「株価時価総額主義」批判
木谷高明 氏
運営者 木谷さんの会社は株式公開を射程距離に入れてらっしゃいます。最近、時価総額主義というのが流行ってますけど、これは経営者から見るとどう思われますか。
木谷 株価というのは、経営者にとっては「宿題」だと思います。ベンチャー企業が高株価であるということは、小学生に「君は将来、どうしても東大に入らなきゃいけないんだよ」と言ってるようなもの。
売上20億でも時価総額が何千億という会社がありますからね。赤ん坊に「ハーバードに行け」と言ってるのと同じ。うまく入学できたとしても当たり前。「お父さん、お母さんの期待に応えてくれたね」って感じ。仮に高校ぐらいになってぐれちゃって、親の前から姿を消したりしようものなら……、詐欺師扱いですよ。出資金だから、合法的な詐欺。
経営者としてみれば、自分がやるべきことを人に決められてるわけですから、何のために独立したんだかわかんないですよ。ぼくは学校時代勉強嫌いだったですからね。なんでそんなことをやりたがるのかなあ。
運営者 本来は株価は経営実態を表すはずで、アメリカのネット関連企業の時価総額は顧客の数にちゃんと比例しているというじゃないですか。どうやら日本では、いびつな競争になっているようですね。
まあ、「俺は一人で勝負したいんだーっ」と会社を飛び出すようなタイプの人は、必然的に他人と競いたがりますけどね。
木谷 今脚光を浴びているベンチャーの社長たちの中には、「ライバルに負けたくない」とばかりに、時価総額を指標にして競争している感覚の人もいるのでは。
子供の頃からの受験秀才が起業するようになっているので、偏差値でやってた「抜いた抜かれた」を、時価総額を指標にして未だにやっているのかもしれませんよ。業種を超えて競い合ってますからねえ。ネット関連企業だと、売り上げが立ってないから、時価総額で競い合うしかないのかも。
中には、自社の現場を回らずに、株価をつり上げて、M&Aすることばかりを考えている経営者もいるとかいないとか。そうすると、アナリストやマスコミと接する時間ばかりが増えますから、それは良くないですよね。
ぼくはそういう発想はしませんね。
株価というのは、投資家が勝手につけた点数であって、お客さんに関係がないじゃないですか。人気投票ですな。それで競い合うというのは、客観的な評価ばかり求めているような感じがするのですが。利益や売上を経営者自身や、社員、株主、顧客がどう評価するかということが問題なのではないでしょうか。
株を売り買いすれば、利益を調整することができます。でも企業というのは本業で儲けて税金を払い、社会に貢献しなきゃ。 基本は売上と利益だと思いますよ。だって株価は、株数を少なくしておいて、それを誰かが買えば吊り上がるんですから。
運営者 売上至上主義の反動なのかなあ。まあ、ROEとか、従業員満足度とか、時価総額以外にも、いろいろと考えなきゃいけないことはありますよね。
木谷 そういう高値の株を喜んで買おうという個人投資家もいますが、もし今の値段が会社の実力と離れていたとすると、素人衆にご迷惑をかけることになってしまうわけですよ。世の中には素人さんがいるんです。素人さんが安心して暮らせるようにするのが、政治家や経営者といったリーダーと呼ばれる人たちの仕事なんじゃないのかなあ。
ある公開企業の経営者に聞いたんですよ。
「今御社は、時価総額で数千億円ありますよね。どーですか、借金返してる気分じゃないですか?」
その通りと言ってましたよ。超高株価の会社の経営者にとって「業績を上げる」ということは、「借金を返している」感覚に近いんです。株価が上がるのは怖いことですよ。
(2000/1/12)
このインタビューは2000年に行ったもので、内容は古いですが、中身のおもしろさが評価できるのでそのまま掲出しています。