生産性、製造業低迷目立つ
新陳代謝を促す必要 対日直接投資も即効性
深尾京司 一橋大学教授 9月29日
学習院大学宮川努教授との共同研究で、日本経済の低迷の原因を分析しています。
まず、林文夫東大教授は、90年代に入ってからの成長率の低迷は、労働時間の低下と技術進歩率の低下にあることを論証しているそうです、だから宮川教授はマクロ経済政策でなく、構造改革で全体の生産性を高めるしかないと主張しています。
誠にごもっともです。
建設業では、90年代を通して就業者数の減少がみられず、産業全体に占める就業者比率は上昇している
資源配分のゆがみについても、
70年における都市と地方の1人当たり社会資本ストック額はほぼ同じ36万円対43万円であった。しかし約30年後の98年には、地方都市のほぼ2倍、177万円対308万円と拡大している。
もしこの資源再配分効果が80年代のように0.2%であれば、少子化による労働力の低下があったとしても、日本経済は、2%近い潜在成長率を確保できる。
ここまでの宮川教授の分析を受けて、
経済成長は、資本や労働といった生産要素の投入量が増加するか、全要素生産性(TPT)が上昇することによって達成される。
戦後日本では労働者1人当たりの資本装備率を高めることによって高度成長が達成されたが、資本装備率の上昇は、資本の過剰により資本収益率を低下させ、投資の減退を招いた。
生産の海外移転も国内での設備投資を縮小する働きをしたと考えられる。
その結果として、
80年代までマクロ経済のTPT成長を支えてきた製造業の生産性上昇率が90年代に大幅に鈍化
一方、非製造業においてTPTはずっと上昇率が加速した。
非製造業では、規制緩和が進んだことが、全要素生産性の上昇に寄与したと考えられています。
製造業についての要因分解は、
1.新規参入率の極端な低迷
2.マイナスの貸出効果 生産性の高い企業が退出し低い企業が存続する
3.資源再配分効果(生産性の高い企業の市場シェアが拡大することにより産業全体の生産性が上昇する効果)の低迷
といった市場の「新陳代謝機能」の低下によって生じている
と分析できるそうです。いかにもという感じがします。
英国やフランスでは製造業雇用の3割近くを外資系企業が担っているのに対し、日本では1%しかない
これも改めて指摘されてみると、不思議なことではありますね。やはり製造業が華々しかった時代には外資が規制されていたことが、外資系製造業の少ない原因なんでしょう。外資規制がゆるんだ後はコストが高くて入って来れなくなってしまいましたしね。IT企業だと、外国資本や外人経営者もいますねえ。
失われた市場の淘汰機能
非効率企業が残る 金融機能の不全 打開必要
西村清彦 東京大学教授
中島隆信 慶応義塾大学教授 4月17日
これもおもしろい分析です。上の「マイナスの貸出効果」、つまり「日本ではダメ会社が市場から退出を要求されない」ということについて、その事実と影響について考察しています。
筆者らは各企業を「新規参入組」「存続組」「退出組」の3つに分け、それらのグループに属する平均的企業の生産性を比較した。すると、1995年までは生産性の低い企業が退出しているのに対して、96年以降はそれが逆転し、存続企業の方が退出する企業より生産性が低いという逆転現象が生じている。正確に言うと、96年以降、参入してから2年をたたずして退出している企業の方が存続企業よりも有意に高い生産性を示しているのである。
それって、とんでもない話なんですけど。
各産業別に、企業の参入・退出が生産性上昇に与える効果も計算しているのですが、それから判断すると、卸売業、小売業、化学工業、食料品製造業、電気機械、建設業の順番で生産性の低い会社の方が生き残っているということになります。つまり市場が機能不全を起こしているわけです。
この原因については、
間接金融が支配的な経済の場合、市場の自然淘汰をつかさどるものとして、銀行が重要な役割を果たすと考えられる。しかしながら、不良債権問題の深刻化を通じて、いわゆる追い貸しなどのモラルハザード(倫理の欠如)が生じ、そのため自然淘汰が働かなくなった可能性が高い。
と、断定を避けていますが金融機関の不良債権問題が市場の淘汰機能を死なせた可能性を強く示唆しています。というか、おそらくそうでしょう。
「貧すれば鈍す」というのを経済学的に分析すると、こういうことになるのでしょうね。