椎名誠画像

 日本という国は、これまでもう随分長いこと経済成長拡大、発展というお題目のもとに、激しい勢いで海・山・川の自然を破壊してきました。私は子どものころ千葉の海縁の町に育ちましたが、そのころ既に行われていた大規模な東京湾の埋め立て工事を忘れることはできません。
 当時はなんだかこの町も騒々しくなってきたなあと思う程度でしたが、やがてそれが日本全国の自然風土を激しく変貌させてゆく、まさに禍々しい破壊の策のみなもとの一つであったということを知りました。気がついてみると日本中の海が川が山が、そしてもっと有体に言えば私たちの住んでいる町そのものが至るところ自然のものからより遠い姿へと変革工事の手を加えられ、変えられていったのです。
 これらの事柄のすべての最終目的は、詰まるところ「金」でした。海・山・川の改変工事には、いつもさまざまにもっともらしい理由が掲げられているのですが、突き詰めてゆけば常に金によって日本は強引に変形させられてきたのです。
 最近ようやく公共事業を中心に、これらの破壊的工事の監視・再考の話し合い等がなされるようになってきましたが、この硬直化した官僚主導主義の国づくりの中ではまだまだ本当の意味での民意が反映されたものになっているとは思えません。
 さて三番瀬の問題です。東京湾はとにかく今瀕死の重症患者です。私が子どものころ見ていた東京湾の埋立工事からさらに加速度的に激しくその肥沃なしかし脆弱な海洋世界は壊され続けています。私たちの次の世代へまた新たな悔恨を残さないようにも、ここで歯を食いしばってこのことの是非をしぶとく間い続けていく、いまがその時であろうと考えます。(1998.9.1)