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頸肩腕障害への対応

斎藤 洋太郎
職業性疾患・疫学リサーチセンター

頸肩腕障害にかかると、何をしても疲れてしまうので、はじめから労災を申請することは困難で、まず健康保険で療養すべきだと思う。

.治療・療養の進め方、考え方

A.まず健康保険で

頸肩腕障害の治療は、まず健康保険で行う。労災申請を準備している場合も、認定されるまでは法的には業務外疾病なので、健康保険が使える。労災が支給されたら、健康保険に返す。

頸肩腕障害などの職業病は、労災から支給されるまで時間がかかる。その間、健康保険から療養給付や傷病手当金が受けられないと、患者は困窮してしまう。そこで、「業務上外の認定は、第一線機関相互間あるいは審査官相互間で連絡を密にし、いずれからも給付の受けられぬことのないよう、意見調整困難なものは主管省経伺の上処理すること」(昭和30年6月9日 基発359号)とされている。

労働者にとって月々の生活が成り立つかが問題であり、ひと月ひと月健保か労災から給付されなければならない。労災申請=給付ではないのだから、健康保険を返してからでないと、労災申請を受け付けないという対応は間違っている。労災が給付されてから健保に返すというやり方こそ、生活人の常識にかなったものではなかろうか。

B.就業規則を読もう

仕事で病気になったのに、休んでいたらくびにされてしまうという悲痛な声・涙に接することが多い。これは、頸肩腕障害でも、退職者の職業がんでも同じことだ。会社に貢献してもらって病気になったのに、恩知らずな使用者が多すぎる。

頸肩腕障害になってもくびにならないためには、就業規則をよく読む必要がある。自分からは退職しないことだ。

頸肩腕障害による休業でも、私病(業務外疾病)であるか、業務上疾病(労災認定)であるかによって扱いが異なる。

仕事で病気になった、労働(作業)関連疾患だと思っていても、そう診断されても、労災認定されるまでは法的には私病ということで治療を進めるほかはない。また、軽症であれば、労災申請の労力も考えて、健康保険(傷病手当1年半)の範囲内でなおしてしまうことも、一つの選択肢である。さらに、だんだんよくなってゆけば、権利関係を明確化する意欲もわくかもしれないから、とりあえず保留にしておくのもかまわない。

どのくらい病休・休職できるかは、企業によって違うので、具体的に就業規則を読まなければならない。労基法89条によって、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成しなけれはならないのだから、労働者はすぐ取り寄せるべきである。

.労災申請をどう進めるか

A.労災認定基準

頸肩腕障害の労災申請では、療養補償と休業補償の請求を、労働基準監督署に対して行う。労基署は「上肢作業に基づく疾病の業務上外の認定基準」(平成9年2月3日 基発65号)に沿って調査する。

労災補償は労基法に基づくものであり、業務上疾病は労基法施行規則に列挙されている。頸肩腕症候群も一覧表に列挙されており、労災認定基準が定められている。

B.因果関係が肝心

労災申請の手続きは、被災労働者である請求人が行う。基本的には、会社が行うものではない。被災者は、会社の証明を求めるが、会社が証明を拒否しても申請できる。休業補償などは主治医に証明してもらう。

しかし、労災は手続きよりも、因果関係の立証が肝心である。因果関係をそんなにむつかしく考える必要はない。図1のようにA4の紙を縦置きして、左右に分割する。上から下へ時間が流れる。

業務負荷に対応して症状が出現し、我慢し続ければ疲労性疾患が完成する。左右の対応関係が認められれば、因果関係があると判断できる。「意見書」にしてしまうと何となく立証できた気持ちになってしまうが、このような図表に埋めていって、抜けているところはないか確かめてから意見書にすれば、漏れや弱点がなくなると先輩(たとえば監事の網岡氏)から教えられた。

頸肩腕障害の因果関係についての最高裁判決でも、次のように判示されている。

「上告人の症状の推移と業務との対応関係、業務の性質・内容等に照らして考えると、上告人の保母としての業務と頸肩腕症候群の発症ないし増悪との間に因果関係を是認し得る高度の蓋然性を認めるに足りる事情があるものということができ、他に明らかにその原因となった要因が認められない以上、経験則上、この間に因果関係を肯定するのが相当であると解される。」(横浜市鈴木裁判 1997年11月28日第3小法廷) 

この判示は、地方公務員災害補償に関するものなので、公務災害では業務と症状の対応関係でもって因果関係を認める方向になってきた。たとえば、地方公務員災害補償基金審査会(学校給食調理員の頸肩腕障害公務外処分についての再審査裁決書 2000年8月2日)は、「本件疾病発症後における請求人の症状と請求人の業務による負荷との関係をみると、休業すれば症状は著しく改善し、軽減した業務による一定程度以下の労働負担であれば著しい症状は発生しないとのことであり、請求人の症状と請求人の業務による負荷はほぼ対応しているということができる」として、因果関係を認めた。労災でも同様に判断すべきである。

適切な診断・治療が遅れて、あとから芝大門クリニックに受診される例もあるが、経過を明らかにして、業務と症状・疾病との因果関係が認められれば、さかのぼって労災認定される。ある手話通訳関係者の場合、職業性頸肩腕障害として適切な治療を開始するまで2年以上かかり、労災認定もそれから3年もかかってしまった(表1参照)。


表 1  ある手話関係者の業務と受診経過

勤務先

医療機関

1981-1983年 ろうあ教会事務局で通訳等

1983-1986年 教会事務局と研修

1986-1988年 学院教師

1988-1990年 舎監補佐と牧師

1990-1994年 舎監(住み込み)と牧師

1994-1996年 学院教師と牧師......1

1988-1996年 外科受診

1989-1995年 大学病院受診

1996年     医師会病院受診

1996-1998年 健聴者の教会牧師......2



2001年      労災認定

1996年     ビルクリニック受診

1998年      民間病院受診

1998年      芝病院受診、入院


労災認定されるまで健康保険で傷病手当を受けた。傷病手当を受けているときに、社会保険事務所から「牧師業務ならできるのではないか」との不当な問い合わせを受けたが、患者や主治医が意見を述べて、支給させることができた。

労災申請にあたっては、当該事業所を管轄する労基署に申請する。このかたの場合、上記ろうあ教会(1)か、健聴者の教会(2)かが問題である。当初2の管轄の労基署に出したが、過重な上肢作業である手話関連業務にかかわる1の管轄だということになり、移管された。

そんな経過もあり、労災認定まで時間がかかったのに、ようやく認定されたら、労基署が「発症から時間がたっているから軽作業ならできるのではないか。休業補償は支給できない。症状固定で治癒ではないか」と言ってきた。労災療養中に休業補償だけ支給しないというのは、主治医の意見を無視しているし、軽作業をして悪化する場合就労を強制することはできず、現実に就労しない限りは休業補償されることになっているので、間違った対応である。反論して補償を継続させ、リハビリ勤務を進め、社会復帰をめざしている。症状固定、治癒、療養補償打ち切り問題については後述する。

C.画期的な名古屋高裁判決

2001年9月19日の名古屋市業務士頸肩腕障害・腰痛公務外処分取り消し訴訟の高裁判決も、頸肩腕障害をとらえる上で参考になる(『関西労災職業病』2001.11,12参照)。この判決は確定している。

1)頸椎症があっても業務上

労働者が頸肩腕症候群だと主張しても、補償機関が頸部写真から頸椎症だと主張して、業務との関係を否定することがあり、この裁判でも地方公務員災害補償基金がそう主張した。名古屋地裁判決では、頸椎症とするのは疑問だ、仮に頸椎症であったとしても、頸椎症は副次的なもので、頸肩腕症候群が主位的なものであったとされた。

高裁判決は、確かに頸椎症であるとした上で、「X線写真の所見についても、『頚椎X線やMRI等の検査所見と患者の症状との間に必ずしも良い対応関係が見いだされない。無症状者において頸椎画像検査に異常所見を有する者の割合が多いため、これらの検査結果の評価については十分な慎重さが求められる。』、『頸椎X線写真所見については、臨床所見との間に必ずしも相関しない場合が少なくない。』とされている」とする。そして、被災者の「症状は業務の過重性とよく対応していること、頸肩腕症候群の発生機序が未解明であることからすれば、頸椎症が」被災者の「症状の主因であるとすることは困難であって、むしろ、頸肩腕症候群がその主因であると認めるのが相当である」とする。

すなわち、頸椎症があるからといって頸肩腕症候群であることは否定されないこと、症状が業務の過重性と対応していれば業務上とすべきことが判示されているのである。

2)自律神経失調症的症状は業務上

高裁判決は「頸肩腕症候群や腰痛は、労働因子、身体的因子、精神的・心理的因子が関与して発症する多因性疾患であり、右精神的・心理的因子の中に個人の心理的特性も含まれているものであり、頸肩腕症候群の症例には、自律神経失調症的症状やうつ病的症状を伴う場合も少なくないとされている」とする。自律神経失調症的症状が頸肩腕症候群の一環として出現することが多いので、そういう場合は業務上疾病の一環として考えるべきで、「うつ病は私病だ」などとして「業務外」にしてはならないのである。

業務負荷も上肢作業による局所疲労に矮小化すべきではなく、病的な疲労を引き起こすような過重な業務全体をとらえるべきなのである。高裁判決でも、「業務の過重性は、精神的負担と肉体的負担の両側面を総合して判断すべきものである」として、「頸肩腕症候群及び腰痛症についての業務の過重性を判断するに当たっては、肉体的負担ばかりではなく精神的負担についても十分考慮する必要がある」とされている。 

.労災療養と社会復帰

頸肩腕障害はなおる病気であり、再び仕事ができるようになる。療養を継続し、職場復帰をめざすべきである。

A.国会答弁から

公明党の大橋議員の質問に対し、石田労働大臣らが答弁している。これは頸肩腕障害の実態に即したものであり、なおして職場復帰してもらおうという意気込みが感じられるものであるから、引用する。なおこの論議は、労災制度に傷病補償年金が導入される際のものである。じん肺や脳卒中などは労務不能になることが多いので傷病補償年金に移行すべきだが、頸肩腕障害や脊髄不全損傷などはなおって働けるようになるのだから、働けるようになるまで療養・休業補償を継続すべきなのである。

衆議院社会労働委員会議録 昭和52年3月23日

○大橋委員

頸肩腕症候群、むち打ち症あるいは腰痛症等の方々の実情は、昨年の3月末の調べでは、療養期間が3年を超えて休業補償給付の支給を受けていた方々は、総数で1486名だと聞いております。…頸肩腕症候群の皆さんは、職業病の特異性から、これは疲労という立場からとらえられるような性質の病気でございまして、ある程度長期にわたって療養をすれば治って職場復帰できるという立場でもあるわけですね。そういう方々が1年半たちますと、そうした症状の調査を受けて補償年金の支給決定になったとしますね、そうしますと、労働基準法の打切補償とみなされて解雇制限が解除されるという心配が実はあるわけです。特に頸肩腕、むち打ち、腰痛症等の患者の方々は、そうした年金の配慮を受けたいというよりも、職場復帰をしたいというのが切実な希望であるわけでございますが、この点についてどのようなお考えであるか、お尋ねをいたします。

○労働省労働基準局長

ご指摘の疾病で療養される方は、先ほど私、申し上げましたように、年金の対象になる方はまずないというふうに理解をいたしております。私どもといたしましては、やはり労災保険の最終の目的は、職場復帰と申しますか、社会復帰ということにあるわけでございますから、できるだけそういったいろいろな援助をしながら、また事業主の指導をしながら、速やかに職場に帰れるように、そういった形にすることが行政としても望ましい、こういうふうに考えております。

○大橋委員

実は、昭和51年10月に頸肩腕症候群患者の療養実態の調査がなされまして、それが集会で報告されたわけですが、それによりますと、療養期間1年以上の者は72.2%、うち療養期間と休業期間の重なる、全休者とみなされるものが17.1%である。療養期間3年以上のものが36%、また、全休者と見られるものが10.8%というのが発表されておるのであります…
これら頸肩腕症候群、むち打ち症、腰痛症等の患者の方々は、いま言う(傷病等級)1級から3級の対象にはならないのかなるのか、もう一度この点を答えていただいて、大臣からもこの点を明確に答えていただきたいと思います。

○石田国務大臣

私は医者ではございませんけれども、頸肩腕症候群とかあるいは腰痛症とかむち打ち症というようなものは、治療を受ければ労働不能にはならない。労災法はできるだけ多くの人々に職場復帰をしてもらうというのがその精神であります。したがって、いわゆる労働不能という認定を下す状態にはならない、私はこう考えます。したがって、年金の対象にならない、したがって、解雇制限の解除にもならない、こう私は判断をいたしております。

○大橋委員

…職場復帰のための計画的な、あるいは段階的な就労を拒否する企業がかなり多いということを聞いているわけです。確かに中途半端な人をまた復帰させるよりも、そういう者はむしろ首を切った方が会社のためにはなるという考えかもしれませんが、これは職業病を発生させた企業側に大きな責任があるわけですから、やはり職場復帰が前提であるということの配慮を十分企業側が持つように厳しく指導してもらいたいと思うのですが、もう一度この点について……。

○労働基準局長

当然、私どもといたしましては、御趣旨のような方向で、こういう方々が、前におられた職場が一番なじみやすいわけでございますから、そういう計画的な就労を通じて職場復帰ができるように一段と努力をいたしたいと思います。


B.補償打ち切りについて

労災の療養・休業補償は、治療効果がなくなって症状が固定したら、打ち切られる。それは完治しなくとも、労務可能か不能かを問わず、とにかく症状が安定したら労災は終わりで、労働福祉事業のアフターケアなり健康保険なりで治療して下さいと言われる。

我々も労災がいつまでも続くとは考えていないが、頸肩腕障害はなおる病気だから、就労できるくらいまで療養補償などを継続すべきである。最近障害等級認定基準が改正され、精神障害について「症状の改善が見込まれることから、症状に大きな改善が認められない状態に一時的に達した場合においても、原則として療養を継続すること」とされた。このように病気の特質に応じて、補償の仕方は変わってくるはずである。

また、石綿による健康障害以上に、職業性頸肩腕障害は理解されておらず、専門医もきわめて少ない。そして、業務の実態や病態を把握している主治医の意見を尊重すべきなのに、労基署は労働局の局医の意見だと称して補償を打ち切ってしまう。そうしてはならないと国会で答弁されているにもかかわらず、一部に乱暴な打ち切りが横行している。

この国会答弁も引用する。社会党(民主党)の五島議員によるもので、振動障害について述べられているが、やはり基本的な考え方は同じである。

衆議院社会労働委員会議録 平成2年4月24日

 
○労働省労働基準局長

先ほど来お答え申し上げておりますように、労災被災者に対しまして必要十分な補償を行うべきだというのが私どもの基本的な考えでございまして、振動障害者の場合でも、何年たったから当然打ち切るというようなことは全く考えておりません。ただ、医学的判断が重要でございますので、主治医の意見を尊重することを基本に、必要がある場合には局医協議会の意見を聞いて慎重に判断をさせていただいているということでございます。
…主治医の御意見と局医協議会の御意見が異なりました場合につきましては、なかなか微妙な問題でございますけれども、私どもとしては、多少時間がかかりましても両者の意見の一致が図られますように、必要な説明を主治医の方に私どもが行ってするというような努力をいたしているところでございます。

また、はり・きゅうの治療期間が制限され、労災打ち切りが横行した時期があったが、これに対しては大阪高裁で逆転勝利判決が得られた。そこでは「労災法1条に定める前記目的からすれば、療養補償給付は、単に業務上の事由により負傷し、または疾病にかかった労働者の負傷、疾病の治癒を図るに止まらず、それら労働者の体力を回復させ、できる限り職場復帰の実現を目指すべきものと解するのが相当」だとされている(平成6年11月30日 平成4年(行コ)第21号 療養補償不支給処分取消請求控訴事件)。また、「難治性の頸肩腕症候群及び腰痛症の治療期間が3年、5年、10年といった長期にわたることも、必ずしも珍しいことではない」。「日々の職業生活における労働過重による疲労蓄積、ストレス等の労働因子の長年にわたる累積的負荷から不可逆的に発症するに至った場合、右労働因子が精神心理的因子に日々累積的に多大の影響を与え、そのことが病像を複雑、難治なものにするということも、常識的に容易に理解し得ることというべきである」と判示されている。この判決が出された当時、それを読んで論理が明快だという印象を受けた。その後、じん肺・肺がんシンポジウムで知り合った関西労働者安全センターの片岡氏がこの裁判にかかわっていたことを知り、うれしく思った。

C.予防と健康配慮

疲労性の病気は、人生にとってつらいものであり、予防や再発防止に取り組まなければならない。労働省安全衛生部労働衛生課編で『職場における頸肩腕症候群予防対策に関する報告書』が出されている。作業管理・作業環境管理・健康管理という労働安全衛生の3管理に沿って予防策がまとめられているので、関係労使は参考にすべきである。

その健康管理のうち「職場復帰、配置転換等に際しての健康配慮」の項で、「頸肩腕症候群および関連疾病の治療中やその後の職場復帰、これらの既往ある者の配置や配置転換に際して、上肢等への負担によって症状が再発したり増悪したりすることがある。これらを防止するために、作業管理、作業環境管理の項にかかげた対策に特に留意するとともに作業量、作業時間について個別に、また、段階的に配慮していくことが望ましい」とされている。長期療養者が職場復帰する際には、段階的なリハビリ就労が必要なのである。


(社会労働衛生 Vol. 1-3,2003)



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