八月の章

八月は奴豆腐の季節である。

豆腐は何も大豆にかぎらない。
胡麻豆腐やくるみ豆腐もある。
よく寺でぼくは和尚さんから、胡麻豆腐のつくり方を
教わったのでそれにふれてみる。

どういうわけか、和尚さんは、ぼくに胡麻の皮をむけ、といった。
そんなことをいわれて、あんな小さな粒の皮などむけるものかと
先ずびっくりしたが、目の前で和尚さんがやってみせる
胡麻の皮むきには参ってしまった。
すり鉢へ、適量の胡麻を入れ、それに水をわずか入れて、
掌でまぜ、鉢の目にこすりつける。
と、みるみるうち、わけもなく、胡麻は皮をぬいでしまうのであった。
ほとんど、皮がめくれたと思えるころ、水を足してやると、
なんと皮は水面にぷかぷかういてくる。
それをしずかに捨ててしまえばよい。
何回かくりかえしているうち、底に真っ白な胡麻がのこってくる。
これを天日に干すのだ。パリパリになったところを、あらためて、
かわいたすり鉢へ入れて、どろどろになるまですりつぶすのである。
さて、一合の胡麻を、一時間半ぐらいすったろうか。
これを約四合くらいの水でといて、カスをよくとりのぞくのだが、
水をそそぐ場合、いっきには入れず、少し入れてはうすめ、
また入れてはこし、こしてはうすめる、最後にすり鉢をよく洗って
そのあと汁ものこさない。

とろ火にかける。
しゃもじでかきまわしてやる。火にかけたらぜったい目をはなして
はならぬ。よくまぜていないとくずが後で固まってしまうからである。
こげることはないから、とことんまで煮る。
くずが煮えてから、すぐ火から鍋をおろしてはならない
(よく素人はこれをやる)
ずっと煮ていると、固まっていたのがしだいにやわらかくなってくる。
それをさらにかきまわすのだ。
と、だんだん鼻をつくいい匂いがしてくる。
そして、やがて、また手ごたえのあるかたさになったころ、
はじめて火からおろすのである。
さて、おろしたら、弁当箱や、重箱へすぐうつして、
しゃもじか何かで、上を平らにしておく。
冷めてくると固まってくる。

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