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職業性頚肩腕障害の
     診断のポイント

 東京・芝大門クリニック 渡辺 靖之





20年余りの間芝病院と東京社会医学研究センターが一体で東京民医連の労災・職業病センターとしての役割を果たしてきましたが、芝病院の縮小と社会医学研究センターとの分離に伴い、2002年4月からは過労性疾患の診療は芝大門クリニックで続られています。


週11診療単位フルで、2003年度1年間の過労性疾患初診患者は462名。うち70%が頸肩腕障害、頸椎椎間板症が8%。


頸肩腕障害の患者さんの職種は、残業の多いプログラマーやシステムエンジニアなどの職種や、派遣労働者が多いのが最近の特徴です。


頸肩腕障害の診療は、重症度診断・療養区分の判定までが重要です。本稿では診断に限って述べたいと思います。

頚椎椎間板症との鑑別診断

頸肩腕障害の診断のまず第一の問題は頚椎椎間板症との鑑別診断です。
腕手指のしびれ・痛みが主訴の場合には、頚肩腕障害(その一部分症としての胸郭出口症候群)と、頚椎症(神経根症)の鑑別診断はそれほど難しくありません。なぜなら、胸郭出口症候とスパーリング症候の診察手技を正確に知っていて実施できさえすればよいからです。


問題は、頚肩腕障害の疼痛(頚椎運動痛)・運動制限と頚椎椎間板症の椎間板性疼痛(頚椎運動痛)・運動制限との区別が時として非常に困難なことです。また頚肩腕障害に頚椎椎間板症が合併していることも少なくないので、その場合には診断は非常に難しいことがあります。頚椎椎間板症では頚椎後屈制限が特徴的所見ですが、頚肩腕障害でも重症化すると頚椎後屈が著明に制限され、項背部痛が惹起されることが少なくないからです。


頸肩腕障害と頚椎椎間板症の鑑別診断には、2週間程の経過を待って診察し直すとか、症状経過を改めて聞き直すことなど時間が解決してくれることが少なくありません。また画像診断(MRI)が役立つこともあるものの、診断の基本はあくまで診察により行うべきで、画像診断結果の偽陽性には特に注意を要することは言うまでもありません。

頚肩腕障害の他覚的所見

頚肩腕障害診断の基本は重症度診断です。重症度診断のためには、自覚症状や社会生活活動の自覚的な障害度が重要ですが、それだけではなく他覚的所見をどうとらえるかが非常に重要です。より詳しい他覚的所見が把握できれば、より正確な重症度診断が出来ます。重症度診断があいまいであれば適切な療養区分の判断は出来ません。


他覚的所見は、「こり」を調べることが根本であるが、これは非常に難問です。「こり」はどちらかというと自覚的なものであって「こり感」というほうが適切であって、他覚的所見としては「筋硬」と言うのが適切です。その筋硬の客観化、計測は関係者の長年の悲願であり、実際これまでに筋硬度計がいくつか開発されており、最近では筋血流計や筋緊張度の測定機器の開発も進められています。


しかし私は筋硬の客観化、計測は非常に困難であり、少なくとも診察室での評価は困難と考えています。なぜなら10年ほど前、ベテランのマッサージ師4人の方々に何人かの患者さんの全身の定点を評価してもらうという実験を行いましたが、一致率は非常に低いという結果を得ました。以後私は「こり(感)の拡がり」を調べることにしました。ところがこの診察方法もまもなく壁にぶつかりました。指圧検査によるこり感の評価が難しい場所や、場合がこれまたかなり多いことが分かったのです。頚肩腕障害は重症難治化するにしたがって、こりの強いところに叩打痛や圧痛点が現われることが多く、その部位の指圧ではこり感ではなく痛みに変じています。


また重症例では半身縦割り型の感覚障害を呈するケースも少なくなく、その半身側では「こりの拡がり」を調べることを出来ないことはすでに分かっていました。

叩打痛検査の利点

圧痛点検査は、よく理解して検査に習熟してもなお中々うまくは出来ず、また客観性に乏しいのです。圧痛点検査のみによって診断される線維筋痛症が今なお「幻の疾患」であるのは圧痛点検査の弱点によるところが大と思われます。圧痛点検査に較べると叩打痛検査法はより客観性を有します。また圧痛点検査では把握出来ない叩打痛「領域」を検出することが出来ます。


叩打痛検査とは指頭(検者示指あるいは中指)により叩打痛の有無を調べることです。叩打痛が現われやすいポイントを右の図に示しました。叩打痛ポイントが多ければ頚肩腕障害としての重症度がより強いと考えられます。叩打痛ポイントは例外なく圧痛点でもありますから、圧痛点検査は省略してよいのですが、ただし不思議なことに、こりの訴えが通常最も強い項部と腰部は別であり、この二部位ではなぜか叩打痛が現われにくいのです。したがって項部と腰部は圧痛ポイントをさぐるのがよいのです。


叩打痛がポイントではなく領域に拡がって認められる症例も少なからず見られます。これには頸肩腕症候群では上肢限局型と全身広範囲型とがあり、いずれも非常に重症難治化している症例です。


叩打痛は筋・筋膜および靭帯の痛覚過敏点であると私は考えていますが、叩打痛領域の表在知覚は触覚・痛覚・温度覚の態様は敏・鈍まちまちで、鈍のことの方が多いのです。

握力・背筋力計測による重症度の判断

こり・痛みの拡がりと程度は握力・背筋力の低下度と非常によく相関します。握力・背筋力は高血圧診療における血圧測定と同じくらいの重要性を持っています。他にもピンチ力や押引力測定もありますが、計測機器の安定性からも丁寧に測定した握力・背筋力で十分と思います。握力・背筋力は筋脱力・筋萎縮に起因するのではなく、また中枢性麻痺でもなく、「瞬発力」を測定していると考えられます(この点は今後の解明が必要です)。


特に背筋力は良い指標で、例えば女性の背筋力は通常が70〜80sですがそれが40kg程度に低下していれば、そろそろ休業休養が必要であると判定してもそう間違いではないほどです。男性では通常背筋力が120〜130sですから、80sくらいでイエローカードを出します。

頸肩腕障害の病型

重症度とは別の診断軸ですが、頸肩腕障害にはいくつかのタイプがあると考えられます。(表を参照)

頸肩腕障害の病型

 1) 広範筋硬症  こりの拡がりを基本に、その上に叩打痛が加わる。全体の80%。
 2) 胸郭出口症候群  1) に伴うが手のしびれが前面に出ている。
 頚椎症性神経根症との鑑別診断が重要
 3) 手根管症候群・腱鞘炎
  など局所疾患
 1), 2)とも合併することが多い
 4) 書痙  変性疾患ジストニーとの鑑別は長期経過により行う。年に数例
 5) 書痙様症状  上肢帯・上肢の慢性疼痛。年に数例
 6) 広範囲疼痛  比較的短期間で全身の慢性疼痛に拡がり、障害重度。年に数例
 7) 半身感覚障害  1) に伴う。軽度なら少なくない。
 8) 叩打痛のないこり・脱力  重症難治化しても痛み=叩打痛が認められないが、脱力が著明。
 比較的少数
 9) 痙性斜頚  変性疾患ジストニーとの鑑別は長期経過による。年数例

以上の頸肩腕症候群の診断についての知見は東京民医連の先輩たちの経験に私の臨床経験から得たものを加えてまとめたものですが、出てくる概念や考え方の多くはもちろんまだ「仮説」ですので、今後の検討が必要なのは言うまでもありません。



(民医連医療 No.383/2004年7月号)



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