンジ。航はおっさんが何を言い出すかって、すっごいわくわくしながら次の言葉を待ってるみたい。
 おっさんはまた煙草に火を吐けて、吐き出した煙をもう一度吹いて散らした。

「そういう事なら、無理。お前を幸せに? 無理だね」
「はあ? どういうことよ」
「あー、俺うんこだからなぁ、ダメダメって事なんじゃねぇの? 今のお前を幸せに? 無理無理、俺にはぜってー無理」

 胸がチクチク痛い。何なのこいつ、面と向かって。どうしてこんな事言えるの? 曲がりなりにも神様を自称してるやつが、どうして幸せにできないなんて、そんなひどい事を言うの? 私にはその価値もないっていうの?

「まぁリベンジ狙ってるのはマジだからさ、しばらくはちょこちょこお前んとこ顔は出すわ。っつってもなぁ、今のお前じゃどうしようもできねぇよ。なんでかわかるか、帆波」
「何よ、ソレ。私には幸せになる資格がないっての? だから毎年こんなクリスマスを送ってるって、あんたそう言いたいの!?」
「資格がねぇって何だよ、そんなわけねぇだろ? たださ、幸せになりたいって口先だけで言ってるヤツを救い上げてやれるほどのバイタリティ、俺は持ち合わせてねぇって言ってんの」
「何よそれ。ちゃんと仕事しなさいよ……バイタリティがどうこうって、何ふざけたコト言ってんの? どんだけやる気がないのよ、おっさん」
「違ぇだろ、帆波。やる気の問題じゃねぇんだよ、ばーーーか」

 おっさんはそう言ってちょっと顔を歪めて、いつから剃ってないんだか、無精髭というにはちょっとだけ立派な不揃いの髭の生えた顎を一撫でしてから言った。

「お前も聞いたことあんだろ? ほら、天は……なんだっけ、天は自ら……あー、あら? なんだっけな、なんかこう何とか教の何とかいう教えみてぇなので、いい言葉があったんだけどな、ちょっと待てろよ? ん〜〜〜〜」

 何かありがたい言葉を言って説得力をつけるハズが、おっさんは馬鹿なのでどうやらド忘れしてしまったらしい。煙草の煙をくゆらせながら、腕組みをしてしきりに考え込んでいる。その横から航が楽しそうに茶々を入れてて、どうやらこいつは何を言おうとしてるのか気付いているのに教えてあげる気はさらさらないらしい。
 呆れ果ててずっとそのやり取りを見ていたら、おっさんはどうやら考えるのに飽きたようで、わかめなくせっ毛をぐしゃぐしゃっと掻き毟ってからおもむろに口を開いた。

「まぁほら、アレだ。そんなに幸せになりたいって願ってんなら、てめぇで叶えてみろってこった。助けて助けてばっか言ってて自分じゃ何にもしようとしねぇヤツの手を取ってやるほど、俺は親切にできてねぇんだよ。やってられっか、めんどくせぇ」
「な……っ、何それ! 職務放棄? 願いなら自分で叶えてみろって、だったらあんたは何のために落っこちてきたのよ? ヒトんちの風呂まで使って、いったい何様のつもりよ!?」
「何様って、神様に決まってんじゃねぇか。何度も言わすなよ」

 そう言って、おっさんはいきなり立ち上がった。

「あーあ、ちょっと来んの早かったみてぇだな。もうちょっとイイ女になってるかと思ったのに……俺以上にやる気ねぇ、つまんねぇ女になってんだもんな。おじさん、がっかり」

 そう言ってバスローブの上からお尻をバリボリ掻いてる。何なの、こいつ! 何で私が、なんで毎年ツキから見放されてる可愛そうなこの私がここまで言われなくっちゃなんないワケ!? マジであったまきた!!

「ちょっとおっさん! 好き放題言ってくれちゃって……もうあったまきたわ! 出てけ! 早いとこ出ていって!!」
「あ〜らら、姉ちゃん。怒っちゃったぜ、おっさん」

 何か言い返すかと思ったら、おっさんはこっちも見ないで何やらゴソゴソやっている。

「あ、ちょっと見ないでくんない? おじさん今着替えてんだから。スーツねぇし、あとはもうこんなんしかねぇなぁ……ちょっと寒いから着たくねぇんだけどなぁ、この時期」
「なんでこんなとこで着替えてんのよ! ちったぁ隠れるくらいの恥じらい見せなさいよ!!」
「えぇ〜? いいじゃーん、俺別に構わないしー、見られても減るもんじゃないしー。あ、金も取らねぇよ?」
「当たり前よっ!!」

 とりあえず目を逸らしてたんだけど、航はおっさんが着替えている間もずっとおっさんと会話してた。準備できたっていうから振り返ると、トランクスだか何だかわからないパンツに、季節はずれのアロハシャツを着たサングラスのおっさんがそこにいた。真冬の夜にサングラス!?

「何それ? 何の冗談?」
「寒いけどなぁ、スーツ濡れちゃったし。あ、この袋もらっていいよな? このまま持って帰るから。あとさっきの傘、貸してもらっていい? 今度来た時ちゃんと返すから。なんなら借用書書くぜ? 神様直筆サイン入り。超レアだぜ」
「傘はあげるからもう来なくていい!」

 そう言って背中を向ける。おっさんはちょっと寂しそうにしてたみたいだけど、私には関係ないわ。航は気が合うみたいだし、航が玄関まで送ってやればいいんだわ。

「じゃー俺、今日は帰るわ。あーでもリベンジ諦めてねぇからさ。ちょっと様子見てまた来るから。そしたらまたよろしくな」
「マジで? おっさんまた来んの? 来たら連絡してくんね? 俺、また遊びに来るからさ。あ、ケー番教えとくわ……って、おっさん携帯とかあんの?」
「あるあるぅ。お前イマドキの神様なめんなよ? 携帯くれぇ持ってるっつの! ゲームだってできんだぜ?」
「へぇぇぇ、ハイテクな神様じゃん。じゃ、送るわ、赤外線とかできんの?」
「できるって! あー、ちょっと待てよ……あ、おっけ。ん〜、おぉぉ、キタキター。よっしゃ、望月航な。うっし、登録完了。じゃーまたな。航、姉ちゃんよろしくな」
「おっけぇ、まかしときな。こんなんだけど、たった一人の姉ちゃんだかんな」
「おう! じゃ、またな、航。帆波! 風呂、さんきゅーな。今日は一旦帰るから! またな!!」

 そう言って、おっさんは荷物をすべて小さなスーツケースにいれ、っつか、何で入るの!? まぁいいわ、もう関係ないし。で、それと傘を持って玄関から出ていってしまった。やっぱり神様っての嘘くさいわ。神様ってのはこうぱぁっと消えたり、天から注す光の中に吸い込まれてくように上ってって消えてくもんじゃない! 玄関から普通に帰るって、何?

「あーあ、帰っちゃったぜ、おっさん。いいのかよ、引き止めなくて」

 航が妙に気遣った口調でそう言ってきたけど、関係ないわ。ちょっと変なおっさんをうっかり拾って帰ってきちゃっただけ。そうよ、明日になったら、またいつもの一日が始まるってもんよ。大掃除とか、やることはいっぱいなんだから!
 握った拳に力を込めて、明日からまた闘い続ける誓いを新たにしていると、航は呆れたように大きな溜息を一つ吐いて言った。

「あんさ、姉ちゃん。おっさんが言ってたコト。俺、わかんなくもねぇよ?」
「……知らないわよ、あんなの。まったく、とんでもないもん拾っちゃった。大失敗よ」

 その日は結局例年どおりのクリスマスを、弟と二人でまったりと過ごした。
 深夜になって、DVDの映画も終わり、そそくさと後片付けをする。二人そろって大きなあくびをして、おやすみを言ってお互いの部屋に戻った。


 そしてその翌朝。ゴミ出しに降りたアパートの前。
 年末でいつもの3割増のゴミで溢れかえるゴミ捨て場に、そのゴミにまぎれて寝こけてる季節はずれのアロハを着たちょい悪系のおっさんを見つけちゃったりするんだけど……。


 それはまた別のお話で……



== to be continued? ==

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