本文で、『アンプ(ただし、中級程度以上の半導体アンプ)によって大した差がない』と述べたが、以下のブラインドテストの結果はこの主張と矛盾しない。ただし、真空管アンプでは差が見られるので、この結果だけでアンプによる差はないと主張するつもりはないことを断っておく。
内容は、ABXテスト、ラジオ技術誌の真空管アンプ比較、ステレオファイル誌の記事(I)、普及型システムとハイエンドシステムの比較、ステレオ誌の記事、ステレオファイル誌の記事(II)
心理効果のページで紹介した外国のABXテスト(A、B 2つのアンプを瞬時に切り替えるダブル・ブラインドテスト 有意差の有無のみを問い、優劣は問わない)。
http://www.pcavtech.com/abx/abx_pwr.htm
つながらないときは こちら、アーカイブ・サイトへ(テキストファイルのみ 画像非表示)
結果を要約すると
A | B | 有意差の有無 |
10W 真空管アンプ | Dyna 400 | 有 |
Paoli 60M | Dyna 400 | 有 |
Swartz 40 | Dyna 400 | 無 |
Tiger B | Dyna 400 | 無 |
Dyna Mk III | Bose 1800 | 無 |
Crown SA-2 | Phase Linear 400 | 無 |
ARC D120 | CM Labs CM914a | 有 |
B&K ST140 | Parasound HCA 800II | 無 |
Sumo Andromeda | Parasound HCA 800II | 無 |
Sumo Andromeda | Parasound HCA 800II | 無(長時間比較) |
真空管アンプ | ||
半導体アンプ | ||
不明 |
わかった範囲でそれぞれのアンプの素性を示すと
Dyna 400 | Dynaco の略? 200W/ch ステレオパワーアンプ |
Paoli 60M | Dynaco MK-3 を改良モデル 真空管アンプ |
Swartz 40 | 20W/ch 半導体アンプ マニアの間では最低と位置付けられていたという |
Tiger B | 素性不明 |
Dyna Mk III | Dynaco Mk IIIの略? 35W真空管アンプ 歪率 1% DF 15 |
Bose 1800 | 業務用高出力アンプ 450W(8Ω) 全高調波歪 0.1%以下 約25万円 |
Crown SA-2 | PSA-2? 450W 全高調波歪 .0.05%以下(200W) DF>700 スタジオモニター用DCアンプ |
Phase Linear 400 | 200W 半導体DCアンプ スタジオモニター用 約$500 |
ARC D120 | 真空管アンプのメーカ製 多分真空管アンプ |
CM Labs | 素性不明 |
B&K ST140 | ST140M? 100W/ch A級モノラルMOSアンプ 全高調波歪 0.1%以下 DF 180 |
Parasound HCA 800II | (HCA-806?)ドイツ製 80W/ch ステレオアンプ 約25万円 |
Sumo Andromeda | 200W/ch A級アンプ 約$700 |
これを見る限り、有意差有りと認められたアンプの組は少なくとも片方は真空管アンプである。真空管アンプは全高調波歪が人間の検知限である1%を超えるものが多いので有意差が出るものと思われる。 真空管アンプには個性があるということである。
半導体アンプの間では有意差は見られない。
かなり古い話だが、ラジオ技術誌1983年12月に掲載された2つの真空管アンプのブラインドテストの結果を紹介する。(掲示板に投稿された上田さんの好意により送ってもらった記事です)
これは、これに先立って行われた高名なアンプ設計者武末数馬氏が自らが設計製作した300BシングルアンプとEL34プッシュプルアンプについて、厳密なブラインドテストを行った結果、差が検知されず「これではいったい、アンプ技術者今まで何をしていたのか・・・」といわしめた有名な報告に懐疑的なアンプ設計者3名とオーディオ評論家1名が行ったものである。
始めに対象としたアンプを簡単に紹介しておく。
アンプ A (武末アンプ)
12AT7、12BH7、EL-34×2 ウルトラリニアPPアンプ 入力トランス 半導体低電圧電源使用
f特 3〜100kHz(-2dB) (データはここをクリック)、最大出力 35W 歪み率 < 0.05% (<8W)、<0.2% ( <30W) (データはここをクリック) DF 2.6 (NFB 8.2dB)
アンプ B (テスト参加者の一人 I 氏の設計製作)
ECC-83、6FQ7、30KD6×4 OTLアンプ
f特 5〜150kHz(-2dB)(データはここをクリック) 最大出力 18W 歪み率 < 0.5% (<1W)、< 2%( <15W) (データはここをクリック) DF NFB量 不明 最大出力負荷抵抗 40Ω
試聴の方法(原文引用)
試聴は、まずOTLアンプとEL34(UL)PPアンプのレベルをCD盤1kHzを使って揃え(後者が0.17dB高、OTLは入力調整無し、EL34(UL)の入力調整は2dBステップのため、これが最小差、ただし、聴感上は差を確認できず)。そのあとそれぞれオープンで試聴し、各アンプの音質を確認したうえで、下記の4つのソースについてブラインド・ホールドで2機種を切り替え、どのアンプか答えて頂きました。
結果は、3氏が4ソースについてすべてが正答、1氏が1ソースについてのみ誤答でした。
試聴装置
プリアンプ:エクスルーシブ C-5
プレーヤ:マイクロ SX 777 AIR+MAX 237+デンオン DL103
スピーカー: JBL 4430
試聴ソース
(1) ”ホッター/シューベルト、シューマン歌曲集" 楽によす <セラフィム
EAC30197>
(2) ベートーベン:ピアノ協奏曲 No4 R. ゼルキン(p) 小澤/ボストン SO <テラーク
DG10064>
(3) Lo-D デモンストレーション CD "アルビノーニ:アダージョ"
カー(cb) ルイス(org)
(4) モーツアルト:”マーチと舞曲集" K.666 ボスコフスキー・アンサンブル
<ロンドン SLC 2241>
編集者コメント(+私のコメント)
これも、心理効果の所で紹介したスピーカーケーブルのブラインドテストの記事、
http://www.stereophile.com/asweseeit/107/index.html
の中に、アンプについての記述があり、『マークレビンソンの高級OTLアンプと日本製の$220のレシーバー(昔のFMチューナー付アンプのこと)』についてもブラインドテストでは有意差が認められなかったとのことである。(最終ページ p.6 の最後から4節目、But why ・・・で始まる文節中)
このテストの報告は、Stereophile 誌 Vol.12 No.1 1991 pp.63-72 に掲載してあるらしいが残念ながら手に入らない。
アンプだけでなくCDプレーヤ、コネクトケーブル、アンプを含めたシステムのブラインドによる比較をしたサイト
http://www.matrixhifi.com/ppec.htm
スペイン語のサイトなので意訳で内容を紹介しておく。価格はおおよその推定値
こちらで英語版が見られます。 2009.4.14 追加
http://www.matrixhifi.com/ENG_contenedor_ppec.htm
比較したシステム(いずれも写真有り)
Aシステム : プリメインアンプ Behringer A500 (230W/ch プロ用アンプ 〜\30,000)、CD プレーヤ Sony DVP-NS355 (DVD/CD プレーヤー \10,000 以下)、 RCA ケーブル、ラック 木製椅子を代用 合計価格 \40,000 以下
Bシステム: プリアンプ Classe CAP-80(〜\170,000)、メインアンプ YBA 2A (〜\1,000,000) CDプレーヤー Wadia 6(VRDS 〜\700,000)、 MIT バランスケーブル(〜\100,000)、各々の装置に高級ラック使用 合計価格 〜\2,000,000
共通機器 : スピーカー ATC SCM 12 (英国製 モニタースピーカー 〜¥300,000/pair)、スピーカーケーブル Templfex 帯状ケーブル
方法は、使用システムは布で覆って、被験者の求めに応じて、助手がケーブルを付け替える。このとき、音量や、聴く時間、ソフトは被験者の言う通りにする。 これは、ABXテストに対する苦情(プレッシャーがかかる、時間制限がある 等々)に対処するためである。
Aシステムを繋いだが、Bシステム繋いだかは知らせるが、被験者はどちらがハイエンドシステムかは知らない。
被験者が納得するまで聴いた後、A、B どちらが好ましい音質だったかを答える。聴き分けられなければ X と回答する。
このようなテストを38名の耳に自身のあるオーディオファイルに対して行った。
さて結果は?
A:14名、B:10名、X:14名
だったそうです。価格は約50倍の差があるにもかかわらずです。
私のコメント
この方法はいわゆるABX法でなく、統計処理を施していないので断定出来ないが、AまたはB と答えた人も、差があるはずだと信じて無理に答えを出した可能性が高い。すなわち実際は(ABXテストを実施すると)優位差無しの可能性が高い。なお、このテストの主催者はただのアマチュアではなく、ABXテスト用のコンパレータなどを扱っている業者のようです。
このほか、 『スレレオ『誌 2004年3月号に『ディジタルアンプとアナログアンプの音の傾向が違うのか?』を調べる目的で行なわれたブラインドテストの結果が掲載されているが、いわゆる瞬時切り替えABX
法ではなく、数台のディジタル、アナログアンプを無作為順で4人のオーディオ・ファイル(オーディオ評論家?)に聴かせ (1) ディジタルかアナログか (2) 音質の好みの順、について書いてもらうという趣向である。この時、施検者は機種を知りながら交換(もちろんアンプそのものは被験者に見えないようにしているだろうがが)を行なっているようなので、いわゆる二重盲検法の条件を満たしていないのでどれほど信用出来るか問題が多い。
結果は実に面白いものであるが、信憑性に欠けるので、『科学的オーディオ』を標榜するこのサイトでは取り上げないことにするが、参考のおためリンクを張っておく。
ステレオ・ファイル誌の記事(II) 2008.4.5 追加
元記事は http://www.stereophile.com/features/113/index.html です。
505人のオーディオファンを被験者とした、かなり大がかりなテストである。データは信用できそうだが、レポータに統計学の知識が無く、かつ何とか有意差ありの結論を出したいというバイアスがかかっているようで、解説が回りくどく分かりにくいので、私なりの解説を付けて紹介する。
比較しているアンプは Aアンプ:Adcom GFA-555 200W 普及型ステレオ半導体アンプ(〜8万円)、Bアンプ:VTL M-300 300W真空管モノラルアンプ×2 (〜100万円)。使用したスピーカはB&W Matrix 801S, CDP:Marantz CD-94
ブラインドテストの方法は、いわゆるダブルブラインドのABX法ではなく、1つのソース(CD)に対して、 A-B、B-A、A-A、B-B のどれかの組み合わせをきめ、すなわちアンプを実際に変えて聴かせる場合、同じアンプで2回聴かせる場合について、「同じアンプ」であったか、「異なったアンプ」であったかを答えてもらうという方法をとっている。その趣旨は被験者への心理的なストレスを出来るだけ小さくするためということである。一連の試行として、異なった7つの曲に対して、7回中何度正答であったかを調べる。従って試行回数は505×7=3535回に及ぶかなり大がかりなテストである。なお、各々の施行時にどの組み合わせを採用するかは乱数表で決めている。従って、異なったアンプの組み合わせと、同じアンプの繰り返しの回数はほぼ同じになるはずである。
右図の棒グラフは(原文4ページ Overall Scoring) は全てのデータを集計した正答数の確率分布である。一見するとかなりの比率で正しく聴き分けている人がいるように思える。レポーターも正答数5,6,7の人たちを「いい耳グループ(Keen Eared Observer KEO)」 正答 0,1,2 と成績の悪い人を「未熟者グループ(Unskilled)」と分類している。
しかしこれは大変誤解を招く分類である。図中の点線は全く当てずっぽうに答えた場合に期待される分布確率、すなわち試験数7回、正答数 mとした場合の2項分布曲線、P(m)=7Cm(1/2)7 をプロットしたものである。
これから分かるように、今回のデータはこの曲線とかなりよく一致している。つまり、被験者は正しく聴き分けて正答しているわけでなく、まぐれ当りで正答者に分類されただけといってよい。また、正答数の重み付き平均は51.9%
となり、典型的な「有意差無し」のケースである。
2つのグループは、私にいわせれば、「運のいい」グループ、「ツイてない」グループと分類すべきである。
もっとも、レポータも、誰かに指摘されたのか、この結果はまぐれ当りとしても十分説明可能であることを認めているが、分布が左右非対称であることに注目し以下のような統計を示している。
異なったアンプの時と同じアンプの時の正答数と正答率 | ||
異なったアンプの場合 | 正答数/試行数=1218/1892 | 64.4% |
同じアンプの場合 | 正答数/試行数=628/1638 | 38.3% |
この表を見ると、実際に異なったアンプを使った場合の方が正答率が高いので、これまた、被験者が聴き分けているような印象を与えるが、正答数の代わりに、アンプの如何に関わらず、異なって聴こえると答えた人の数を数えると
アンプ異同に関わらず「異なって聴こえると答えた人の数と | ||
異なったアンプの場合 | 異なると答えた数/試行数=1218/1892 | 64.4% |
同じアンプの場合 | 異なると答えた数/試行数=(1638-628)/1638 | 61.7% |
この表のように、率はどちらもほとんど同じになる。これは何を意味するかというと、実際には音は変わってなくとも、変わって聴こえると感じる人が多いということである。つまり、「オーディオは何を変えても音が変わる」というオーディオマニアの通説を裏付けるデータであるとも言える。
理論的にはいわゆるコイン投げのように表が出る確率と裏が出る確率が1/2と同じではなく、イカサマ賭博のようにコインに細工を施した場合の分布に相当し、分布曲線が非対称になると解釈すべきで、決して聴き分けている人の方が多いと解釈すべきではない。
ところで、最初のABXテストの結果では、トランジスタアンプと真空管アンプを比較したテストの場合1例を除き「有意差有り」の結果が出ているが、ここで使っている真空管アンプは大出力の高級真空管アンプで、忠実度という観点からはトランジスタアンプに匹敵する性能を持っているものと思われる。逆に言えば、真空管アンプファンには面白味のないアンプかもしれない。
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