この当時の浦東はこんな感じ 上海は、北京に比べると道が狭く曲がりくねっている。そのくせ人の数は多い。なぜ中国に自転車が多いかというと、公共交通機関が整備されていないからである。地下鉄は一路線のみ。焼け石に水である。東京から地下鉄と山手線、中央線を取り去って、後は、時計の針を30年巻き戻せば、上海と同じ光景になること請け合いだ。
勤務時間は8時半~5時が普通。その前後は銀輪部隊が町を多い尽くす。雨の日も会社はあるから、合羽のまま自転車に乗る。色とりどりのカラフルな合羽が町を彩る。
上海市民は、この町が昔から西洋への窓口であったことから、大変プライドが高く、「中国のほかの地域はみんな田舎だ」と固く信じている。つまり中国人にも西洋信仰があることがわかる。
この町で見聞したものを取り留めもなく書いていくと -----。
上海に喫茶店は数少ない。上海人の楽しみは、南京路という銀座と渋谷と新宿を一つにまとめて、叩いて細長くのばしたような、恐ろしく長い、恐ろしく繁華な商店街の巨大なデパートを買い物して歩くことだが、疲れたらお茶でも飲みそうなものなのに、そんなことはしないのだ。洋風の喫茶店は、実に高級な楽しみなのである。では、買い物していて疲れたらどうするのか。簡単である。その辺に座り、足を休めるのだ。一般に、西洋人は基本的に立っているのが好きな人種だが、中国人と我々はそうも変わらないはずだから、喫茶店がないのには驚いた。
上海の町の真ん中には人民公園という広場がある。ここは戦前には競馬場があったのだが、労働が余剰価値を生む共産主義国にあってギャンブルは御法度である。さっそく潰して広場にしてしまった。この広場は、休日にはアベックや家族連れが出かけるスポットなのだが、ここにいる鳩は、平和のシンボルということで、全部真っ白なのである。どうやら白い鳩のみが、ここでは生存を許されているらしい。
この広場にこのたび出現したピカピカの建物が市役所と上海博物館である。白亜の市役所は、ロシア政府のビルにそっくりだ。こっちには一瞥をくれただけで、私は上海博物館に入った。私は、京都は奥の深い町だと思っていたが、中国はもっと奥が深い。上海博物館では、紀元前18世紀の青銅器を拝むことができる。それも一個や二個ではない。唐三彩や景徳鎮も充実しており、好きな人は一日居ても飽きないだろう。
上海人の最新流行の娯楽とは、レーザーディスクカラオケとボーリングである。
上海の人が行くカラオケは日本人が行く接客婦付きのものとは違って単なる部屋貸しで、飲み物も出てこない。両方とも、邦貨換算では日本より高いとあって、中国人にとっては高嶺の花だ。滅多にいけるものではない。ディスコは歌舞庁という。
昨年から、生産性を無視して、週休2日制が始まった。休日は、家族連れなら人民広場か遊園地に行くのが楽しみらしい。一人っ子政策なので子どもはたいがいわがままに育つ。そういうガキを「小皇帝」という。人からなんと言われようと、中国人夫婦は子どもを猫っかわいがりするようだ。若者はレストランでパーティーをしたりもするという。
テレビの番組は、圧倒的にアメリカ製のドラマが多い。これも昔の日本とそっくり。上海電視台が正午から何を放送するかな、正午のニュースをやるかなと思って、飯を食べながら視ていると、アメリカの古いテレビドラマの「FBI」が始まったのには恐れ入った。日本のトレンディ・ドラマも放送されている。浅野ゆう子が中国語で話していた。
コマーシャルはなかなか派手で、CGを使い中国人の好みに合わせたものが多数放送されていた。香港辺りでつくっているのだろうか。訴求は単純で、豊かな物質的生活の優位が、価値観の底流をなしているようだ。日本の各電機メーカーもがんばって企業広告を流していた。北京でも上海でも、アンテナをたてればSTAR TVからNHK衛星放送、WOWOWまで視ることができる。中国人は、旅行する自由を持っていないが、外国に何があるのかは知っているのだ。これは重要な点だ。
目標がなければ、人は行動を起こさないものだ。
家電店を見てみると、テレビは圧倒的にシーメンスのプレゼンスが大きい。ソニーが上海に大工場をつくるので、少しは出てくるだろう。日本にあって中国にないものは、ファミコンである。理由は、様々考えられるので省略。南京路の商店では「BEGA」というブランドの紛い物が売られていた。これは香港製。商店で買い物をすると、まず、品物を見た売り子が伝票を書いてくれるので、それを持ってレジに行き、支払いを済ませると伝票にスタンプを押してくれるので、それを元の売り子に渡すと商品を交換に渡してくれるというスタイルの店があった。