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頸肩腕症候群の『診断スケール』



渡辺 靖之
職業性疾患・疫学リサーチセンター 副理事長
芝大門クリニック 所長



診断、重症度診断は療養・治療の第一歩

頸肩腕症候群のチーム診療の中で医師の役割はまず診断することだと思います。

頸肩腕症候群という診断名を付けるだけならば、それは比較的簡単です。上肢作業者の頸肩腕症であって、頚椎椎間板症(頚椎症)、あるいは頚椎症性神経根症(頚椎椎間板ヘルニア)を鑑別診断すればよいだけですから。

しかしそうはいっても、そのための最低条件はあります。頸肩腕症候群の診断と重症度診断の仕方をある程度知っていること、および頚椎椎間板症(頚椎症)の診断知識・経験とを兼ね備えていなければなりません。

また比較的簡単なこと、といいましたが、頸肩腕症候群と頚椎椎間板症の合併している事例では、どちらがどこまでかという判断に結構難渋することはあります。その場合には、一度の診察では無理なので経過を追ってまた鑑別診断に着眼しながら診察し、画像検査(MRI検査)の助けも借りて、診断することが出来ます。

さて今私は、頸肩腕症候群の診断について述べ初めていますが、ここで「医師は診断するだけですか?」、「何か良い治療法はあるのですか。頸肩腕症候群はほんとうに治るのですか?」「何かもっと画期的な治療方法は無いのですか?」という質問が発せられるのではないでしょうか。実際にこの質問・疑問は毎日のように患者さんから発せられています。

そこで改めて言いたいのです。適切な診断こそ、療養・治療の第一歩なのです。このことをまず第一に言いたいと思います。

頸肩腕症候群に対しては、いわゆる特効薬や、これぞという治療法があるわけではありません。しかし重症度診断がきちんとなされれば、適切な療養区分の判断をすることが出来ます。すなわち重症と判断された場合には、休業休養や大幅な軽減勤務を指示します。それを基本にして薬物療法、受ける治療、自分でする治療法など、療養指導することが出来ます。

この療養・治療指導に沿って療養して行けば、頸肩腕症候群は必ず良くなるはずの病気なのです。

重症難治化した頸肩腕症候群の場合でも、休業休養開始して一定期間は休養初期悪化現象が見られ、その後は低値の安定期、そして上向きとなりリハビリ時期がやってきます。そしてそれなりの社会復帰は必ず成し遂げることが出来ます。

繰り返して強調しますが、診断というのは療養・治療の第1歩です。適切に行われた診察室での重症度診断はそれだけでまず、治療の第一歩と言っても過言ではありません。


頸肩腕症候群の鑑別診断:

さて、上肢作業者の頸肩腕症は、「頚椎症」でなければ、ほぼ頸肩腕症候群と診断することが出来ます。

手根管症候群・腱鞘炎(茎状突起痛)・上腕骨内外上顆炎・肩関節周囲炎(四十肩)・胸郭出口症候群など「限局性の整形外科疾患」は、頸肩腕症候群の一部分症であることが多いのです。

ただこの中で、肩関節周囲炎については判断が難しいこともあります。頸肩腕症候群の休業休養中に急に起きた肩関節周囲炎は偶然の合併症と考えたほうが良い場合もありますし、また発症の時期がはっきりとせずに肩関節運動制限が出現した場合には頸肩腕症候群の結果としての関節拘縮と考えられます。

また心療内科や婦人科で、「自律神経失調症・不定愁訴症候群・更年期障害」と診断されたが十分な納得の行かないひとの中にも頸肩腕症候群(職業性の慢性疲労・慢性痛・自律神経失調症)である可能性があります。

重症度診断はまず社会生活活動障害度で:

頸肩腕症候群は全般的な「慢性疲労、および慢性痛」による機能障害を主体とし、それにさまざまな局所障害も加わった病気と考えられますので、その重症度は、まず社会生活活動度という全般的なスケールで判定するのが良いと思われます。

そのスケールとして、私は「慢性疲労症候群」の程度表を借りるのが良いと思います。

頸肩腕症候群や非災害性腰痛症などの過労性疾患とはまったく異なる病態、まだ原因不明の疾患ではありますが、「慢性疲労症候群」の「社会生活活動度の程度表」は非常によく練られて作られた診断スケールだと思われます。

それを表1に示します。


表 1

疲労倦怠感の程度 (米国CDC作成  1988年)

0:

倦怠感がなく平常の生活ができ、制限を受けることなく行動できる。

1:

通常の社会生活ができ、労働も可能ではあるが、疲労感を感じるときがしばしばある。

2:

通常の社会生活ができ、労働も可能ではあるが、全身倦怠の為、しばしば休息が必要である。

慢性疲労症候群はこの範囲内(PS 3〜9)

3:

全身倦怠の為、月に数日は社会生活や労働ができず、自宅にて休養が必要である。

4:

全身倦怠のため、週に数日は社会生活や労働ができず、自宅にて休養が必要である。

5:

通常の社会生活や労働は困難である。軽作業は可能であるが、週のうち数日は自宅にて休息が必要である。

6:

調子の良い日には軽作業は可能であるが週のうち50%以上は自宅にて休息している。

7:

身の回りのことはでき、介助も不要ではあるが、通常の社会生活や軽労働は不可能である。

8:

身の回りのある程度のことはできるが、しばしば介助がいり、日中の50%以上は就床している。

9:

身の回りのこともできず、常に介助がいり、終日就床を必要としている。


頸肩腕症候群の多軸的重症度診断

頸肩腕症候群の重症度診断は、問診や他覚的所見によって総合判断されます。

そのための「スケール」はいくつでも、多くあった方が良いと思います。上記の「慢性疲労症候群」の程度表は借り物ですが、その一つです。

いくつもの「スケール」の結果を総合して頸肩腕症候群の重症度を判断する方法を、ここではとりあえず「多軸的重症度診断法」と名づけておきたいと思います。

これは日本産業衛生学会の頸肩腕症候群委員会の重症度程度表の方法とは、はっきり異なる新しい診断法として、ひとつの提案でもあります。

参考までに1972年(昭和47年)の日本産業衛生学会「頸肩腕症候群」委員会統一見解を示します(表2)。そこでは病像の分類という名で重症度分類を試みていますが、症状の発現順に度数が強まって行くように記載されていますが、必ずしも臨床経験に合わない点も少なくありません。はっきり言えばこの程度表は臨床の実際の重症度分類には有用ではないと考えられます。

例えば、度の(ロ)の筋硬結・筋圧痛などの増強又は範囲の拡大、及び(ホ)の筋力低下、これらは良いのですが、このロ、ホ以外の諸点については通常の頸肩腕症候群では一般的にはほとんど認められる所見ではありません。

また度の手指の変色や腫脹については、そうした事例は今では反射性交感神経性ジストロフィーと考えられ、非常に特殊な続発合併症として扱われなければなりません。

度では、そういうことから度の症状が出揃うと考えるのはおかしいのです。

また度の情緒不安定や睡眠障害は事例によっては身体症状が軽度でも合併することもありますし、まったく別枠の症状だと思われます。思考判断低下が頸肩腕症候群の症状として出現することは普通では経験されません。

要するに本質的には多軸的と考えられるいろいろな要素を、一つの軸だけで処理しようとしているための矛盾であると考えられます。

さて以下に多軸的診断のための自覚症状・問診のスケール、及び他覚的所見のスケールを示します。



表 2

頚肩腕症候群定義と病像

(日本産業衛生学会 頸肩腕症候群委員会統一見解 昭和47年)

頸肩腕障害

一、定義

業務による障害を対象とする。すなわち上肢を同一肢位に保持、又は反復使用する作業により神経・筋の疲労を生ずる結果おこる機能的あるいは器質的障害である。ただし病像形成に精神的因子及び環境因子の関与も無視し得ない。従って本障害には従来の成書に見られる疾患(腱鞘炎・関節炎・斜角筋症候群など)も含まれるが、大半は従来の尺度では判断し難い性質のものであり、新たな観点に立った診断基準が必要である。

二、病像の分類

度 

必ずしも頸肩腕に限定されない自覚症状が主で、顕著な他覚的所見はない。

度 

筋硬結・筋圧痛などの所見がある。

度の症状に加え下記の所見が幾つかが加わる。
(イ)筋の腫脹・熱感。(ロ)筋硬結・筋圧痛などの増強又は範囲の拡大。(ハ)神経テストの陽性。(ニ)知覚異常。(ホ)筋力低下。(ヘ)脊椎棘 突起の叩打痛。(ト)神経の圧痛。(チ)抹消循環機能の低下。

度の所見がほぼ出揃い、手指の変色、腫脹、極度の筋力低下なども出現する。

頸腕のなどの高度の運動制限および強度の集中困難・情緒不安定・思考判断低下、睡眠障害などが加わる。

問診スケール

(1)産業衛生学会頸肩腕症候群委員会の症状調査表とそのスコア化

この症状調査表は頸肩腕症候群の症状が過不足なく網羅されていますし、調査や初診時の問診表として今でも非常に有用です。また以前からやっていることですが、スコア化して各表での点数、総点数を見るのも良い方法だと思われます。

(2)「慢性疲労症候群」の社会生活障害度表

前項で示したスケールです。これは頸肩腕症候群の場合にも社会生活障害度を直接的に問診するためにとても優れたスケールです。

(3)労災自己意見書

ある程度標準化されたフォーマットで(頸肩腕症候群の労災認定基準を意識して)書かれた労災申請用の自己意見書は、頸肩腕症候群の原因診断の最大の根拠となります。

他覚的所見のスケール

(1) こりの拡がり

「こり」を診察室で客観的に評価するというのは非常に難しく、それではカルテ記載も困難です。それで私はこりを調べるのではなく、「こりの拡がり」を調べるということに考えを変えました。「こりの拡がり」という概念です。

肩こりがよく見られる場所、そこは誰でも真っ先にこりを自覚する場所です。この部のこりの左右差を聞きながら触診して、弱い方を10点(基準点)ということにし、こりの強い方を10何点かに自己判定してもらう。例えば、ある事例でそこが左右とも10点にすると、肩甲部脇が10点、前胸部鎖骨の下は11点、腕(肘外側)は10点、腰部は8点で、ふくらはぎは6点というように。調べる定点を決めておきます。

こうするとカルテに「こりの拡がり」を記載できるわけです。また、診察室で患者さんの全身を調べることにもなりますので、患者さんの納得もえられます。時間的には、この診察法を標準化すれば、それほどの時間はかかりません。いそげば2、3分で出来ます。

ただし以下の項で述べる半身感覚障害やタッピングペインが広範囲に認められる場合には、「こりの拡がり」は調べずらいのです。

半身感覚障害の側は検査出来ないので感覚障害のない側だけで点数を付けます。すなわち半身感覚障害があるかどうかを診察時にまずチェックしてから、「こりの拡がり」を検査します。半身感覚障害有無の検出は瞬時に出来ます。

叩打痛(タッピングペイン)領域が広範囲であったり、叩打痛のポイントが数多い場合にも「こりの拡大」を調べるのはやはり困難ですから、この場合にも「こりの拡がり」検査はせず、叩打痛だけを調べてカルテ記載するのが良いのです。

(2)圧痛点(トリガーポイント)

「こりの拡がり」の検査というのは、筋・筋膜の触診というよりは、むしろ圧迫による「こりや痛み」の感じを自己評価してもらうものです。どちらかというと定点の圧迫検査でした。

一方、圧痛点検査というのは圧して調べるというよりは、検査者の触診によって被検査者の患者さんが自己申告によって、そこが痛みのポイントだという指摘することによってなされる検査です。ですから圧痛点検査は、圧する、押すというより、むしろ触診検査なのです。広い意味ではいずれも触診による検査ですが。

圧迫する、押すという診察手技による圧痛点検査では、検査者によってグイっと乱暴に押すドクターと、弱く押すドクターとの違いがあって、検査者による変動が非常に大きいという欠点があります。

また圧する定点を決めておくと他の部位は検査しない、出来ないという欠点もあります。これでは発展性がないのです。

「こりの拡がり」検査や次に述べるタッピングペインマップ検査に比べると、圧痛検査(トリガーポイント)は診察の実際上やカルテ記載上での重要性はかなり劣ります。

しかし圧痛点という概念は否定するつもりは全くありませんし、やはり重要な診察所見、他覚的所見であることには違いありません。

特にこり感が最も強く自覚しやすい部位である項部、背部ではなぜか叩打痛が現れにくいのです。ですから後頭骨下部や肩甲骨上部は圧痛点として検査することが重要となります。叩打痛が現われにくい理由としては、今のところ圧刺激に対して過敏になっている筋・筋膜、靭帯が深いところにあるからだと思っています。

(3)叩打痛検査(タッピングペインマップ)

上述した、「こりの拡がり」診察法を何年間かやって来て、その結果このこりの上に叩打痛が乗っかって現われるようだと分かってきました。

その現われ方は非常に多彩ではありますが、ある程度の法則性もあるようです。

例えば頸肩腕症候群の場合の多くは、こりが拡がってきて、慢性化重症化してくると、首とか、鎖骨の下大胸筋のところ、それから肘の内外側、背中にまわると項(うなじ)のところ、肩甲骨の脇のところ、下半身では殿部、大腿部、ふくらはぎ、膝の内側、三里のつぼのところ、いろいろ多彩ではありますが、こういうところに叩打痛圧痛領域が出てきます。

多くの場合には左右対称的に拡がってゆくが、人によっては片側だけに拡がる。

左右、半身に拡がる傾向が強くて、ほとんど全身に、正常なところがないくらいまで叩打痛領域が拡がってしまった患者さんもおられます。全身に拡がる、という場合には徐々に拡大するというよりも、一気に拡がるようです。カタストロフィー現象も推定されます。

診察で圧痛点検査をするために、全身をくまなく触りそして押してみるというのはたいへん時間のかかる作業ですし、顔や頭、首とか胸、脇、それに手の先とか足の先というのは触って探るというのはなかなか難しい場所です。それに比べ、叩くというのはわりと簡単なのです。

例えば乳房の周辺とか、腋下部や内股はきわどいですし、くすぐったいですから、あまり触っていると患者さんも嫌がりますが、叩打法のトントンだと、簡単に全身くまなく検査できます。

私の言う叩打痛の場合には、指の頭で軽く叩く叩打法・叩打痛ですから、これを私は再発見したつもりなのです。

叩打痛にも強弱はたしかにあります。軽く叩くだけで反射的に逃げたり、検査者の手を払い除けるぐらい痛みを強く感じる場合もありますが、多くの場合はそのようなことはありません。かなり強く叩いても痛みではなく、響くとか、不快だとか表現されることもあり、強くなれば痛みになりそうだと思われるケースもあります。

強弱は確かにあるのですけれども、その程度評価は困難ですし、客観的に表示することはできません。今のところは、はっきりした叩打痛の領域の範囲だけをカルテに記載するわけです。

叩打痛の現われるポイントは馴れてくると、すぐに大体分かるというくらい、好発ポイントがあります。そのポイントは、脊髄神経や末梢神経の支配領域とは一致しません。また拡がり方としては、まず左右対称の法則があって、左右対称的に出現してくるのが不思議なくらいです。また半身側の法則があります。例えば、何年か前の頚椎捻挫で右側の項背部に叩打痛が現れた患者さんでは、何年後の今回の腰痛でもやはり右側に叩打痛が現われます。

このような法則性があるということは、叩打痛の出現、拡大には脊髄や脳などの中枢神経系が関与しているらしいということの、ひとつの理由になると思われます。

叩打痛の認められる部位では、痛覚過敏と言ったらいいのかどうか、なんらかの組織の痛覚が過敏になっているということだけは確実です。

昔から整形外科の教科書にある叩打痛というのは、かなり強く骨に響くほどにドンドンと叩きまして、響いて痛いと骨の病気、昔は多かった脊椎の結核ですとか、今で言えば骨腫瘍とか骨の病気ではないかというのが整形外科教科書的な見解です。

叩打痛の「痛覚過敏」の疼痛発現組織は、いろいろな患者さんで調べて見ると、皮膚の痛覚ではないのです。

叩打痛領域の表在知覚は、触覚、痛覚、温度覚をよく調べてみますと、それぞれ鈍感のこともありますし、過敏なことも両方あります。基礎疾患の時期によっても異なり、急性期と慢性期とかいろいろな時期によっても違うかもしれません。

では、どの組織の痛覚過敏なのかということなのですが、指先で軽く叩いて検査しているのですから、一番表面にある筋・筋膜から一番深いところの筋・筋膜まで多数重なって階層があるわけですが、その比較的浅い階層の筋・筋膜を刺激しているのだという印象を持っています。

叩打痛領域は、筋・筋膜が乏しい指先や足の先まで波及することもありますし、また脊椎棘突起に上に見られることもあります。ですから、痛覚過敏になっている組織は筋・筋膜だけではなく、靭帯組織や皮膚組織も巻き込まれているだろうと考えています。

叩打痛の再発の問題ですが、いったんは改善して消えた叩打痛領域が、再発ではいきなりいっぺんにどっと再出現する傾向があります。この現象は、個々の筋・筋膜が記憶していたということは考えづらいので、脊髄あるいは脳の中枢に記憶されている「防衛反応」ということが考えられます。全くの仮説ですが、このことも叩打痛の中枢説の根拠のひとつです。

さてこの項最後に叩打痛領域のネーミングのことですが、叩打痛という言葉は日本の医学教科書には昔からありますし、もちろん英語でもドイツ語でもそういう言葉はあると思います。しかし旧来の叩打痛は、骨の病変の検出法ですから、今私が提唱している叩打痛とは違います。それで将来は他の国でのコンセンサスも得られるようにとネーミングを考えました。

診察して先ほどのような身体図の上に叩打痛の分布を描くことを、タッピングペインマップとして一つの診察法として確立したいと考えています。マッピング・オブ・フィンガータップペインでもいいのですが。日本語にすれば叩打痛領域検査法ということになるのですけれども。 

(4)半身感覚障害

はっきりした縦割り型の半身感覚異常は頸肩腕症候群の重症難治化のひとつのサインです。比較的珍しい他覚的所見ですが、このことに着眼してよく調べてみると、軽い半身感覚障害はそれほど少なくありません。

この症候も慢性疲労の進行に対するひとつの身体防衛反応と見ることもできます。

従来教科書的には、半身たてわり型の知覚障害(知覚脱失)は,神経学的にはヒステリ−障害のひとつとされていますが,ここでいう「半身感覚障害」はもう少し漠然とした知覚障害です。患者さんは「何か重い膜がかかったような不快な感じで,寒冷に敏感」であるなどと表現します。半身障害側の具合の方が,他側よりも悪いのです。

障害側の半身側では,こりの検査は困難です。痛覚過敏とは合併することもあります。

(5)頚椎、胸腰椎、肩関節運動制限

叩打痛領域が広範囲に及んでいる場合、筋・筋膜や靭帯組織はおそらく程度の差はあれ全般的に硬くなってくると思われます。

重症難治化した頸肩腕症候群の場合には、頚椎部、胸腰椎部、肩関節に関節拘縮が起きてくることは少なくありません。

私どもの経験では、頸肩腕症候群の経過中に肩関節が90度までしか上がらない、それも普通の四十肩、五十肩の経過ではないという患者さんが少なからずいます。

年齢も若いし、経過が違う。頚肩腕症候群の経過中に始まって初診時にはすでにみられたり、休業休養の経過中に出現してきた場合もあります。徐々に両側に起きるのです。

一側で、急性の場合には通常の肩関節周囲炎が偶然合併したと考えたほうが良いとおもいますが。

また頚椎の運動制限、胸腰椎の運動制限は軽重さまざまで、ほとんどの患者さんに起きている現象です。

頚椎運動制限は、これは患者さんによって制限される方向はいろいろです。オランダのある研究者は頚椎回旋制限に注目していますし、東京厚生年金病院整形外科のドクターは左右側屈の制限に注目しておられます。

私どもの臨床経験では、頚椎左右側屈が一番制限されやすいと思われます。その場合は、こりの強い側への制限のほうが強いのが普通です。再重症では全方向です。もちろん頚椎症は鑑別しての話ですが。

胸腰椎部の運動制限は、特徴があり、これは一番制限を受けやすいのは後屈です。

頚椎部、胸腰椎部、肩関節の可動域計測も急いで行えば数分で出来ますので、時々は行っておくべき検査法、診断スケールのひとつです。

(6)握力・背筋力測定

握力や背筋力は、毎回簡単に計測することが出来る計測値です。計測値の変動にはいろいろな要素があると思われますが、それはどんな計測値例えば血圧測定値の変動だって同じことです。

握力・背筋力計測値は、患者さんの症状経過と非常によく相関していると思われます。われわれの診療の実際では、最初の計測だけは指導して行いますが、2回目の診療からは患者さんが自分で計測して記入します。

これをいいかげんにやる患者さんはほとんどいないのではないかと思います。毎回ほとんど同じ数字という患者さんは今まで20数年間で2、3人だけです。そして逆にそういう患者さんには、またそれなりの問題があるかなと気づかされるわけですし、その記録にもなります。

毎回測ったものをグラフ用紙にグラフを作るのが一番良いのです。グラフにすると、症状経過と良く相関することがそれこそ目にみえて分かるわけです。

筋力発揮にはもちろん恣意は入る余地が大きいので、たいていの整形外科医からは意味が無い検査と思われているものなのですけれども、握力・背筋力は非常に大事な検査値なのです。高血圧の診療にあの血圧計がかかせないのと同じぐらい大事なことだと思われます。

握力・背筋力の他にピンチ力などの計測を増やすことについては、情報が増えるだけ良いということにはなりません。機器精度管理の面、継続した計測には面倒で不利という面があります。

局所障害診断

手根管症候群・腱鞘炎(茎状突起痛)・上腕骨内側上顆炎・上腕骨外側上顆炎・肩関節周囲炎(四十肩)・胸郭出口症候群はそれぞれに的をしぼって診断されなければなりません。

特に胸郭出口症候群は頸肩腕症候群の一部分症として非常に多く見られる病態であり、この病態が特に重い場合には、装具による治療や手術の適応の判断が適切になされることが必要です。(熊本大学整形外科の諸論文、ホームページなどを参照してください。)

検査所見

下記の検査はだいたい、いずれも鑑別診断のためであって、頸肩腕症候群の診断にとって特有の検査所見ではありません。

(1)X線・MRI検査:

頚椎症などの診断に有用だが、異常所見があっても頚椎症と確定して頸肩腕症候群を否定できるわけではない。頚椎症の診断も画像診断で行ってはならず、必ず診察所見によりなされなければならない。

(2)脳波、誘発電位:

頸肩腕症候群については何も分からない。

(3)筋電図検査(針筋電図、神経伝導速度):

頸肩腕症候群でも、胸郭出口症候群や手根管症候群で末梢神経圧迫が見られる場合には異常所見が認められる。

(4)筋硬度計、サーモグラフィー:

この二つの検査では、頸肩腕症候群の筋緊張の程度をある程度反映した結果が得られると期待できるので、今後検討して導入したい検査法ではある。

以上ですが最後に重ねて頸肩腕症候群の診断は、病名診断、鑑別診断、合併症診断も大事ではあるが、最も基本となるのは重症度診断であること、そのためにはいくつかの診断スケールによる多軸的な診断法によることが重要であることを強調したいと思います。

(社会労働衛生 Vol. 1-3,2003



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