10/30(日)

【去りゆくアフリカの大地】

ナイロビに着くかなり手前から、ずっと外の景色を眺めていた。人家の近くを通ると、人々は必ずこちらを向いて列車を見送る。子供達は手を振ってくる。少し見晴らしの良いところに出ると、ダチョウが歩いているのが見え、それからキリンも姿を現した。どこか小さな国立公園かもしれない。もう一度サファリに行きたい気持ちになる。列車はまた次第にまばらな人家を映し出し、やがてナイロビに到着した。

市内に咲き誇るジャカランダ

ナイロビ駅に荷物を預け、ケニアに来た初日に泊まったホテル・ニュースタンレーでゆっくりと朝食を摂った。今日の予定は何もない。ただのんびりとナイロビで過ごすつもりだ。

しばらく市内をぶらぶらしてみる。今日は日曜日なので、銀行や店はほとんど閉まっていて、町は静かだ。そのまま歩いて、少しはずれにあるセントラルパークへ向かう。この時期はジャカランダの花が咲き誇り、市内を紫色に染めていた。日本の桜とよく似ていて、とてもきれいだった。

セントラルパークのオブジェ

セントラルパークで本を読んでいると、男が話しかけてきた。「俺はお前をよく知っている。今、俺の友達が事故に遭って大変なんだ。力を貸してくれ、知り合いじゃないか」としきりにわめいている。僕はもちろん、そんな男は見たこともなかったので、「NO」と言ってその場を立ち去る。ほんとに事故だったら、明らかに外国人旅行者風情の僕じゃなく、周りにいくらでもいるケニア人に頼むでしょうに。

暑くなり、のどが乾いてきたので、喫茶店に入る。また本を読む。ここで読んでいたのは、遠藤周作の「何でもない話」という短編集。遠藤氏の作品は旅行の時たいてい1冊は持って行く。異国で読む遠藤周作は何か独特の雰囲気を感じさせてくれるので好きだ。今でもこの作品を読み返してみると、ナイロビのあの喫茶店の空気を思い出す。

昼を過ぎ、そろそろ空港に向かう時間が近づいてきた。預けてあった荷物を取りにナイロビ駅に引き返し、そこでしばらく休んだ後タクシーを拾って空港に向かった。パキスタン航空のカウンターの近くで降ろしてくれと言ったはずだったが、降りて歩いて行ってみると、全然別の場所にあることがわかった。あの運転手め、許さん!

手続きを済ませて搭乗口に向かう通路には、ライフルを持った軍人が何人も立っていた。慣れない光景に少し緊張して通り過ぎる。それにしても、これでアフリカの地を離れることになる。滞在したのはわずか1週間。アフリカの水を飲んだ者はアフリカに帰る、と言われているが、僕もたぶん、またここに帰ってくるような気がする。サファリはやはり素晴らしかった。あの動物達、そして地平線に沈む夕日を、もう一度見ずにはいられない。

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