戦争の敗因1 戦争目的が東亜の諸民族を納得させて、隧いて来さしめるよような 公明正大な目標を欠いておった
ですから、旧日本型システムは大義名分を振りかざした利己主義ですからしかたがないです。
戦争の敗因2 敵の力を研究せず、ただ自己の精神力を過大評価して、これに慢心した
旧日本人は、外部情報の収集や客観的な分析を嫌がりますからね。その分夜郎自大になるわけでして。
戦争の敗因3 軍の指導者が国民の良識や感覚を無視して、ひとりよがりで自分のいいと信じたところに国民を連れて行こうとした
そりゃだって、軍と官僚は天皇にもっとも近い正統性のある存在だから、その権利があるとみなされていたわけで、それに対する歯止めは戦争前にはすべて取り去られていましたから。それが国家総動員態勢=「日本人総右翼化」だったわけで、軍の責任だけ問うのはおかしいでしょう。全員に罪があるのです。
戦争の敗因4 科学がない
1)化学兵器の進歩が違っておった(レーダーの例)
2)サイエンティフィック・マネジメントというものが、ほとんどゼロに等しかった
これは多少論理的な分析だと思います。
特に「マネジメント」という概念は、新鮮だったでしょう。旧日本人には組織的「合理性」がありませんから。
戦争の敗因5 陸海軍の不一致
陸海軍がいがみ合っていて、ずいぶん作戦に齟齬を来したということです。
これは、組織間の部分最適化として、旧日本型システムにビルト・インされた特性です。陸海軍共に「自分たちは天皇直属」と思っていて、組織同士の利害対立を調整する人がいないわけですから。
最後に、75ページに注目が必要です。
「戦争に対しては内心反対であった分子も決して少なくはない。しかし、もう戦争となってしまった以上は、いまさら自分の力ではどうにもならない。せめて国策の命ずる通り動くのがご奉公だという考え方で、働いていた部分も少なくないと見られるのです。
不幸にして、今度の戦争では、この民族的な統一心理のために、かえって失敗を致命的にならしめた。しかし、私は、日本再建のエネルギーを、やはり、この民族的な統一心理に見出そうとするものです」
なんと甘っちょろい。これこそ「カイシャ天皇制」に直結する発想です。
「打って一丸となって」というのは、付和雷同的な旧日本人をまとめやすい方向性です。しかし、その先に待ちかまえているのは、自滅への道でしかありません。あたら300万余の人命を失っても、渋沢栄一の秘書であった永野護ですら、まだそこに気づかなかったわけですから、日本病の病根はとんでもなく根深いわけです。
しかしまあ、当時の人々は「なぜ陛下の軍隊が負けたんだろう、さっぱりわからない」と漠然と思っていて、この程度の分析で「そうだったのか!」とわかった気になったのかもしれませんね。なんと牧歌的な。これではやっぱり負けますよ。
ところがこの復刻版が今売れている。ひょっとして旧日本人ビジネスマンたちは、「なぜわが社は潰れかけているんだろう、さっぱりわからない」と思っていて、この本を読んで「そうだったのか!」とわかった気になっているのかも。アホですな。
それでも彼らは自分の行動を変えようとはしないんですけどね。なぜなら、それができるくらいなら、彼らは以前より進歩しているはずであって、この本が売れているという事実が、彼らは50年前からまったく進歩していないということを証明しているわけですから。