【コンパートメント】

駅に列車が入って来た。あれが僕の乗る夜行列車だと、アモスが教えてくれた。じゃあこれで、と彼ら2人が席を立つ。チップをかなりはずんでお別れした。終始笑顔の彼らと過ごした時間はとても楽しかった。

ナイロビ駅の構内に入る。チケットを見てみるが、席名が書かれていない。シートを予約してあるはずなのに、と思いよく見ると、小さな字で片隅に数字が書かれている。数字らしきものはそれしかないので、とりあえず該当すると思われる席に行ってみると、誰かがもう座っていた。通りがかった乗務員に聞いてみると、席名はチケットには書かれておらず、構内の掲示板に張り出されている紙に名前と席が書いてあるということだった。なるほど、そういうシステムなのか。確かにチケットにある数字は発行番号のようなもので、どうみても席名には見えなかった。

いったん列車を降り、張り出されている場所へ行ってみた。あるある、確かに名前と席名が書いてある。じっくり確認してから、再度列車に戻り、今度こそ正しい席にたどり着いた。席はいわゆるコンパートメントというやつで、区切られた小部屋に2人分の席がある。僕の部屋にはもう一人、ヨーロッパ人らしき若い女性が既に座っていた。お、この人と一晩過ごすのか、ラッキー!などと思っていると、その女性は僕が入ってくるなり困惑した表情を見せ、席を立つと乗務員に何か抗議を始めた。たぶん、男女同室というのはあり得ないので、何か手違いがあったのだろう。乗務員が手続きを行っている間、その女性と少しだけ話をした。でも彼女はまだ少し興奮気味で、早口にまくしたてるようにしゃべるため、ほとんど聞き取れない。しばらくすると手続きが完了したのか、彼女は部屋から出て行った。

一人になり、少しぼおっとしていると、ドアをノックする音がした。開けると乗務員が立っていて、今日のディナーの時刻を知らせてくれた。まだ風邪気味で食欲がなかったので、夕食は要らない、毛布だけ持ってきて下さい、と答えた。チケットを買う時、食事と、毛布の貸し出しをそれぞれオプションで選ぶことができ、値段も変わってくるのだ。食事付きの値段で買ったので、これをパスするとまる損なのだが、やはり食べる気にはならない。その乗務員は怪訝そうな顔で去ってゆき、毛布を持って来てくれた。

コンパートメントでは結局一人で部屋を専有することになり、かなり快適に過ごすことができた。夜の7時に出発したので、もう景色は何も見えない。ディナーの替わりに、買っておいたジュースやお菓子を少し食べ、ゆっくりと本を読んで過ごした。まだ体はだるく、少し熱っぽかった。

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