ベンチャー魂について語ろう
木谷高明 氏
運営者 木谷さんには、ベンチャー精神について伺いたいと思います。
木谷さんに最初にお目にかかったのは89年。山一証券営業企画部にいらっしゃいました。そのときから、ベンチャー精神にあふれた人だなあという強烈な印象があります。「何かをしたい」という行動力がありましたよね。それは何をやろうという欲求だったんでしょうか
木谷 ホントにベンチャーがやりたい人は、環境は関係ないんですよ。好不況は関係ない。悪く言うと、まず、人に使われるのが嫌なんです。よく言えば、自分が先頭に立ちリーダーシップを取って、自己実現や自己表現をしたい人なんです。
個人では自分以外に戦力がないから、できることに限界がある。自分自身はプレーヤーとしては大したことないと思ったので、「大きなことをやるためには会社をつくらないと」と思ったわけです。バブルの頃からそう思ってましたね。
運営者 辞めて独立したいという意識を持ち続けていたわけですか。
木谷 いや、「辞めたかった」わけではなくて、「やりたい」という気持ちが先にあるわけです。
ただ、ベンチャーをやる人が少ないのは、これまでは大企業にいる方が、「割が良すぎた」ということでしょう。政府の政策としてベンチャー促進策なんかやらなくても、35歳以上で大企業に勤めている人の割りが悪くなれば、放っておいてもみんな独立しますよ。
9割くらいの人たちは、「割の善し悪し」で行動しますから。「期待値」で行動するわけです。自分でベンチャーを起業するなんてのは、かつてはリスクが大きくて、期待値が低すぎたんですよね。
運営者 その通り!! でも、今は政府も「ベンチャーをやるべきだ」といってますから、なぜか期待値が上がっていて、「自分も起業して株式公開、一攫千金できるのでは」という幻想を抱き、その幻想に基づいて行動している人がいたりするんですよねえ。
木谷 本当は、素人さんは手を出しちゃいけない世界なんですよ(笑)。
素人と玄人の区分はね、「やったら割に合うかどうか」に関係なしに、やることができるかどうか、その覚悟。どうしても自己実現したいという強烈な動機です。
自分の組織を作りたいってことでも、大金持ちになりたいでも、なんでもいいんです。強烈な前向きの動機があるかどうか。「ひどい目に遭わされた。見返してやるー」というマイナスエネルギーでも、それをプラスに転化させればOKですよね。本来はリストラされるはずじゃなかった人がリストラされた、なんてドラマ性がある場合は、可能性あるんじゃないでしょうか。
運営者 動機さえあれば、その他のことは後からついてきますか。
木谷 そう思います。
運営者 動機以外にも、自分が商売をやって会社を大きくしていくためにはビジネス・センスも必要ですよね。
これはもう才能だと思います。ない人はどうしようもないのではないですか。木谷さんから他のベンチャーの成功者をご覧になると、彼らが持っていて、普通のサラリーマンが持っていないものって何ですか。
木谷 「スピリット」としか言いようがないかな。ただ、ひょうたんから駒というケースもあるかもね。
それからビジネス・センスには、先天的なものと後天的なものとがあると思います。後天的なものというのは、それまで会社なり、日常生活の中で「練習」していたかどうかですよ。自分の家で不要になったものを、ガレージセールで売ってみるとか、インターネットで売ってみるとか。地域の集まりを主催して、損益に責任を持つとか。収支や集客が伴う何かを起こす訓練をやっているかどうか。
だから、独立で成功するパターンは、それまでやってきたことの延長線上でやる場合ですよ。
運営者 元いた会社と同じ土俵に上がって正面から闘ったら負けちゃいますね。
木谷 勝てるような戦略を持ってないと無理です。だけど、仕事は同じことをやるしかないでしよう。その仕事から外れると失敗します。
それでも、みんな今までの仕事と違うことをやりたがるから不思議ですよね。なぜかというと、「みんな自分の仕事を一番辛いんだ」と考えているからです。
一つのカイシャの中でも、営業マンは営業の仕事が一番大変だと思っているし、開発はもの作りの方が営業より難しいと思っている。とすると、業界が違えばなおさらです。
それと、みんな独立するときに、単価の安い商品を売る仕事をやりたがって失敗する傾向がある。単価が安いものは参入機会が多いから厳しいのにね。ホントはニッチなもので、高い値段が付くものの方が楽なはずなんですけどね。
ビジネス・センスというのはなかなかむつかしいもんですよ。 (2000/1/12)
このインタビューは2000年に行ったもので、内容は古いですが、中身のおもしろさが評価できるのでそのまま掲出しています。