1月号で大前さんが持ち上げたシンガポールのやっている工業団地へ行って来た。タクシーをチャーターして飛ばすこと3時間半。この間も、ずっーと人海戦術で高速道路の工事をしていた。中国のインフラ整備は急速に進んでいる。
上海の中心から30分ほどの付近に、近代的なアパート群が姿を見せる。なんでも、市の中心地を再開発するときに住民を移転させるアパートなのだそうだ。だいたい2DKほどの広さで元から比べればずいぶん広くなるし、立ち退き料ももらえるらしいのだが、それでもごねる人が多いらしい。
シンガポールは、上海から車で2時間の蘇州と、4時間弱の無錫に中国と合弁で工業団地を造成している。運用を開始してから10カ月、まだまだ建築中の工場が多い。無錫シンガポール工業団地に進出した日系企業は11社、開発済み地区の80%を占めている。
アルプス電気、日立マクセル(7.5ヘクタール)、岩谷、松下冷機(15ヘクタール)、三井物産、村田製作所(11ヘクタール)、他
シンガポール政府は、各国に代表事務所を置き、企業を誘致している。日本は、赤坂ベルビーの8階、シンガポール・テクノロジーズ駐日代表所、担当○○tel3503-○○
この団地は、標準化された建屋を貸し出すという形を取っている。だから同じ形の一戸建ての工場と、4階建てマンション形式の工場がお行儀よく並んでいるのだ。実にシンガポールらしい光景である。工場を借りると、2カ月で内装して、操業することができる。ただし、アルプス電気は自前の工場を建てていた。
50年間の土地使用料は平米あたり62米ドル。賃貸用標準工場の賃貸料は月平米当たり4.4米ドル。
N社は、この二階建て標準工場5340平米を借りている。毎月の賃貸料は260万円。中国系マレーシア人の陳総経理は、「ほかのところに工場をつくればもっと安く住む」と、賃貸料の高さに不満の様子だった。しかし「電気・通信などのインフラが整備されていること、中国では2週間で政策がころころ変わることも少なくないが、合弁プロジェクトのため、政府も無錫市も協力的である」という利点をあげてくれた。
この工場は11月に稼動し始めたばかり。同社マレーシア工場からの生産技術移転を進めている。現在3本のラインが稼働中だが、そこで生産されているのは、付加価値の低い、電源部品のモジュールである。これは中国国内に試験的に売ってみるらしい。
1年以内に1階に4本(自動化ライン)、2階に10本ラインを敷く予定。機能的な、よく設計された工場だ。生産管理は、コンピュータが大活躍している。4人がコンピュータ専従者だ。O社の工場よりかなり進んでいると見た。体制が整えば、日本で2年前から生産している最新の製品を作ることができるようになるという。従業員は、250名、うち、エンジニア、マネージャーは35名である。
賃金は、215名を占めるオペレーターの分はマレーシアと同額だが、エンジニア、マネージャーの分が安いので、トータルでは半額程度になっている。
ただし、人件費比率は総コストの2割程度であり、むしろ大半を占める原材料費のほうが問題である。このたび、中国政府は、設備、原材料の輸入免税を撤廃した。「外資の内国待遇」はどんどん進むだろう。
原材料のうち67%は日本から輸入している。国内調達比率の引き上げは、どの企業も目指すところである。2、3年後には、中国人だけで運営する工場にする予定だそうだ。「中国人は、頭がいいし、やる気もあるから、徐々に向上する。しかし、マネージャークラスのいい人材がなかなか見つからない」と陳総経理は嘆いていた。
現在、生産技術移転のために4人のマレーシア人が駐在している。日本人は、Y氏がときどきやってくる。後は、ロータスNOTESで、日本とマレーシアと上海をつないで、情報共有を行っている。これは凄い!
N社は革新的な経営を行う会社なので、私は常々ひいきにしているが、ついに日本人の居ない海外工場をつくるとは、どこまで進むのか見当もつかない会社である。
なお、以上の取材は、原則英語で行われたので、情報の確度はきわめて低いことを、念のため付記しておく。