永野護著『敗戦真相記』(バジリコ刊)
元日経連トップの永野健の父親が昭和20年9月に広島で行った講演録を、翌年出版したものの復刻版です。
前半は戦争の敗因を分析していて、そこだけが「新日本人論」の観点から見て、多少おもしろい。引かれている事例には、事実かどうか疑わしいものもあって、検証が必要だとは思いますが。
戦争発生の根本原因 日本の国策の基本理念がまちがっておった
「口先では万邦共栄というようなことをいいながら、肚の中では日本だけ栄えるという日本本位の考え方をあらゆる国策の指導理念にしておった」
旧日本型社会のロジックは、「天皇のために」「みんなのために」と大義名分を振りかざしながら、手前の利得を図るものです。他人と自分の「利益」に明確な区分がないので、利己心の増長に歯止めがかからない。旧日本人には「社会性」がありませんから。
「日本の勢力範囲内に、戦争のための必要とするあらゆる物資を収めておかなければならないとする日本本位の自給自足主義が根本的なガンである」
自由貿易否定がまちがっていたという指摘です。旧日本型社会システムは、自前主義、中央集権的で、飽くなき拡張主義的傾向を持っています。それを指弾しているのでしょう。
自給自足主義になった事情1 ドイツの物真似をしたこと
定見なく、勢いで三国同盟に引きずられたという恨み節でしょうか。旧日本人は、空気や風にながされますから。旧日本人には「自立性」なんかありません。
自給自足主義になった事情2 軍部が己を知らず敵を知らなかった
「徒に我が民族の精神力なるものを過大評価して」と言っています。自己中心的になるには、何らかの依存する対象が必要だということです。
自給自足主義になった事情3 世論本位の政治を行わざりしこと
反東条的な不審人物は全部前線に飛ばされたものの、彼らも「戦争であり、陛下のご命令という以上、どうすることもできない」と反抗できません。でも天皇は命令なんか一言も発していないのですが。旧日本型社会システムでは、天皇の威を借る中間者が絶対的実権を握り、世論や集団的意思形成などが存在する余地がない。だから非科学的な誤った判断をしてしまうのです。
自給自足主義になった事情4 日本有史以来の大人物の端境期
これは私には賛同しかねます。いつの世にも人物はいるもので、野に遺賢あらしめず、発掘して活躍の場を与える仕組みや指導者の意志こそ重要です。