篝火の夜


 コンッッ!

 ふいに、硬い音が響いた。

 男達は一瞬息を詰め、その音の方に意識を集中した。
 そこには周りの男達に比べるとひとまわりもふたまわりも小柄な人影があった。

 その小さな人影は、ゆっくりと辺りを見回した。

 男達が全員広場に戻ってきている事を確認すると、その小柄な人物は自分の背丈よりも頭一つ分も長い木の杖を高く持ち上げ、先ほどよりも大きな音でコンコンッ!と二度、地面を力強く突いた。その音を合図に、集まっている男達は軽く礼をして、全員その場に腰を下ろした。


「皆、ごくろうであった!」

 小さな体とは不釣合いな力強い大きな声が、夜の広場に響き渡った。
 自分の方を見つめる男達の様子を確認するように見つめ返す。そしてまた口を開いた。

「これより十日間、毎夜このように篝火を灯してもらう。いつもの祭に加えて、今年は二十年に一度の社遷しも行うでの。その日まで皆、誇りを持ち、心して郷を廻ってもらいたい」

 ――誇りを持ち…

 その言葉に、男達は苦笑をこらえて頷いた。

 この郷の年寄り達は、何かというとすぐ「誇り」という言葉を口にする。
 都からもほど遠いこの辺境の土地で、誇りも何もあるものかと若い者達は思っていた。
 社遷しを前にして、いつにも増して繰り返されているこの言葉。
 いいかげん聞き飽きて、うんざりしている者も多かった。

 そんな雰囲気を感じ取ったのか、杖を持ったその小柄な人物は大きく息を吸うと、さきほどよりもやや強い調子で言葉を吐き出した。

「新しい社も完成が近い。明日からは古い社で神宿りの儀の準備も始まる。二十年前の社遷しの時にはまだ幼かったおぬし達だ。中には生まれてすらなかった者もおるやもしれん。だが今回は、そんなおぬし達が中心となって動くのだからな」

 そう言って、自分を見つめる顔を再びぐるりと見返す。

「皆、親や年寄り達に、いろいろと教えを請うておいてもらいたい。祭の…、神宿りの儀の間、火を絶やさずにおるための薪も充分には足りてはおらん。やる事はまだまだ山積だからのぅ」

 そこまで言うと、その人物は杖を握りなおして一呼吸置いた。

 その時だった。


 広場に座っている男達の中の一人が声をかけてきた。