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Warning! ラムダ・ゲル・シートの謎

あるいは熱伝導率という名の嘘

LastModified 02/10/14

 

さて、今回も懲りずに伝熱ネタです。え?飽きた?まま、そう云わずに。^^;   AKIBA PC Hotline1999.6.5付今週見つけた新製品ラムダ・ゲル・シートという伝熱素材が秋葉原で出回っているという記事を見ました。

「マラソンシューズの緩衝材にも使われている素材で、熱伝導率と密着度の高いのでシリコングリスや熱伝導シートの代わりに使える。通常の熱伝導シートの熱伝導率は0.37(W/mk)程度だが、この製品は白で1.0、灰色で1.5。」

とあります。見た瞬間、こいつはネタになる! と笑ってしまいました。何故、笑ってしまったかって?そりゃあ、そうでしょう。こんなモノが効く訳がないじゃないですか。ま、1億分の一の間違いという事もあるので東京の友人を通じて入手してみました。論より証拠。実験してみましょう。

 


1 熱伝導率という名の嘘

[グリス比較] の項でもふれましたが、再度熱伝導率についてふれます。

403
アルミ 236
コンクリート 10
36
水銀 7.8
シリコングリス(信越 化学 G765) 2.9
シリコングリス(HotStuff SSグリス) 1.05
シリコングリス(サンハヤト SCH-30)

0.84

空気 0.024

上の表をみる限りでは、今回のラムダ・ゲルシートの1.5 W/mk という数値は悪くない様に思います。しかし、この W/mk という単位が曲者です。これは、1m四方の面積で厚みが1mの時に、両面に1℃の温度差があった場合に、1秒で伝わる熱量という意味です。

今回のラムダ・ゲル・シートは厚みが 1mm あります。つまり体積換算すると以下の様になる訳ですな。

@ 灰色ラムダ・ゲル・シート

    熱伝導率     : 1.5 W/mk
    面積             : 0.025m x 0.025m = 0.000625 m^2
    厚み             : 0.001 m

                1.5 x 0.000625 / 0.001 = 0.937 W

A シリコングリス サンハヤト SCH-30

    熱伝導率     : 0.84 W/mk
    面積             : 0.025m x 0.025m = 0.000625 m^2
    厚み             : 実装状態じゃ一体どの位か想像もつきませんが、滅茶苦茶大目に見積もって 0.1mm とします。
                                     → 0.0001m

                0.84 x 0.000625 / 0.0001 = 5.25 W

 

さて、どう思います?グリスの厚みにかなり無茶な仮定を入れてもこの始末です。加えてグリスの場合は、金属面同士の接触がある事も忘れてはいけません。しつこい様ですが、

CPUとヒートシンク間には何も(特に空気)存在しないのが理想

なのですから。(ちなみに、グラファイトシートの場合は、5000W になります。(^.^)) ま、やる前から結果は見えてますが、何事も実験実験。

 


2 ラムダ・ゲル・シート

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入手したラムダ・ゲル・シートです。灰色が \1000、白が \500 でした。触った感じはプヨプヨのゲル状で、密着性は確かによさそうです。Celeron 300A のコアにぴったりのサイズです。

密着性が命なので、例によって P125 にリテールシンクとサンドイッチ方式で固定します。十分密着する様にきつ目に締めています。写真ではわかりにくいですが、かなり潰れて薄くなります。

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そいじゃま、実験してみましょうか。

 


3 実験方法

CPU Celeron300A 100x4.5MHz駆動 Vcore=2.05V Vio=3.66V   SL2WM 09060444     COSTARICA
M/B ABIT BX6rev2 with TurboPLL01
Cooler Alpha P125 + オリエンタルモータ6cmファン x 2
OS Windows95 OSR1
グリス サンハヤト SCH-30,灰色ラムダ・ゲルシート、白色ラムダ・ゲル・シート
  1. ケースは閉めた状態とする。

  2. シリコングリスはセッティングを5回行って計測し、ベストのデータを使用(作業性の影響を排除)

  3. 温度計測は以下の5点

  4. 室温、ケース内温度、CPUコア近傍、ヒートシンク(以上全てサーミスタによる)

    BX6rev2 のW83782D の機能によりCeleronコア内部サーマルダイオードより内部温度読み取り

  5. 計測条件:FinalReality を1時間以上ループさせ、温度変動がなくなった後、一番負荷の高い City 時で温度を計測

 


4 実験結果

これは私の環境における結果であり、ケースや使用機器により変わってくることはご了承願います。

ラムダ・ゲル・シート評価

室温

ケース

シンク

コア脇

コア内部

SCH30

計測温度

23.5

26.0

29.3

31.7

44.0
室温との相対温度

2.5

5.8

8.2

20.5

灰色ラムダ

計測温度

25.2

28.0 31.6 39.0 50
室温との相対温度 2.8 6.1 13.8 24.8

白色ラムダ

計測温度

25.0

28.0 31.1 37.4 48
室温との相対温度 3.0 6.1 12.4 23.0

使用後の状態です。完全に潰れていますね。一晩おくとかなり復元したので再利用も可能かもしれません。(まあ、使おうとは思いませんが)
白色の方は締め付け過ぎで千切れちゃってますね。ははは、道理で熱伝導率がいい(という話の)灰色より成績がいい訳だ。(爆)

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5 考察

さ〜て、如何でしょうか? 予想通りの駄目さ加減に思わず嬉しくなっちゃいますねー。使うだけでCPU温度を5℃もあげてくれるとは、なかなかの断熱性能です。実験しながら大笑いしてしまいました。結論ですが、

CPUの伝熱面に絶対使用してはならない

って事位ですかねー。まあ、自分で直接購入した訳じゃないんで、「CPUの冷却に効く」と言われて買った訳でもないですしね。チップ抵抗が乱立してる基板面の冷却をしたい場合とかには使えるかもしれませんが、その場合 1mm だと厚みが不足するでしょうね。HDDの防振マウントとして使う手もありますが、その場合はコストが高すぎるでしょう。うーん、一体何に使えるんだろ?

ま、本来の使用目的通りに、靴の踵にでも入れて衝撃を吸収してもらうのが無難な所ですかね。え?私ですか? いやあ、\1500 分は笑わせてもらいましたんで、満足しています。

 


6 独り言

すっかり笑いに走った今回ですが、購入してくれた友人によるとかなりの Shop で売り切れだったそうです。確かに熱伝導率の数値だけを見ればいけると思うかもしれません。しかし、実際に検証してみれば論外な事はすぐわかる筈です。こんなものを仕入れて売る Shop の良識を疑う所ですが、結局は買うユーザの自己責任ですから。

冷却・伝熱関係は検証が面倒(難しい訳ではありません)なので、「なんとなく効きそう」という風聞が幅を利かせている様に思います。最近では、Windyとかいう冷えない事で有名なCPUファンを作っているメーカの「全身ヒートシンク」とかぬかすアルミケースをみた時にも頭が痛くなってきました。ま、ケースが軽いのはいい事ですけどね。

人の言う事(勿論、私の言う事もです)を鵜呑みにせず、自分で考え検証してみるべきです。

「考えるな。感じるんだ。」

というのは「燃えよドラゴン」におけるブルース・リーの台詞ですが、やっぱたまには頭も使わないとね。

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