あとは大概のものがある。ファーストフードは彼らにとっては高級料理だ。マクド、ケンタッキーはもとより、ファーストキッチン、モスバーガー、松屋まである。コンビニもある。
車は現地生産しているフォルクスワーゲンの車ばかり。タクシーは、全部えんじ色のサンタナだ。あと、同社がつくっている軽四並の車があり、赤色で統一されたタクシーとして走っているが、乗り心地が悪いので、お上のお達しにより、2、3年中に市内から追放される予定だという。
メーターがついており、よほど性悪の運転手でなければ遠回りなどせず、安心である。犯罪はきわめて少ないらしい。かっぱらいなどは田舎のほうが多い。だだし、南京路の路地で外国人目当てにやってくる客引きは最悪だ。ビールいっぱいで数十万を要求するぼったくりが多発。O社御曹司の某は30万円払った挙げ句、「ありがとう」といって出てきたらしい。「命ばかりは助けてくれてどうもありがとう」の意か。
私がこの町で一番感動したものは、かの名高い「上海雑技団」の妙技であった。上海に来て、これを見ない人はバカだと思う。ウィーンに行ってオペラを見ないのと同じだ。雑技場は人民広場近くにあったが、現在は建て直しの最中で、ポートマンホテルという5つ星ホテルに付属した1000人程度収容の劇場に間借りしている。このホテルは新しいので地図に載っていないかもしれない。だいたい上海は、町並みがどんどん変わるので、旅行者は最新の地図の用意が必要だ。
雑技団の演技のすばらしさを言葉で表現するのは愚の骨頂だが、45元という切符の値段はあまりに安すぎるということができる。この帝政時代からの芸術を500円程度で観覧に供するとは、さすが中国、太っ腹だ。雑技団員は、10歳の頃に田舎からやってくる。飯が食べられなかった時代は、寄宿生活すらもありがたかったらしい。しかし、花形になったとしても、そうたいした給料はもらえないらしい。上海人の雑技団に対する評価もクールなものだ。喜ぶのは外国人だけだと思っている。テレビでしか見ていない人も多いようだ。しかし、わたしには、これは不当な評価に思えてならない。それに外人と見ると駆け寄ってきて、掛け軸や石ころを高く売りつけようとする態度と比べても、バランスがとれていない。
和平飯店という古いホテルがあり、ここのバーで、戦前の上海を彷彿させる「上海オールド・ジャズバンド」というのが毎晩演奏しており、眠たい演奏を聴かせてくれる。平均年齢は軽く70歳を越えており、「もう止める、もうなくなる」と言っては、いつまでも引っ張って客を寄せている。O社は、このバンドの演奏をCDに録音しており、昨日、私の手元に送ってきた。毎日の夕刊が4月5日に大きく取り上げている。