本格的な二大政党制に向けての総選挙となる今回の総選挙では、民主党がマニフェストを掲げた選挙を自民党に挑んでいます。
そこでこの2党のマニフェストの内容を検討してみました。
まず民主党のマニフェストです。
一言でいうと、約束し過ぎで、非現実的ということができるでしょう。
「現在累積している財政赤字をどのように評価するか」という価値の提示をしないまま、「財政規模維持」を明言しています。「借金増のストップには10〜15年かかる」と書かれており、これではまったく遅きに失していると言えるでしょう。
民主党の主張では、「公務員の数を減らしたり、給料削減したり、公共事業を減らすことによって行革した分を、他の施策の予算に回す」という姿勢なのですが、本当にそれが可能なのでしょうか。有権者を甘く誘う公約はこまごまと書かれているのですが、それらを実行する圧力は強くても(反対者がいませんからね)、行政改革を行う推進力は弱いのではないでしょうか(抵抗勢力だらけですからね)。
本当に行革して削った予算を、他の政策の実現に回して財政的にバランスさせることができるのかどうか、政策全体の財政的な整合性への配慮が欠けていると思います。経営的にみると、そこがしっかりしていなければ尻抜けになってしまう恐れがあるわけです。その結果として、ますます財政赤字を増やすことになるのではないかと思えてなりません。
福祉目的化した消費税値上げは結構ですが、財政赤字をこれ以上増やすことは、国民の望むところではありません。
菅代表が言うところの、「政治は最小不幸社会を実現すること」という発想が強すぎて、失業率の低下や弱者救済に対する具体的な提言はてんこ盛りになっているのですが、景気回復に対する具体的な言及がないところも不安です。
マニフェストの冒頭に掲げる約束と提言、【5つの約束】
1. 霞ヶ関からの「ひも付き補助金」を全廃します。(4年以内)
2. 政治資金は全面的に公開します。
3. 道路公団を廃止し、高速道路の料金を無料にします。(3年以内)
4. 国会議員の定数と公務員の人件費を、それぞれ1割削減します。(4年以内)
5. 無駄な公共事業を中止し、川辺川ダム、諫早湾干拓、吉野川可動堰を直ちに止めます。
【2つの提言】
1. 基礎年金の財源には消費税を充て、新しい年金制度を創設します。
2. 小学校の30人学級を実現し、学校の週5日制を見直します。
これらは、耳障りはよいかもしれませんが、残念ながら構造改革につながる深みを感じさせるものではありません。お互いの連関性が不明で、民主党は問題の本質をつかみ取る知恵を持たないかのように見えてしまいます。この点、「民間でできることは民間で」とわかりやすく構造問題と解決のための原則を提示している自民党に、一日の長があるとはっきり言えるでしょう。
その後に数値目標と時期を並べた細かい公約が並んでいますが、これらも同様の理由で、小手先の改革の羅列にすぎないという印象をぬぐえません。
「何年までに法案を提出します」という項目もありますが、法案をいくら提出しても、役人は法律の条文に穴をあけて、自分たちの権益を守る術を知っているのですから、「法案を提出する」という公約には、あまり魅力的な響きはありません(これは自民党も同様です)。
視聴覚障害者のためにテレビを字幕化することも盛り込まれていますが、キー局は儲かってるんだから、コストは局に負担させればよいでしょう。有権者から手紙やメールが来たからといって、そのためにポンと100億円投げ出すという感覚には、空恐ろしいものを感じます。「次は映画だ」と言い出すにちがいありません。これから老齢化社会になると、コストは増える一方です。「弱者保護」を錦の御旗とせず、受益と負担の問題に正面から向かい合う必要があります。